1話 鉛色の扉
初投稿です。よろしくお願いします。
夜、自宅に到着するとまずスーツやら鞄やらをいつもの位置に置き楽な部屋着に着替える。そして小さい冷蔵庫から缶ビールを取り出しテレビをつけると自分だけの時間の始まりだ。
時刻は23時ちょうど。まぁ、明日からひっさびさの3連休なので仕事もない、そればかりか予定もない。世のリア充とやらは休日には友人、彼女などと有意義に過ごすのだろうが自分にとっては家の中でひたすらゲーム=ジャスティスだ。異論は認める。
ということで、開けたビールを飲みながら某箱型ゲーム機を起動させる。トップ画面をいじりながら、
「今日は…今週のストレスを…」
と言いながら、ディスクトレイを開け横に置かれた本体の上に無造作に投げ出されたソフトを入れる。いまからやるのは世界的に有名なFPSタイトルである、SUNofLIBERTY通称サンリバだ。掃除機のような駆動音を聞きながらサンリバについて考える。
(オンラインにでもつないでスナイパーでもやるか。敵のどたまぶち抜いてスカッとしよう。うん、そうしよう。)
サンリバは現代から近未来にかけての兵器はもちろん、今では産業廃棄物なんじゃね?と思うようなものもありCPU戦はもちろん、オンラインで世界各国のプレイヤーとも12対12という中規模戦闘を楽しむことができる事で幅広い層から人気がある。
もちろん今ビールを片手にコントローラーを握ってる27歳男、長谷川啓もそのひとりである。
にわかに毛が生えた程度の知識だが、兵器が好きで自衛隊予備官補になるぐらいにはミリヲタだ。まぁ、普段は隠していて同好の友人と語らう程度におさめているが。
「キルレなんてっどうでもいいからっどんどんこっちおいでよほらぁぁぁぁぁ」
スナイパーなのにもかかわらず、戦場を駆けずり回り接近した敵はナイフでざっくり、ちょっと離れている敵はスナイパーライフルで頭をズドン、複数人に接近された場合はサブで持っているハンドガン2丁が火を噴く。
若干テンションが危ない感じだが気にしない。なんたってここには自分しかいないんだ。むしろいたら色々と困ってしまう。
さて、ゲーム上では走り抜けながらズドンズドンぶっぱなしているスナイパーライフルFNH Ballistaだが、実際に走りながら撃つとか最早人間ではない。
反動は対物ライフルほどではないが激しい動きをしながら撃つことはできないし、当てることはもちろんヘタしたら上半身のどっかの骨が折れても不思議ではない。
さらに、アタッチメントとして照準補佐にACOGサイトをつけ、索敵対策にマズルフラッシュや発射音を抑えるサプレッサーを装備しているて威力、反動が幾ばくか低減されているがどたまぶち抜けば関係ないので、まぁそこはゲームだし全く気にせずにやっている。走りスナイプとかまじロマン。
このロマンを追求する為にはゆっくり照準を合わすなどもってのほかで、敵の動く先を予測し照準を一瞬で合わし引き金を引く。なんたって敵の大体はサブマシンガンやアサルトライフルなどスナイパーライフルより小回りのきく得物を持っているのだ。
その為に現実では不可能な動きを習得しなければならない。それは専らクイックショット(QC)と呼ばれている。
まぁこんな仰々しく説明しているがこれはゲームである。時間をかけて慣れれば誰だってできるはずだ。
(そろそろ700時間かぁまぁこんなもんだろ。上には上がいるしね。しっかし今どこから撃たれたんだ?めっちゃ動き回ってたのに。……うわぁ、産廃でやられたんか……無理だよぉ)
何十回目の対戦終了後、タイムリミット直前にキルを決めたプレイヤー画面を見ながらひとりごちる。そりゃ対物ライフルがまだ対戦車ライフルと呼ばれていた時代のライフルで華麗な長距離スナイプをやられればそんな愚痴はでてくるだろう。
やられて言うのもなんだがこれがサンリバの面白いところである。いくら近現代の装備で固めていても旧ソ連装備のプレイヤーにガンガン負けるという現代ではまずないだろうというシチュエーションを体感できる。
「ふい~。ちょっと久しぶりだから酔ったかなぁ。次やって今日は寝るかな。最後はハンドガンとナイフかな…っと。うぷっ……」
久しぶりのFPS酔いとアルコールも相まってふらふらのへろへろだがあと一戦やるつもりだ。
今回はメインに両手にコンバットナイフを持ち特殊兵装として投げて使う手斧トマホーク、サブウェポンにSIGのP226を選んだ。個人的にこのSIGP226は大好きだ。ベレッタM92Fも捨てがたいが威力、重さ、なによりフォルムが超好みである。
と、今まさにマッチングが終了しフィールドに降り立った瞬間だった。
ガガガガッガ―ッ!!
っと、箱型ゲーム機が奇怪な音をたてはじめる。
「おおおぉ!?まてまてまてなんかすごい音したぞ今!!!!」
とてつもなく嫌な予感を感じながらも、コントローラーはしっかり握っている。すでに戦闘が始まっているので目も離せないのだ。冷や汗をかきながら画面を見ていると異変に気づく。
「あれ……?敵がいない?」
草原を越え丘陵を越えても一向に敵がいない。普段広いマップなどでは敵に会わないなと思う事があるが、このマップは中サイズで敵に会わないなどということは体験したことがない。
おかしいと思い続けながらも移動し続ける。すると、
「は……?なんだこれ……門……?」
また更に丘を越えるとだだっ広い草原が視界に広がる。すると、少し離れたところに考える人で有名な地獄の門のような装飾がされた鉛色の大きい門がドンとある。
画面から見てもわかるその違和感にびくびくしながら徐々に近づいていく。
「なんにも起きない……?と、とりあえず撃ってみるか。うん。そうだな」
装備を切り替え、P226を取り出し16発の9mmパラベラム弾を撃ちきる。結果は、
「何もおきませんっと。どーーーーすっかなぁこれ…。敵もいないし見たことない門まで出るし撃てるだけでメニューは開けないし。一回電源切るかこれ」
門の事は置いといて一種のフリーズ現象だと無理矢理納得させて、コンセントを抜きにかかる。良い子は真似しないでね。
「まーちょうどいいからもう寝るかぁ。あーー不完全燃焼だなぁ。……ぃよっと」
暗転する画面、静かにならない駆動音。………ん?静かにならない…?今コンセントを抜いたはずである。お隣さんがダイ○ンでも使ってんのか?いや、まさか午前4時だぞ今。と思いつつもゲーム機を見ていると
ガガガガガガッガガ―ガッ!!
「うおっ、またか!もう寿命か?まぁ酷使していたしな……」
またも響く奇怪な駆動音に驚きつつも、モニターに向き直るが、
「おい……なんだよ……なんでまだあるんだよ!!!!うおおおい…やめとけやめとけやめとけ!!!!止まれ!!!!!!」
モニターに現れている鉛色の扉。
それだけでも驚愕するに値するが極めつけは門扉がぎぎぎぎぎ…と音を立てながら開き始めているではないか!!
猛烈に嫌な予感を感じていた啓は絶叫し門扉をとめにかかる。コントローラーをガチャガチャするも無駄、コンセントをさしてディスクトレイを開けようとするも無駄、しまいには画面からぱぁぁぁぁあああああっと強烈な光が発せ始めた…今までないほどに焦り始める。
「おいおいまぶしっ……おいおいおいおいなんなんだまじで!!!!なんか焦りすぎて冷静になってきたぞ?いいよもうなんでもででこいやぁぁぁああa……」
ここで啓の意識が暗転。
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「……んぁー、今何時だ……?」
ちらりと友人から貰ったモダン(笑)な時計を見ると、午後2時である。むくりと起き上がると辺りに散らばるつまみの残骸、右手にはコントローラー、左手には空の缶ビール、そして目の前には右上にHDMI3と出たテレビの画面。
きょろきょろと周りを見渡し、あぁ寝落ちしたのかと理解する。そういえば昨日なんか理不尽なことが起きなかったか…?と思案するも寝起きの頭には酷だったようでまぁいっかで済ませてしまう。
「あーーー気持ちわりぃ…飲みすぎたのか?ったく……ストレス溜まりすぎだろうに。」
のろのろと動きだし水道の水をコップに入れ飲み干す。一息つくとシャワーを浴び、昼飯としてカップラーメンを食べる。
「ふぅ……さて。今日は何するか。んー、確か昨日はストレス発散でサンリバで凸スナやりまくりーの、最後にナイフとハンドガンとトマホークで………っあ!!!!!!」
昨日の寝落ちまでの流れを思いだし考え始めるが、手はゲーム起動の準備をしている点あまり深刻に考えていないのだろう。
(まぁ、夢落ちってことだろ?はっ…妄想しすぎだろ…この年になって恥ずかしいなおい。)
「今日は~♪愛しのコンパニオン達と~♪お散歩でもしますかねぇ~♪」
と、超ご機嫌でサンリバを取りだしゲーム機の上に放る。同じく放ってあるGroundrimをトレイに放る。
グラウンドリムは所謂、箱庭系アクションRPGだ。
舞台は中世ヨーロッパ風の世界で最初はぺーぺーの自分が英雄になり、世界を救う物語である。
箱庭系の良いところはストーリーを終えたらはい、終わりではなく、サブクエストや自分の行動によって英雄or悪人のどちらになるか選べる為、考えて行動しないと取り返しのつかないことになってしまったり、戦士ギルド、魔術ギルド、盗賊ギルドなどにも加入できる。広大なマップを探索し野盗、モンスター、猛獣を相手取りながら旅をすることができるのも楽しみ方の1つだ。
そして啓的ポイントの高さは、なんといってもキャラクターメイキングの幅の広さである。
ゲームの最初にコンパニオン(仲間)を2人まで作成できるのだがとにかくキャラメイクに拘れる。啓は自分のキャラも含めて4時間かけて作り上げた。
まず、自分自身センリといういつも使うHNを名付けた近距離のパワーファイター兼強力な弓矢によるスニーキングキルを可能にするオールラウンダーのレンジャー。
次に赤く長い髪を無造作に後ろでまとめ180㎝ほどある大柄な体をピッタリとしたドイツ軍を彷彿とさせる軍服で包み厳粛な雰囲気の中に肉惑的な魅力を出せるナイスバディのアイラ。
完全な遠距離で顔に似合わず特大ロングボウを持ち、超長距離の狙撃を可能とするレンジャーである。
性格は豪快で感情的、整った顔に印象に残る切れ長の瞳は捉えた獲物を逃がさない。
軍服なのにミニスカートなのは趣味である。趣味である。(ここ大事)
最後に絹のような黒い髪を腰ほどまで伸ばし眉のあたりで切り揃えた前髪、アイラに負けず劣らずのナイスバディな体を包むのは急所の部分にプロテクターのついた制服である。
そう、JKの制服。170㎝とやや大柄であるがそれを感じさせない凛とした佇まいからリンと名付けた(安直)。
こちらは完全な近距離ファイターであり、左右の腰に2本計4本の刀を使い涼しげな顔で敵をなぎ倒す。
どんなに動き回ってもヒラリぐらいしかめくれないスカートとおみあしを包むサイハイはきっとアーティファクトだ(ゲス顔)
(どや。課金しまくって趣味を追及したのがこれだよ!!!!!最高だね!!!!!)
泣いてなんかいない。だって彼女達と旅にでれるんだもの。
さて、準備は整った。やたら長いロード時間を経てグラウンドリムの世界に降り立つ。
「この辺を散策するか…お、早速洞窟発見!人がでるかトロールがでるかっと……」
美女二人を連れて薄暗い洞窟へと進んでいく。狭い入り口には松明やなんのものとわからない骨、そして荷車がある。
「これはー、野盗の類いかぁ?罠を警戒に消音っと」
3人とも索敵、罠対策、隠密行動に特化しているレンジャーなので落石、落とし穴、毒矢などなんなく罠を突破していく。更に高レベルも高レベルなのでどんな敵がきても障害にはならない。
しかし、野盗の類いならばそろそろ索敵に引っ掛かってもいいはずだが何も反応はない。
(んー?野盗のアジトにトロール入った系かぁ?)
このゲームは自分が行動する間にもまわりは自分で考え行動をするので、そのような状況が多々ある。
以前なんて村の前でドラゴンと不死設定のおっちゃんNPCがガチバトルをしていたので啓は何も見なかったことにした。加勢すればなんらかのクエストがあったと思われるがそんな気分ではなかったのだ。しょうがない。がんばれおっちゃん。
そんなことを考えながら進んでいると、少し開けた場所に出る。そこには死屍累々、野盗と見られる人間の死体が積み重なるようにして乱雑に置かれていた。
しかし、トロールやゴブリンなどの魔物、野獣の姿はなく不気味に死体が散乱しているのみであった。すると、
ガガガガッガーッ!
「おおう!またか!!はぁ……明日にでも次世代機かっちまうか。」
またも奇怪な音をたて始めるゲーム機。このダンジョンをクリアしてから家電量販店にでも駆け込むかなと考えながらも索敵を怠らずに探索していると奥に小部屋程度の窪みがあることがわかる。警戒しながらそこに入ると意外なことに最近見たものがあった。
「おい……こっちもまたかよ……っ!?」
またもや現れた鉛色の扉に半ば呆れながらも観察をしていると、門扉が開きかけているのを見つけてしまう。今回は焦らない。そう決めながらも何が起こるのか待つ。
「いや、待て落ち着け。待つしかできないもんな。どうせ何したって無駄なんだろ?しかし、改めて見るとほんとなんなんだろうなこれ」
近寄ってカメラを動かすなど、まじまじと見ている間にもじわじわと扉は開いているが、奥に何があるのかは真っ暗でさっぱりわからない。サンリバの時なんか草原に置いてあるだけだったので何かある余地などないはずなのだが……。
転移ゲートなのか?それともモニュメント……?昨日の様子とはうってかわって肝の座った対応をするがなにもわからずじまいである。
「もう放置してトイレにでも行ってくるか……」
と、立ち上がろうとしたその時である。
ガガガガガガガッガーッガガガガッガーッガガガガッ
「おっ、またか…やたらなげぇな今回は……ん、もしかして扉と関係あんのこの奇怪な音は……だったらなんかのバグかなn……っ!?」
突如襲う酔いにも似たぐらつき。すると目の前もぼやけてくるではないか!すわ病気か!!!?と思ったのも束の間、身体全体を落ちるような浮遊感が包む。
「おおおおっ!!?うおっ……あああああああぁぁぁぁ!!!!」
遠ざかる自分の声、それと一緒に落ちていく身体。流れに身を任せることしかできないオレはそのまま意識も暗闇に落とした。
ご意見ご感想ありましたら是非お願いします。ピッタリ軍服いいね!!!!黒髪制服グッジョブ!!!!とかでも全然かまいませぬ。
銃火器について、wikiと本での知識なので間違っていたらご指摘お願いします。物語上都合が良かったりしたらしらないふりをするかもしれません(ゲス顔)