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パレットはもういらない  作者: 真咲 透子
『恋のメロディーを聴かせて』グレン編
13/30

13. 恋のメロディーを聴かせて(中)

「……落ち着いたか?」


 しばらく頃合いを見て、グレンさんが声をかけてくれた。


「すみ、ません。一度泣いてしまうと、止まらなくなってしまうので」

「……そうだったな」


 グレンさんはつぶやくと、やさしく私の涙をぬぐう。そしてそのままするり、と頬をなでた。突然のグレンさんの仕草に一瞬止まった。あ、なんかやばいかも。泣いていくぶんか冷静になった部分でそう思った。


「……っ」

「なぁサラ、お前本当は──」


 やばいやばいやばい!サラ=アベカシス、人生最大のピンチ到来!!


 今何聞かれても絶対ごまかしきらない。そう思って体をこわばらせ……。



「サラ!迎えにきてやったぞ。さっさと支度しろ!!」

「ぷ、プロデューサー!!!!」


 乱暴に開けられたドアの先には、人間の皮を被った魔王がいた。あ、別の意味で死んだかも。殴りにくるかなーと構えていたら、プロデューサーはグレンさんに向き合っていた。


「これはこれは、クラリス先生。いつもサラがお世話になっております。今日もサラに付き添ってくださったみたいで、ありがとうございます」

「いえ、私は別に」


 プロデューサーは笑顔だった。グレンさんに対する対応もとても丁寧だ。だが、なんでだろう?逆にその笑顔が怖かった。


「今日の収録は、うちのサラが申し訳ありませんでした。ここからは私が彼女を引き取りますので……」

「そうですか。では、私はこれで」


 グレンさんはあっさり医務室を後にした。プロデューサーは苦い顔で「まさか」だの「危ねぇ」だのぶつぶつ呟いていた。


「プロデューサー?」

「おう、サラ。とっとと帰るぞ」

「はぁ」

「なんだよその顔」


 プロデューサーのことだ。今回のことについて何かしらお咎めがあると思っていたのに。普段のプロデューサーからして、会って早々


「殴られるって思ってた……」

「あ?」

「…………あ」


 しまった、口に出ていた。しかし時すでに遅し。魔王は私の目の前で口角を上げた。


「倒れた奴を殴るほど、俺は鬼ではないんだが、そうか。お前にとっての俺はそういう奴だと思っていたんだな」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「もしかして期待させちまっていたか?それはそれは……悪いことをしたな」

「………………っぐ」


 プロデューサーは私の頭を鷲づかみにし、デコピンをした。プロデューサーのデコピンは頭どころか脳への衝撃がハンパなく、痛いお仕置きベスト3に入る。


「ったく。お前って本当マゾだな。早くしないとそこに縛り付けて置いて帰るぞ」

「帰ります帰ります帰ります!!」


 恐ろしいことを吐き捨てたプロデューサーの後を慌てて追う。いつもは早歩きなプロデューサーだったが、心なしかいつもより遅いような気がした。


「今日の収録の続きは後日抜き録りする」

「はい。すみませんでした」

「やっちまったことはしょうがねぇ。次に求められることは多くなるから気張れよ」

「はい……」


 プロデューサーは今日の収録について、それ以上何も言わなかった。


「あー。なぁ、サラ。そのなんだ、……クラリス先生と何かあったか?」

「へっ!?」


 代わりにこんなことを聞いてくるプロデューサーは珍しく歯切れが悪かった。


「何かって、何がですか?」

「あ~。そうだな……」


 プロデューサーは私の顔をしばらくのぞきこんで、はぁ、とため息をついた。


「…………何かあるわけないか。色気も足りねぇこんなちんちくりんのガキに」

「はぁ!?ちんちくりんって!!何なんですか!?」

「ガキは帰って飯食って寝ろ。余計なこと考えずにな」

「プロデューサー、絶対私のことバカにしてますよね?」

「バカにしてない時なんてあると思ってんのか?」

「うわっ即答ですか!?」


 そこからはおなじみの流れとなった。倒れた奴は殴らないの宣言通り、私はげしっと足で蹴られた。


「ちんたら歩いてんじゃねぇ。さっさと行け」

「なんか釈然としない……」


 口も手も悪く唯我独尊を地で行く恐ろしい魔王なプロデューサーだが、私のことを気に掛けてくれていることは知っている。さっきのデコピンだってあまり痛くなかったから。


「何かある前に俺に言え」

「はい」


 私はもう少し頑張って、この人について行こうと思うのだ。


 この日はプロデューサーの言葉通り、家まで送ってもらった後は何もせずにすぐに寝た。いつもの夢はもう見なかった。

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