三―二章
「出たなこのエロ妖怪っ」
「〈師匠〉に向かって、何て言い草かねぇ」
「弟子になった覚えなんかない、どういう事だ!」
言いたい事、聞きたい事、懐かしさ。それらがごちゃ混ぜになって、何から言ってやれば良いか分からなくなる。
「とは言え、他の奴らはそうは思ってくれないのだろう?」
酔螺はしっれと言った。
「何で知って。はめたなこの疫病神……」
「何か言ったかい?」
「年よりは耳にくるらしい」
思いっきり頭を叩かれた。
「どこに行ってたんですか」
囲炉裏を挟んで、心と酔螺は向かい合った。
色々土産があるから家に来いと酔螺に言われ、電車、バス、自転車を乗り継いでやってきたのだ。
酔螺の家は心の住む町の北側の山、そこの山頂近くにある。
本来名前などない山で、ただ北の山とか小山とか呼ばれていたが、酔螺が現れて住み着くようになってから名前がつくようになった。
物見遊山。
その名称はどうなのかと心は思っているが、酔螺本人は結構気に入っていた。
今では山道の入り口に〈物見遊山入り口〉と酔螺が書いた表札が立っている。
「焼酎でも飲むかい?
百年物の泡盛があるんだよ」
勝手知ったる酔螺の家。心は冷蔵庫から烏龍茶のペットボトルを持ってくると、ドンッと酔螺の横に置いた。
家の作りは豪く古いが、装飾品は最新の物が多く、ライフラインもしっかり整っている。地デジ、BS、光ケーブル、キッチンはオール電化で風呂にはジャグジーもついている。
とても、長期間空けていた家とは思えない。
そもそも、定職を持っていないはずの酔螺は、何処から資金を調達してくるのだろうか?
聞いてみたいが、聞いたら最後。と言う可能性もある。
「お堅いねぇ」と言いつつ、酔螺は棚からグラスを取り出すと心に注ぎ、自分はラッパ飲みした。
ごくごくと音を立てて、たちまち二リットルが消える。
口の端からツーと雫が滑り、豊満な胸元に消えた。
心は、相変わらずエロい女だと毒づくが、視線はしっかり胸元に注がれていた。
「ちょいと、モンゴルの国境近くにねぇ」
呆気に取られて、直ぐには聞き返せなかった。行方を晦ますどころか、日本にもいなかったらしい。




