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五―三章

肉体の胎動が始まる。不規則に筋肉が脈動して、まるで体内に別の生き物が潜んでいるように見えた。

所々体毛が伸び、或いは抜け落ち、艶やかな光を放つ箇所もあった。それは細かな扇状のものだった。鱗だ。

額の一部が隆起し、角を形作った。

尾が生え、伸び、先にやじりのような毒針が現れた。

瞳孔は縦に伸び、口がり出して、牙が突き出た。

全身の脈動が終わった時、そこにいたのは、もはや人ではなかった。

シルエットこそ、辛うじて人の形をしていたが、地球に存在するあらゆる猛獣の特徴が混然一体となって現れていた。

心は震えた。恐怖だ。

純然たる恐怖が目の前にいた。

何だこれは。

現実なのか?

この形を持った恐怖に、一体何が勝てると言うのか。

絶望などと言う生易しいものではない。

地獄を相手に、どう戦えと言うのか。

すべはまだあるのか。

なくても戦う。

唐突に閃いた。

酔螺に吹き込まれた秘伝。

それを更に改良する。

土壇場で?

やるしかない。

やらねばならない。

やる。

心は呼吸を整えると、力を振り絞って、急速に気を練り始めた。

小周天を改造した狂心功。

そこに、アレンジを更に加える。

インターセクシャルの心にしか出来ない事。

陽の気と陰の気を同時に逆向きで回転させる。

だがそれでは、陽と陰がぶつかって削がれる部分がある。

閃き。

陰陽二つの気を二重螺旋のように捻りながら回すのだ。互いがすり抜け、それでいて相乗する。

回転のスピードが増す。人の許容量を超える。

それが全身に廻った時、意識は別のところに繋がって開放された。

しん〉が生まれた。

心はそれを知っていた、いや思い出した。

全ての生命は、無意識に知っている。

自分達が何処からきたのかを。

重力からさえ開放されるような勁。

物理法則にさえ干渉する意識。

今、心は人の枠を取り払った。

「ソンナ所ニアッタノデスカ」

心の変容を見たそれの目が、昂揚と共に妖しく輝いた。

心の外見は変わらない、が内面が激変していた。

「ソウカ、ソウデシタカ。気ノ……生命ノ……世界トハ……、根本」

それは熱狂した。

「未分化ノ人ノ気……、完全ナル一ノ気、ソウカ、ソウダッタノデスカ……」

同時に動いた。人の目には見えない領域の動きだった。

二つの、人以上の力がぶつかった。

力が爆発し、収縮し、新しい何かが現れた。

何のために存在ある

何故、今ここに存在?

先に逃げたのはそれの方だった。

もはや、心にとって戦いは意味を成さなかった。

足は地を蹴る必要がなく、ただ置かれていた。腕は伸ばす必要がなく、ただ下げられていた。

「面白い、面白いねぇ心。

この生き死にの場でなお、目指すのかいっ!」

自然に抗い法則さえも凌駕して、なお心は美しかった。

打撃とも投げとも極めともつかぬ技で、変容した行斗を追い詰めて行く。

「スバラシイ、人ト違エズ人ヲ超エ、人ト別ノモノニ成リツツモ、ナオ人デアリ続ケテイルッ。

仙人!?

超人!?

アナタハ何処ニイルノデスカッ!!」

あらゆる猛獣の気が一体となって、心に降り注がれた。

爪が、牙が、尾が、物理力以外の力を伴って、襲い掛かってきた。

心は、それをかわす必要がなかった。

その事如くが勝手に避けて行った。

行斗であったそれの力を飲み込み、変異させ、心はそれに返した。

御堂が振動し、木々が震え、庭石が砕ける。

物理力さえ持った気の爆発に、堂のある山全体が絶叫した。

夜の闇が、再び静けさを連れ戻した時、絶叫は止まった。

数瞬の静寂が訪れた。

やがて、のそりと心は立ち上がった。

哀れみとも、喜びともつかぬ顔で、足元に倒れているそれを見つめた。

「ここにいるよ、始めから」

そう呟いて、心の顔は穏やかになった。

「人の次が知りたいのなら、人を分かればいい」

急速に、心から気が抜けて行く。

疲労感に押しつぶされ、心はその場に昏倒した。

駆け寄る酔螺。

心を抱えて立ち上がった。

それを見届けるように、崇鬼の男達が現れた。

「あんた達、まだ居たのかい」

背を向けたまま、酔螺は言った。

「今やるなら、手加減できないよ」

恐い気が、酔螺から立ち上った。

男達が一瞬たじろぐ程の。

崇鬼の男達は心を抱える酔螺を避けるようにして、行斗だったものを無言で運び去った。


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