6話 嵐の前
キリがよかったんでちょっと短めです。
翌朝。
『見つけた!こっちきて!』
センリはお目当てのモノを見つけ二人に念話をする。
今居る場所は金目の物を保管しておく場所なのか、金銀財宝がたっぷりと置かれていて、隅っこに細長い壺に束で入っていた紙束を発見。
それを1枚ずつ机に広げ確認し始めるが……
「今が魔狼の森の岩山だから……西にまっすぐいけば……いや、南?どっちが街道にでるのかな……まぁいいや。わかる人にまかせよーっと」
センリは自他共に認める方向音痴なので、自分からは先導しないと決めているのだ。そうなると、二人が来るまでに手持ち無沙汰になってしまったので色々と振り替える。
(昨日は思ったよりもぐっすりねれたなぁ)
昨日の夜――
血だらけの格好を生活魔法で一瞬にきれいにし、比較的キレイな部屋にベットがあったのでそこで寝ることにした。問題はやや大きめのベットが一つだったことぐらいか。その日センリは二人と離れたくなかったが、自分からいうのもこっぱずかしい。
「じゃあ、オレは別の部屋で寝るから二人でそのベット使ってね。じゃ……」
部屋を出ようとすると今までに見たことがないくらいの素早さで、アイラとリンがガッ!!っとセンリの両脇を固める。
「おいおいおいおい、そんな不安げで寂しそうな顔してどこいくんだい?」
「なんか……その顔……小動物みたいできゅんきゅんしちゃいます」
そのままズリズリとベットに運んで行きセンリを放り投げる。
「ぶべッ!……小動物って……どんな顔してたんだよオレ……情けねぇ」
「ほら、真ん中によらないとあたし達が寝れないじゃないか。ただでさえ狭いってのに」
「んー、私左側行きますね。……よいしょっと」
自分の情けなさに大の字で脱力しているセンリの左右の腕に柔らかい感触とふわりと鼻をくすぐるいいにおいがやってきた。なんでこんないいにおいするんだろうなぁ女の子って、といつも思う。
そう考えているといつのまにか二人を抱きしめていた。
「わっ」
「きゃっ」
「あー、なんでいいにおいするんだぁ……?あんな強いのに……こんな体も……柔らかい……し……」
「んっ……センリ……そこは……んぅ」
「ひゃぅ!……センリさん……急におしりは……あっ」
さらなる展開にドキドキしていると、一向に動きがないではないか。まさか、と思いバッ!と起きてセンリを見やる。
「かー……くー……」
「「……」」
はぁ、とため息をつきまた横になるしかなかった……ある意味お約束を裏切らないセンリである。
「まぁ、今日は疲れただろうし、しょうがないさね」
「この様子じゃ、明日あんま覚えていないでしょうけどね。今日はこのくらいで勘弁してあげますか」
センリの両頬にアイラとリンが軽くキスをする。
「「おやすみなさい……」」
センリは当然覚えてないのであった。(もったいないけしからん)
そして現在――
「こっちは全部回収してきたよ。金にステータスカード。残りの金目のもんはここだね」
「さらわれた方々のものも一応持ってきたしたので、別枠で保管しておきますね」
「ああ、ご苦労さま。それでこれなんだけど」
そういって一枚の地図を取り出す。
「おお!首都までの地図かい?でかした!」
「それに世界地図までありますね!一応高価みたいですからとっておいたんでしょうね」
製紙技術によって紙の価値は大きく変動するが、見た感じ地図は羊皮紙らしきものに描かれていたので地球のような技術はないと思われる。おそらく、行商の商人かなんかから奪ったのだろう。
「うん、それでさ。オレ方向音痴だから……えーと、じゃあ、リン!地図係に任命!ワ―パチパチ」
「へっ?はぁ、まぁいいですけど……」
あんまり納得していない感じで地図をイベントリにしまうリン。話題を変えようとセンリがすかさず話を進める。
「それで硬貨の価値なんだけどさ、ここにある商人の台帳を見る限るね……」
この世界は魔物に脅かされている為、各国がお互い協力をしている。討伐支援はもちろん、貿易などもさかんに行われている様で、通貨という概念がなく、全国の取引をより単純に迅速に行う為に全国の貨幣単位が同じであるらしいのだ。ルルーからリーンフェリア。リーンフェリアで加工された物がラドムア、レンパドールへ。その逆もまた然りである。
「それがリムっていうらしいんだけどね、この石貨が1リム、小銅貨が10リム、銅貨が100リム、銀貨1000リム、金貨が10000リムらしいよ。それでめったに使わないみたいだけど閃貨っていうのがあって、1000000リムなんだって。んで、パンが1個で100リムらしいよ」
「ほぉ、じゃあいったいこれはいくらあるんだろうね」
どじゃーざらざらーちんっちりーんとやっかましい音、小気味のいい音を立てながら大小色とりどりの硬貨をアイラがイベントリから取り出したようだ。
「わぁ……意外と金貨ばっかりじゃないですか!」
「こりゃいっきに大金持ちかねぇ?ほれ、かぞえるよ!!」
机の上にばらまかれた硬貨を必死に数える3人。数十分後……
「500万リム……です……か」
「こいつら……けっこうすごかったのな……」
「ったく、閃貨じゃないからかさばってしょうがないね」
硬貨だけでこの額となると、たくさんつまれている財宝は一体いくらになるんだろうか……。
とりあえず片っ端からイベントリに突っ込みセンリが持っておく。
「じゃあ、ひとり10万くらいにわけておこうか。足りなくなったらたらオレに言ってね。残りはオレがもっとくよ」
「あいよ、旅の道具も食料も今や十分さね。武器もおまえさんの以外は使いたくないしね。あぁ、でも服はこれだけってのもねぇ」
「あ、私も防具とかかわいい服とかあったらほしいです!」
「はいはい、どうせいっぱい歩くんだから歩きながらね。はい出発するよー!」
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しばらくして森を抜けるとまたもやだだっ広い草原に出るが、森の手前から草のない踏み固められただけの街道が延々と続いている。
「ふぅ、やっと森をでたー!森には結界があるから魔物がいないみたいだけど、ここからはたくさんいるみたいだね」
「そうみだいだねぇ……まぁ、襲ってきたら今日の晩飯になるだけさね」
「そうですね!あ、でもお肉ばっかじゃいけませんからね!ちゃんと山菜とかきのことかいっぱい採ってあるんですから!」
「うっ……あたし……やさい、いらない……」
「げっ……オレきのこ、無理……」
「却下!だーめーでーすー!!バランスよく食べなきゃ!!!」
和気あいあいと街道を進んでいく一行。策敵にも魔物の反応は見られるが、遠巻きに様子を窺っているだけで近寄ってこないようだ。またもやピクニック気分で進み、昼食も食べた頃であった。
「すっごい生臭い……あの、どうもきのこです!どう!?すっげぇきのこでしょ?ってくらいうざったいきのこの臭いが……」
「うあー……青臭いよぉぉぉいかにも健康です!って感じの野菜の苦みがぁ」
「はいはい、いつまでも子供みたいなこと言ってないでいきますよ!!」
「うぇーぃ……ッ!前方から猛スピードで近づいてくる反応?!敵ではないみたいだけど……」
策敵に急速に近寄る反応があった。しかし赤くはなく、敵対意識がないようだ。とりあえず全員戦闘準備を済ます。
「おや、そいつどうやらにげてるみたいだねぇ……」
「えぇ……後ろに敵さんがいっぱいです……」
「ああ、もうめんどくさい!!いったいいくついるんだ!?……助けるかどうかはともかく、殲滅はしとかないとこっちがまきこまれんな。とりあえず走るぞ!」
「「了解!!」」
街道沿いにしばらく走ると、謎の接近者が見えてきた。鎧を着た女性だろうか、兜はかぶっておらず金髪の長い髪をたなびかせ整った精悍な顔つきをあらわにしている。非常時だが馬に乗っている姿はまるで絵画の世界かと思うぐらい美しい。ところが、ところどころ傷が目立ち、おそらく折れているだろう左腕を力なく下げている。
ようやく向こうもこちらに気づいたのか一瞬驚いた顔をするが、すぐに必死に何か叫びだす。
「あー、きっと逃げろって言ってんだろうなぁ。しかしそういうわけにもいかないんだなぁ」
「えーと、うさぎにクマに……空飛んでんのはハチかい?全部とんでもないでかさだねぇ」
「アイラはあのハチを頼んだよ。50はいるけど……いけるよね?」
「はッ!私をなめてもらっちゃ困るよ!!任せときな。おまえ達は思う存分暴れてくればいい」
「わかってるよ、もとよりそのつもりだろう?リン」
「ええ!昼食後の腹ごなしには丁度いいんじゃないですかね!」
アイラはロングボウを持ち獰猛な目つきに変わり、リンは刀を抜いてウズウズしている。揃いも揃ってやる気満々の二人にクスリ、と笑いながら自分も両手にコンバットナイフを持ち、気合いを入れる。
「うっし!!!全員死ぬなよ!!行くぞッ!!!」
「「応!!!」」
一斉にスピードを上げ、もう十分に目視もでき、地鳴りのような足音が聞こえる魔物の集団に突っ込んでいった。
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