三日目 天使
面倒なことになった。
だが、おとなしくついていかなければ、もっと面倒なことになっただろう。
「最悪だ」
思わずつぶやいてしまう。
「む……」
俺のつぶやきが聞こえたのか、ティストアが顔をしかめる。
「ああ、悪い。 べつにあんたに言ったわけじゃない」
「では、何に対して言った?」
「あー、酒を呑んでたからな。 酔いが抜けてないんだ」
適当にごまかす。
さすがに厄介ごとにはしたくない。
「そうか、それはすまない。 ……少し休むか?」
「いや、それには及ばないさ」
本心はさっさと終わらせたい、だ。
「俺を呼んだ理由はなんだ?」
「……あなたの力を借りたい。 天使様の話は知っているか?」
「知らない奴はいないだろ。 スラムの連中でもいないだろうな」
「ならば、今日の明け方に聖女様がお告げをいただいたのは?」
「初耳だな」
お告げね。
変なこともあるものだ。
「で、なんだ、世界の滅びでも予言されたか?」
俺が冗談を言って笑わせようとすると、ティストアは重々しく頷いた。
「はっ、くだらない」
「だが、聖女様は本気だ」
世界の滅び、またあの大災害が起きるとでもいうのか。
「なんでも地上に残る天使様の魂を還せば、滅びは免れるそうだ。 そこで、我々治安維持局は天使様の魂を宿した人間を探している」
「あるはずのない探し物か。 あんたも大変だな」
「……ないと決まったわけではない」
苦い顔だ。
「はあ、そこであなたにも協力してほしいのだ。 ロキウェル卿から話は聞いている。 優秀な人材だと」
「涙が出るほど嬉しいな」
「皮肉を言わないと気が済まないのか?」
「おっと、こいつは失礼。 なにせ、そういう性分でね」
話をしているうちに、治安維持局の詰め所に着いた。
お世辞にも快適に暮らせる空間とは言えない。
「いい場所じゃないか」
「言葉通りの意味として受け取っておく」
二人で中に入る。
中は不思議な静寂に包まれていた。
「誰もいないのか?」
「奥にいるだけだ」
そのまま進むと、一つの部屋に着いた。
「ここで待っていろ」
ティストアは部屋に入っていった。
「最悪だ」
「待たせたな」
結構な時間の後、ティストアは出てきた。
「ずいぶん時間がかかったじゃないか」
「すまない、この部屋には政府の人間しか入れないんだ」
「それで?」
「ああ、とりあえずあなたには、天使様の魂を持つ者を探してもらいたい」
「それは構わないが、どうやって探すんだ?」
「これを使う」
ティストアは青色の液体の入ったビンを取り出した。
「なんだ、これ?」
「聖女様がお作りになられたものだ。 天使様の持つ色に反応する」
「これを調べる対象に一滴垂らせ。 我々では手の届かない場所をあなたには担当してもらう」
「報酬は?」
「心配するな」
「具体的な額を提示してもらいたいね」
「そうだな……、金貨300枚ぐらいか」
「へえ、太っ腹だな。 こんな誰でもできそうなことで」
「……このことは他言無用だ。 絶対に口外するな」
「なるほど、ロキウェルの推薦なわけだ」
「頼んだぞ」