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序章

前々から書いてみたかった格闘・武術ものです。

主人公が色々えらロイ目に合います。

不定期ですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。

 荒涼と広がる草木もまばらな平原に、その遺跡は忘れられたように、半ば朽ち果てた姿をさらしていた。

 時刻は深夜。人はおろか、動物の泣き声も聞こえない。

雨の降らない土地特有の寒さに、しかし気にした風もなく、薄手のシャツとジーンズ地のショートパンツ、持ち物はありふれたリュックと言う軽装の女が立っていた。

大柄で、同性から見ると嫌味なほど凹凸の激しい体のラインを、惜しげもなく晒している。

白に近い銀の髪は腰元まで伸びているが、顔立ちは東洋系だ。

女は夜目が利くのか、ライトも点けずに星明かりだけで苦もなく進んでいた。

やがて遺跡の一角に辿り着くと入り口を確かめ、迷いなくその中へと入った。

中に入ると女は、さすがに持ってきたLEDライトを点灯させた。

時折周辺に注意を飛ばしつつ、奥へ進む。

不意に足を止めた。

何もない壁面を凝視する。

掌でしばらく撫で回すように調べると、感心したように呟いた。

「なるほどねぇ」

ぎりぎり人一人が通れる面積の部分だけが、わずかに他と温度が違う。

女はリュックを足元に下ろすと、音を立てないように取り掛かかった。


「何だろうねぇ、これは……」

女の前には、広大な空間と巨大な石碑だけが存在していた。

手元の僅かな明かりだけで、石碑に書かれたものを見て、その女は呟いた。

女が見ている石碑の真ん中には、何種類もの文字が刻まれた一枚の石版がはめ込まれ、それ以外の場所には、文字とも絵ともつかない模様が、細かくびっしりと彫り込まれていた。

アルファベットではない。アラビア文字とも異なり、まして漢字でもなかった。

エジプトの象形文字が近いと言えない事もないが、やはり全く違う。

ひょっとすると、既に滅んだ文明のものかも知れない。

女は余り表情には出さず、ため息をついた。

日本を離れて五年の歳月が過ぎていた。

距離はざっと八千キロ。

探しに探し求めていたものを見つけたと思った彼女を、しかし歓喜ではなく困惑が出迎えた。

それでも深刻に見えないのは、もって生まれた豪胆さのせいなのか。

とりあえず、女は石版を外してリュックに入れると、後は手早くデジタルカメラで詳細に撮影を済ませる事にした。

一時間後、最後のシャッターを押した瞬間、女の鋭敏な感覚が巧妙に隠された気配を察知した。

気配を消した気配さえも、彼女は感じる事ができる。

常人には真似のできない、途方もなく長い年月と、尋常ではない修行の果てに身につけた、超感覚に近い能力の一つだった。

「さすがだねぇ、崇鬼すうきの方々」

入り口は一つ。

東洋と西洋両方の特徴が見える者達が現れ、続々と入ってきた。

老若男女、格好もばらばらだが、統制が取れていた。それぞれに手にはランプと内側に曲がった刃のついた、大振りのナイフを握っている。そこだけは共通していた。

「困ったねぇ」

そう女は呟いたが、やはり全く困ったようには見えない。

人種の判別がつかない者達が、大柄な女を取り囲んだ。

崇鬼と呼ばれた者達は、一言も話そうとはしなかった。

有無を言わず、言わせず、目的を遂行するつもりらしい。

目の前にいた男が動こうとした。

その瞬間、女は絶妙な呼吸で動きを制した。

「あたしには色々と特技があってねぇ」

そう言って、もう少しではだけてしまいそうな胸元に、指を這わせた。

場違いなくらい、仕草に艶があった。

崇鬼と呼ばれた者達の動きが、止まっている。

いつの間にか、手元に石つぶてが握られていた。

「何も見えなくとも、見ているように動けるのさっ!」

叫ぶと同時に、追跡者達のランプが全て破壊された。


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