五日目 聖女
また会えるよね?
俺は泣きながら少女に訊いた。
……会えるよ。
少女は苦しそうに笑いながら答えた。
あの時、俺はまだ幼かった。
だけどわかっていた。
これでさよならっていうことが。
だけど、言わずにはいられなかった。
また会えると信じなければ、自分が壊れてしまうと思ったからだ。
まったく、まぬけな話だ……。
「起きなさいよ!」
朝、うるさい声で目が覚めた。
「……エフィ、もう少し落ち着いた起こし方をしてくれ」
「なに言ってんのよ、あんたが起きないからこうやって、大声出してるんじゃない」
「そうか、そいつは悪かった。 謝るからちょっと寝かせてくれ」
「バカ言ってないで、起きなさい!」
布団を剥いでくる。
「あぁ、やめろ! わかった、起きる、起きるから」
「最初からそうすれば良いのよ」
しぶしぶベッドから起き上がる。
「体が痛い……」
具体的には、肩と胸だ。
「あんたが起きないからよ。 わたしだってしたくてしたわけじゃないわ」
やっぱりこいつか。
「ほら、ラエルが朝ご飯作ってくれたから、食べなさい」
自分が作ったわけでもないのに、誇らしげに俺に言う。
「ああ、いただこう」
相変わらず、ラエルの飯はうまかった。
「仕事に行ってくる。 大人しくしていろよ」
「わかってるわよ。 いってらっしゃい」
「……ああ」
ティストアから、ロキウェルから、他にもたくさんの人から、いろんなものを託されている。
だが、俺はそれに報いることができるのか。
そんな柄にもない疑問が頭を支配する。
「最悪だ」
口癖になりつつある言葉。
この最悪な世界を、最悪な街を表す最高の言葉だ。
「お前、エルフに試したか?」
詰め所に行くと、ロキウェルが俺の方にやってきた。
「何をだ?」
「はあ? 寝ぼけんな。 天使かどうかだよ」
「まだだ」
「バカかよ。 エルフが天使と何か関係あんのは明白だ。 普通、真っ先に調べるだろうが」
ロキウェルは呆れたように吐き捨てる。
「匿おうなんて考えんな。 お前は、ただ命令されたことを実行する。 それだけで良いんだ」
「……ああ」
ロキウェルの言う通りだ。
エルフと天使に関係があるのは明白。
だが、もし仮にエフィとラエルが天使の魂を持つとして、俺は彼女たちを聖女に引き渡せるのか?
あいつらと過ごした時間なんてほんのわずかだ。
だが、俺にはこの数日が楽しかった。
「……っ」
報告書を書いていると、ティストアが来た。
「メルト、聖女様がお前に用があるそうだ」
「聖女が?」
「様をつけろ……」
「それで、何の用だ?」
「私にもわからない。 私は神官長様から言付けられただけだ」
聖女が俺に用事か。
ずいぶんと、警戒心の薄い聖女様だ。
「わかった、行こう」
「聖堂でお待ちになっているそうだ」
俺は報告書を書く手を止め、ゆっくりと息を吐いた。
立ち上がり、聖堂へ向かう。