第七話
『アナザーチャット』の続編となります。が、書き方もジャンルも完全に変わってしまっています。見直しを怠っている部分があるので、もしかしたら間違いがあるかもしれません。ご一報ください。
さて、主人公行方不明から始まる物語は再会した後からの話となります。
どうぞ!
しばらくすると、久里がやってきた。
「遅くなったな~。クラスメートから拷問もとい質問攻めにあっていたんだ。大変だったんだぞ…………マ、いえ黒羽さん! どういうことです!」
憤慨はもっともだね。黒羽はリンチにあってもおかしくないと思う。
「ん? 加澄か。さっきはごめんな」
彼は一度PCで作業をしていた手を止め、謝った。だが、私の時より謝り方が軽いような気がする。贔屓ってわけでもなさそうだが、どこか心が籠っていない。
「ま、いっか。で、今から何するの?」
「もう一人来るんでしょ?」
「ボクの事でしょうか?」
おう。あまりにも影が薄くて分からなかったっていうのは失礼だろうな。
「部長。いつの間にこんなに科学部の人増えたんです? ボク知りませんよ」
「さっき」
「説明になってません――え、と自己紹介しないといけませんね。ボクは一年の猪垣 崇です。よろしく。お二人は?」
彼の視線の先には私と黒羽がいた。視線を右後ろに送ると、黒羽はお前が俺の分まで紹介しとけっていうジェスチャーをしていた。私はつい最近覚えたマバタキ信号でOKと返し、
「私は高一の綾切 繍花。久里の誘いもあってここに転入してきたの。で、こっちは黒羽 雄介っていう変人。この学校の生徒じゃないわ」
「なんかおかしな紹介が聞こえてきたぞ……」
不満そうな顔をしているが、一任した黒羽の責任だと思う。
さておいて、私はびっくりしている猪垣君を観察することにした。一番の特徴は……目元まですっぽり隠せる帽子だ。なぜか屋内に関わらず被っている。髪でも隠したいのかな。
「これで全員か? 少し少ないな……もう五人くらいまでならOKだから、校内にいる友達でも誘ってきてくれ」
「黒羽。貴方がこの部屋から出ればすぐ集まるはずだよ」
ナイスアイディア。私はぶつくさ文句を言う黒羽を地学講義室から押し出した。
すると、十秒くらいで人が集まりだす。有名人を一目見ておこうと校内を徘徊していた生徒たちだ。その中から五人くらい暇な男女のグループを選出する。
他の人たちは黒羽が丁重に追い払って散っていった。なんかエレベーターの定員みたいに部屋の中の人数が限られるから、らしい。本当に何するつもりなんだろう。
「よし、諸君。今から《オート・グランド》プログラムで作ったサバゲーで遊戯大会をしまーす。これもいずれ発表するつもりだからよろしくな」
どんな発明家でも一カ月でこんなにたくさん発明しないと思う。彼の頭はどうなっているのか、次々と新しいプログラムを考えだせるらしい。
「簡単な説明な。《オート・ラウンド》は勝手に自分の好きなゲーム……まぁ、オリジナルのやつを作ってくれるんだ。今回は俺が勝手に設定しておいたけど、もし他の人が使うとなったら好きなゲームを作ってくれ」
黒羽は自信満々で力説していた。よほど気を入れてやったみたいだ。
それにしても、この大人数でサバイバルゲームとはよほどの容量がいるような気がする。
「話を戻すと、このゲームのマニュアルはないから俺も内容までは知らん」
「「「はっ!?」」」
何人の声が重なったのか分からない。みんな同じ反応だったから、はっきりいってうるさかった。私も大きな声を出してたからこんなこと言えないが。
「ま、やってからのお楽しみだ。それと、これ付けてくれ」
渡されたのはシリコンで出来たみたいな少し丸みを帯びている長めのシート。それが合計十一個。ぴったりだ。
「こいつらも参加するからよろしくしてやってくれ。右からキルトとティエだ」
「「よろしく~」」
成程。それで今日はキルトまで来ていたのか……ってあれ? もしかして――
「ねぇ、これって仮想世界でやるの?」
「おう、《SIX》使ってるからな。この学校内そのものがフィールドになる。前のインベンション体験α版のようなレベルの同調感どころじゃないぞ。《SIX》は仮想世界で自分の意思が簡単に組み込めるツールだからな。ま、いってみれば、現実での意思、思考とかが仮想世界に全て持ってかれるってことだ」
私以外の全員が首をひねっている。α版の体験は結局私と黒羽しかやってないから想像しにくいのだろう。
ただ、今の説明で不安になることが一つあった。黒羽の懸念していたことが起こるかもしれないということだ。彼は現実と仮想がごっちゃになって、人狩りが始まりかねない、と言った。そう思えば、今回のサバゲーはそういった可能性のデータ採取の目的もあるのかもしれない。対戦形式のゲームがリアルにどういった影響を与えるかという実験。
「あまりにも分かりやすくいうとだな、魂ごとバーチャル行きだ。やってみれば分かる」
「質問です」
佐々木部長が手を挙げた。
「何でしょうか?」
「これの安全性とかのデータはあるんでしょうか? オリジナルということはその度その度、データを取らないといけないのでは?」
そういうことになったか。私は思わず唸ってしまう。
部長の言ってることを黒羽はちゃんとクリアしているのだろうか。
「……ふーむ。実を言ってみると今回がそのデータの集計結果の元の設計なので、これ自体の安全データは今回が初めてかな」
「というと?」
「綾切がやったあのα版のデータとかが主に使われている。四割は俺が実験体となってやったし、インベンション自体からも取った上でこのプログラムを設計をした。結論からいうと酔いやすい人は必ず吐き気に襲われるだけで、健康被害は全くない。だが、ぶっちゃけ精神面はよく分からない」
ぶっちゃけすぎだ。私を勝手に実験台にしたりするな。
「そうですか……綾切君。ガンバ」
なぜかエールをもらった。これからもこういう実験台になっていくんだろうねって言われてるような気がしてならない。
「じゃ、始める前に綾切、久里以外の全員。この鏡を見てくれ。一人ずつ並んでな」
ニヤッとした笑みを黒羽は浮かべた。ふむふむ。見て驚くなよって顔に書いてある。
黒羽はどこから持ってきたのかもよく分からない等身大の鏡を立てた。
そこに人が次々並び、自分の全体像を見て覚えるを繰り返す。
全員がそれを終えると今度はパスワードとログインID、アバター名をPCに入力する。
「ここにいる人は運がいいぞ。なんたって次世代のオンラインゲームを何年も早く体験できるからな。このパスとかは《SIX》専用のやつになるし、一〇年後まで使えるかもしれないぞ」
黒羽は心の底から楽しそうだ。自分の夢の一歩だから当たり前といえば当たり前か。
でも、その当たり前を黒羽はずっとできなかった。彼に普通は通じない。彼にとっては楽しいこと全てが特別なのだ。
「……全員まわったな。次にさっき渡したシートを首に巻いてくれ。軽くでいいから」
「これって白い輪の代わり?」
今度は、久里が質問した。私もちょうど同じことを思っていたところだったが、先を越されてしまったようだ。
「そうだ。仮の、な。……欲を言えば、もうちょっと科学が進んだり、松原のいう通りに《SIX》が全世界に普及すればこんな物もいらない。脳そのものをデバイスにできるからな」
「脳そのものをICチップとかと一緒にさせるの?」
「させるというよりか、元々ある物の有効活用だ。人間の脳の容量はとてつもなく大きいからな、そのくらいの事はできると思う。まぁ……できたとしても、一世紀先かもしれんがな」
なんともスケールがでかすぎて笑ってしまいそうだ。
黒羽が一〇〇年後まで考慮しているとは。彼はどこまでいくつもりなのだ。
「どうした、綾切? 俺を見て、ニタニタ笑って」
おっと、本日二度目の無意識状態での笑いだ。今度はニタニタしていたらしいが、そんなことは私の知る由もない。
「黒羽の夢の応援が楽しくなってきただけよ、気にしないで」
「そ、そうか」
どうやら照れているようで、黒羽は私から視線をプイと離してしまった。
「始めるぞ~……いいな、よし。シートの端に固い突起みたいなやつがあるはずだ。それを探して、押してくれ。意識が吹っ飛ぶから」
もうちょっと安心できるような言葉選びをしてほしい。何人かビクついてしまっている。何人かが押してしまったようで眠るように俯いている。それを見てさらに恐がる数人。隣の机に目を向けると百日紅先輩もまだやっていない。
「どうかしたんですか、先輩?」
「初めてで恐い。ルールも分からないし、何やってるか分からない」
「そんなもんですよ。初めてゲームの本体を買って、ボタン操作が分からないようなもんです。やりながら覚えるんですよ。これもそういう類のものです」
百日紅先輩はコクンと頷くと同時に突起を押した。首が軽く垂れて、寝ているような状態になる。寝顔って誰でも可愛いもんだ。
他の人たちも全員いってしまったようで、机にうつ伏せになったり、居眠りしているような格好だった。
「黒羽」
「何?」
「私達も行こう。向こうでは会っても敵同士だから」
「……おう」
彼は短く笑うと、地面に寝た。いかにも寝ぐせが悪そうだ。
私は教室の鍵とカーテンを閉め、椅子に座り、首の突起をポチっと軽く押す。
瞬間、意識が地学講義室から別の場所に移った。
ご支援宜しく、、次から私なりに、いえあくまでも私なりに面白いです。
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