8話 東の砦
また説明回です。初めての普通の人だから質問責めにしちゃうよね
「なんだこの肉は……!?口にいれた瞬間に感じる芳醇な香り………噛むと広がるこの肉汁と旨味……こんな旨い肉は食ったことがないぞ!!!」
「わっ、もうなくなる!?ちょっと二人ともニヤニヤ見てないで手伝ってくださいよぉ~」
さっきまで爆睡していたイルだが夕飯の準備が出来たのでリンが起こすと、肉の焼いた匂いに誘われたのかふらふらと肉のもとへ行き食べ始めた瞬間これである。リンが泣きそうな声をあげてせっせと給仕しているが、かわいらしいのでほっとく。
そんなことより、今イルが食べている魔狼の肉が問題なのだがそこはテキトーに誤魔化す。
「森の獲物を熟成させたやつだよ。まだまだいっぱいあるからどんどん食べて」
「ありがたい!!!!かぁーっうまい!!生き返るな!!」
「ははっ、元気そうでなによりだよ」
イルは今、金髪の長い髪をポニーテイルにし、鎧を脱いでいるので黒のぴったりとしたアンダーシャツに麻のズボンというかなりラフな格好である。そうすると必然的に体のラインがよく見えるわけだが、センリはチラリとみえるうなじ、アイラとリン程ではないがきれいなほど良い大きさの胸、きゅっと引き締まった腰のくびれに目を奪われそうになったので、慌ててリンを見て楽しんでいるアイラを凝視する。
そういえば、アイラはレベルが上がったのだろうか。確認したいが、スキル制がこのレメリサスで一般なのかもわからない中話すのははばかられる。なのでイルが肉に夢中になっている間、念話で話すことにする。
『アイラ、戦闘後にレベル上がった?』
『ん?……あぁ、レベルと後方支援が上がったよ。その様子だと二人も上がったのかい?』
『うん、アイラ何体くらい倒した?オレは100からは数えてないんだけど……』
『そんなにいたのかい!?はぁ~ホントに無茶したねぇ。あたしはせいぜい60くらいだね。』
『やっぱりか……たぶん、経験値制ではないよこれ。なんていうか……大きい出来事を越えた報酬って感じかな?』
大きい出来事といっても判断基準がない、レベルが上がっているらしいがいくつなのかわらかない、など不確定要素が多岐にわたるので要検証であろう。センリは少しイルに探りをいれようかと考える。
『なるほどねぇ。じゃあこれからはどんどんこんな大きなヤマに突っ込むのかい?』
『んー、まぁなるべくやりたくないけどね。オレとしては最終的に二人と暮らしt……』
「センリ!!肉のおかわりはあるか!?」
「…………あるよー!!!涎たらして待ってろ!!!」
「くふ、いってらっしゃい」
(くふふ、しかしあんな凝視してまぁ……時間の問題かね、くふ。)
と、素晴らしいタイミングでのおかわりにむっとしているセンリを見て、色々と楽しそうにしているアイラであった。
しばらく食べ続けたイルはやっと落ち着いたのか、マグカップにリンお手製の野生ハーブティーもどきを飲んでゆったりしている。リンとアイラは生活魔法で食器や戦闘の汚れを落としていて手が空いていない、しかしイルは今にも寝そうなので慌てて話かける暇センリ。
「っと、あのさ、イル。色々と教えてほしいんだけども。」
「んぁ、あぁ、この第一討伐部隊の隊長であるイルネスタがなんでも教えてやるぞっ」
「あはは……ありがたいよ。じゃあまずオレらの強さってこの国でどんなもんなの?」
「なんだ、そんなことか。んん、私の知る限りでは相当な強さだろうな!!私も一応ラドムアでは強いと自負していたが……あんなでたらめな強さ見たことがない」
「あー、……うん。じゃあ次、道具や武器とか生き物以外収納できるスキルってあるの?」
「あるぞ。イベントリのことだろう?まぁ魔力量に依存するみたいだから誰でも使えるって訳じゃないがな」
「へぇ。ってことはスキル制なのか……」
「ああ。訓練によって習得できるスキルが職業スキル、先天的に持っているものが固有スキル、日常生活につかうようなものが凡庸スキルとされているな。もっとも、本人の向き不向き、発現する時期、レベルが上がらなくてもスキルの熟練度は上がる、複数のスキルをマスターすると上位職が発現する、など様々であまりよくわかっていないのも多いがな。」
(上位職……絶対オレらのだ……これは晒すのはレンジャーだけにしといた方がいいかな……)
「なるほどなるほど。レベルってのは?」
「レベルも諸説あるんだが、今一番一般的なのは、その本人が何のために事を為すのかが重要とされてるらしいな。まー要するに良い事やっていい経験ができればいいんじゃないか?ちなみに私は魔香器で囮やった時に上がったぞ。」
探りを入れるとか言っておきながらがっつり質問しているのは気にしないとして、概ね問題はなさそうに思える。ただ、ウェポンマスターなど強力なスキルや、熟練度の度合いは今後注意が必要だろう。あとはどれだけ上手く隠せるかだ。
「ふむふむ、なるほどね、ありがとう。またなんかあったら頼むよ」
「あぁ。私は何も詮索もしないし言いふらしたりしないが、砦に戻ったら東部防衛司令官に質問責めにあうことを覚悟しておけよ。今のうちになんか言い訳考えておけ。はっはっはっはっ!!」
バレバレであった。
「あははは……ち、ちなみに強いって言われる人の熟練度はどんなもん?」
「む、一般的にはあまり人に言うものではないから気を付けておけよ。なにせハンターとかはそれで食ってるからな。で、東西南北の砦に一人ずついる司令官達上位職持ちで化け物ぞろいでな、パラディンⅤ、ソードマスターⅤ、エリートスナイパーⅥ、アークウィザードⅤ。そして、首都ラドムアの総司令はなんと……ウェポンマスターⅦだ!!」
「「「なっ……」」」
「おっ、さすがのお前らもウェポンマスターは知っているみたいだな。この5人は少しでもこの国の希望になれば、とスキルを公開しているんだ。ちなみに東部防衛軍第一討伐部隊の隊長として私も公開しているぞ。パラディンⅢだ。」
(おいおい、最強一歩手前じゃないか……あーでもオレらがこの国でスキル的には最強か……経験ではまだまだだけどね。)
ふふん、と誇らしげなイルを前に、こっそり聞いていたアイラとリンもこの国のスキル基準と自分達の差に驚いた。しかし、センリはそのような猛者達は自分よりも膨大な経験を積んでいるはずで、最強のスキルにあぐらをかいていては、逆立ちしたって勝てるわけがないと考え、気合いを入れなおす。戦うつもりなんてさらさらないのだが。
と、1人で考えていると、イルがうつらうつらとしてきている。満身創痍で逃げ回ったんだそりゃ疲れるよなと、思い今日は切り上げる。
「まだ本調子じゃないのに色々手間かけて悪かったね。さぁ、日の出と共に明日は砦を目指すよ。大体歩いて1日くらいだろ?話は明日の移動中にでもして、見張りはオレらでやるからリンはもう休んでてくれ」
「んぁっ、………ああ、もう今回はその好意にあまえておくよ……おやすみ」
「ああ、ゆっくり休んでくれ。」
翌朝、各々が身支度を終え出発をする。騎乗したイルを中心として左右にリンとセンリ、後方にアイラという位置で早歩きほどのスピードで進んでいく。魔狼の森を出て、魔物との戦闘があった場所まではは平坦な草原であったが歩いて2時間もすると緩やかな坂道が増え、丘陵地のような雰囲気になっている。
割と急な傾斜のものもたまにあるので、生半可な体力では何日かかるかわかったものではない。
「このペースで本当に大丈夫なのか?私は騎乗してるからいいが……それに護衛がいざとなったときに動けないとまずくないか?」
急な坂が続いていたのにもかかわらずあまり休憩をとらない為、イルは心配してそう声をかけるが、全員身体強化Ⅹをもっているので実際全力で走ってもいいくらいなのだ。またテキトーに誤魔化す。
「森で育ったからね。こんくらいじゃなんともないさ。ほら、3時間はたってるけど息上がってないだろ?」
「うむぅ……言われてみればそうだな……いや、砦の兵達にも安全地帯で持久走をやるのだが、まだまだだな。よし!帰ったら持久走の距離を増やそう!!!ぜひとも暇な時にセンリ達も付き合ってくれ!!!」
「お、おう……暇だったらな……」
(ごめん………どこのだれか知らないけど、砦の人ごめん……)
またぶっつづけに2時間は歩く。
今までの丘より一際急な傾斜の坂を越えると、目の前いっぱいに壁が現れた。
高さ20メートル以上はある石壁に、石壁に沿って続いている幅4メートルの濠、堅牢そうな門扉、そしてなによりも驚きなのが石壁の終わりが見えないことだ。それほどまでに巨大な建築物は見たことがなかったのでセンリ達は揃いも揃って開いた口が塞がらない。
「はっはっは!!はじめて見たやつは一様にそんな顔するなぁ!それで、次にはどうやってつくったかの質問だ」
「え……これ……どうやってつくったの……?あっ」
「ほらな。んー、東西南北に砦があるのは知っているよな?ちょうど首都ラドムアを正方形に囲む形で。人の手、魔法、様々な種族の力を借りて、何千年という時間をかけ大規模な城塞国ができんだ。ということくらいしかわかっていない……」
「……ん?」
「いやそれが、度重なる魔物の侵攻で記録が多々失われていてな……今やエルフとドワーフに伝わってる設計図しかないんだ。まぁ、詳しいことは中で話そう!」
確かに眺めてたって砦にはつかないよなと、苦笑をし、動きだそうとしたら、アイラとリンが、ガシッとセンリの両脇を固め、
「そうだねぇ、あたしもそろそろ腹がへったよ」
「あ、私もです!そろそろお魚もたべたいなぁ!ほら早くいきましょうよ!!」
と言いながらも直後に念話で…………
『必要だとはいえ、いままでないがしろにされてたんだ。覚悟しときな……』
『うふふ、私に給仕させてセンリさんは楽しく女性とお話ですもんね。いえいえ、必要だったのはわかってますから。後でたっぷり頂きます』
センリは道中ほとんどずっとイルと話していたのを隣で、後ろで見ていてちょっと思うところもあったのだろう。それに、初めての嫉妬ということもあってなかなか感情のコントロールができないらしい。
そんなことはセンリにわかるはずもなく、言葉とは裏腹にどすぐろいオーラを漂わした二人に引きずられていく。
『待て、話せばわかる、必死だったんだよおれはぁぁあぁ』
「あっはっはっは!!そんなに腹が減ったのか!!よし、旨いもんをたらふくごちそうさせてくれ!」
そしてセンリは、イルってきっと脳みそが筋肉のひとなんだなぁと、ぼんやり考えて現実逃避に旅立っていた。
ストーリーの進みが遅いかな、と自分で感じるのですが、次からはどんどん進むのを意識した方がいいのか…………
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