16. 思惑と策略
「さぁ、今夜も始まりました!おまちかねの『スターライトでgo!』の時間です!」
「今夜は何が起きるのか、楽しみですね!!」
「わざと起こさないでくださいね」
「ははは、2人は相変わらずだなぁ」
「ではさくっと最初の企画からいっちゃいましょう!VTR、どうぞ~」
軽快な音楽とともに、最初の企画の紹介が流れてくる。私は体育座りでぼーと画面の向こうの彼を目で追っていた。
スターライト──。
国中で知らない人はいない、アイドルグループだ。顔よし、歌よし、ダンスよしの彼らは絶大な人気を誇っている。コンサートチケットは数分で完売、ファンクラブは軍より厳しい戒律があるなど、超超すごいアイドル集団だった。
「お次は新企画です!今から発表しま~す!!」
「僕たちも詳しいことはよく知りません!!」
「このボードのあみだくじで決まるそうです」
「それぞれの名前を書くみたいだな」
「どこに書く?」
「何だろうな、これ」
題名が隠されたあみだくじの上にわいわいと彼らは名前を書いていく。書き終わった後は、リーダーの手で隠された題名とご対面をした。
「新企画!『アイドルミッション!!』……なにこれ?」
題名を読み上げたリーダーは小首をかしげた。
「えーと『アイドルとしてさらに発展するために、5人には別々のミッションを与え、極めてもらう』だそうです」
差し出された紙を副リーダーが読むと、メンバーは口ぐちにコメントした。
「へぇ……?」
「別々のミッションって」
「なんか嫌な予感がする」
「じゃあ、最初にオットーからいこっか」
あみだを辿り、オットーの下に書かれていたのは、
「『舞台役者で演技力を極めよう』です!」
「へぇ、面白そう」
「意外と普通だった」
「いや、これがよかっただけかもしれん」
スターライトのメンバーは次々にあみだくじに書かれたミッションに一喜一憂していく。そして、
「クリスは『声優で表現力を極めよう』です!」
(なるほどこれが原因か)
キャスト表の空白は、スターライトのメンバーの誰かってことだったのだ。私は一昨日あったことを思いだしながら、引きつった笑みを浮かべた。
(どうしてこうなった)
挨拶早々、プロデューサーが「スタジオ見学がてら、教えて差し上げろ」という言葉により、事務所のスタジオにクリスを連れてやって来た。プロデューサーはアレックスさんと話があるらしい。
しかし警戒心なさすぎじゃないか?クリスは超絶人気アイドルだ。女の私と2人っきりなんて何か起こったらとか考えないのだろうか。……ないと判断されたんだろうな、ちくしょう。
「レコーディングとかされますよね?アフレコ現場もあまり変わらないんじゃないかなーって思いますけど」
「まぁ、そうですね」
「こっちの画面を見ながらタイミングを合わせてセリフを言うのですよ。最初は早いなーって感じるけど、慣れていくので大丈夫です」
「そうですか」
(やりずらい)
クリスは相づちしか打たず、向こうから話してくることはないので一方的に私が話すだけだった。もっと会話に乗ってよ。沈黙になると気まずくなる。空気読んでお願いだからアイドル仕事して。前世ではけっこうしゃべってたじゃん。ほとんど腹立つようなことだったけど。
「クリスさんは、」
「クリスで構いませんよ」
今まで無表情だったクリスが不意に笑う。その笑みは、かつてを思い出させ私の心臓はドクン、と鳴った。一瞬で変わった空気に私はぎくりとする。彼はやれやれ、と首を振った。
「ひどいですね、あなたって人は。予想はついていましたが」
「えっと、私何か気に障るようなことでも」
「まだ知らない振りするんですか?」
一歩、一歩。私に近づくクリスとその迫力におされて後ずさる私。進路が絶たれたのはもちろん私だ。気づいたら背中には壁、顔の横には彼の腕があった。壁ドンなんてネタだと思っていたけれど、うん、これはドキドキするわ。たぶん別の意味で。緊張感が高まってきたとき、
お久しぶりです。────サラ、隊長。
耳元でささやかれた言葉に私は目をみはった。驚きで反応が遅れる。まずい、動揺がばれた。
「……なっ!私は」
「隠しても無駄ですよ、サラ隊長が僕に嘘つくなんて百万年早いです」
クリスの口元はにやりと笑っており、その瞳は逃さない、とばかりに鋭さを秘めていた。こうなったクリスに言い訳はきかないだろう。どうしようかと考えあぐねていたとき、
『パシャリ』
緊張感のない音が私の耳元で鳴った。待て、この音はまさか。
「わぁー。よく撮れてますね」
「──!?」
クリスは反対側の手でスマホを持っており、私にさっき撮った写真を見せてきた。クリスが私にせまっている……写真に見えなくもない。
「ちょっと何やってんの!?」
「こうでもしないとあなたは素直にならないと思いまして」
彼は一呼吸置き、
「『スターライトのクリス、熱愛発覚!?お相手は人気声優!!』なんて記事の週刊誌をばらまかれたくなければ、携帯番号を教えてください」
低い声でそうのたまった。笑顔だけれど、目は笑っていない。
(や、やられたーーーーーー!!)
そう思ってももう遅い。私は泣く泣く携帯番号をクリスに明け渡した。




