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第六話

『アナザーチャット』の続編となります。が、書き方もジャンルも完全に変わってしまっています。見直しを怠っている部分があるので、もしかしたら間違いがあるかもしれません。ご一報ください。

さて、主人公行方不明から始まる物語は再会した後からの話となります。

どうぞ!

http://lastorder41.blog.fc2.com/

 

 私は窓の外に移る景色を見ていた。空は雲ひとつなくて、まだ夏なんじゃないだろうかと思わせる青を見せつけていた。グランドにはどの学年だろうか。体操をしている女子たちが声を張り上げていた。

 今、私が受けている授業はというと社会。それも世界史だった。割と得意な方なので半分以上聞き流している。ノートではなく、プリントに書き込めばいいだけなので楽だ。

「ん?」

外を見ていた私はある異変に気付いた。ジッと見ていなければ気がつかないような異変だ。

気のせいかもしれないが、校門が少し開いた。そしてすぐに元に戻った。

 風で動いたなんて動き方じゃなかったな。あれは……――

「繍花、先生に睨まれてる」

 小声で久里が知らせてくれた。視線を黒板の方に向けると、確かに少しはげているおじさんが目を細めて睨んでいた。そろそろ集中しよう。



あれから三分後。教室のドアがそろーっと開くのを見た。誰も気づいていない。

五分後。視線を感じる。みんな黒板の方を見ているのに先生がどうなっているか分かってない。残り少ない毛が少しずつ無くなっていることに誰も気づいていない。

一〇分後。とんでもないことに。

一二分後。生徒の半分が大爆笑。もう半分が呆けていた。私はそのどちらでもない。

一五分後。やっと授業が終わったが、その場に先生はいない。ご臨終だ。



「黒羽っ!」

ついに我慢の限界がきて、叫んでしまった。教室にいる生徒達が一斉にこちらを見ている。恥ずかしい。

「クックッ。すまん。ちょっとした出来心だったんだ」

 教壇と黒板の間に黒羽が突然現れた。どうやらミラージュを解いたようだ。途端、教室が騒がしくなる。いきなりマジックみたいに同い年くらいの男の子が姿を現したのだから、当たり前か。久里もこれ以上ないほど目を開いてるくらいだし。


『あれ、誰? ウチの学校の子?』

『クロハって……あのクロハじゃないよな』

『まさか……行方不明なんだろ。それに、こんな俺達と一緒くらいの年のやつじゃないだろ。同姓なだけだ』

『なに~、アレ。誰よ。不審者? でも、転入生と知り合いみたいだし……』


 あちこちから、変な噂が聞こえてくる。久里は再起不能だし、黒羽は興味津津で他の生徒の様子を観察しているし、担任はおろおろしているし、クラスメートは黒羽のことや私のことの話で持ちきりだ。

 どいつもこいつも使えない。

「黒羽、ミラージュ使って消えなさい! 早く!」

「はいはい」

 ニタニタ笑いながらではあるが、素直に消えてくれた。消えてくれただけで、そこにはいるのだが。

「あの……どういうこと? 今のって……」

 久里はようやく再起動したようだ。助かった~。

「黒羽 雄介っていう名前の変質者だよ。気にしなくても大丈夫」

「え、マスター……もごもごっ!?」

 手遅れかどうか分からないが、口を塞いでやった。久里のあまりの大声でここにいる全員に伝わってしまう可能性がある。なんと隠し通したいところだが……。


『マスターって?』

『ああ、確か黒羽 雄介の呼び名の一つだ。特番の番組でそう言ってたな』


 非常にまずい。だんだん収拾がつかなくなってきた。

 いまだこの場にいるだろう元凶の黒羽は喉を鳴らして笑っていることだろう。

誰か助け舟下さい。私一人ではもう手に負えません。ヘルプ ミー!

「しゅ、終礼を始めます。皆さん席に座って下さい!」

 助かったとは言えないが、一命は取り留めた。周りの視線が痛いのは無視だ。





「あっはっはっは。くっくっ」

 黒羽はというと案の定、腹を抱えて笑っていた。彼の隣では担任が必死になって教室を静めようと奮闘している。

「楽しいなぁ」

 しみじみと呟いた。そして笑うのをやめて、綾切に近づく。

 彼女はあちこちに殺気をとばしていて、鬼神と化していた。近づくのも億劫だが、ミラージュを使っているため恐いものなしだ。


 キン。コーン。と、チャイムが鳴ったと同時に黒羽の顔面に拳がとんできた。


 黒羽は机二つ分くらいを跨いで吹っ飛んだ。

「ビンゴ! 見えなくても貴方の行動パターンが分かったら簡単よ!」

 あ、ミラージュが今の拍子で切れた。壊れたわけではないだろうが、今は関係ない。

 鬼神が迫ってきているのに、逃げることができない。

 その現実はとてつもなく冷酷で、残忍に突き付けられた。


「驚かして、すみませんでした」

 俺は鬼神に首根っこを掴まれながらこの教室にいる全員の前で謝った。

「質問いいですか?」

「どうぞ、メガネっ子」

「あの……本当に……あの」

 もじもじしていて話が進まない。手をあげたのはお前だろ、と言いたくなる。

 俺は仕方が無く質問を予測して答えた。

「あー。はいはい。俺が世間を騒がしているあの科学者だ」

 偉そうでも奢りでもなく淡々と言うと、教室が一気に騒がしくなった。携帯をいじりだす者や興奮しだす者、ただ大声で叫んでいる者など多種多様だ。隣の綾切がものすごい形相で睨んできた。私の事はばらすなよっていう目をしている。言われなくてもそうするつもりなのに。

「綾切さんとはどういう関係で?」

「じょ……グエッ…………どういえばいいんだよ~」

 反射的に答えそうになるが無言で綾切に絞められ、口を塞がれてしまう。

――泣きたくなってきた。……あれ? 

 なんだか先よりざわつき始めた。教室では綾切についての論議が始まっているようだ。なんとなく何を話しているのか聞いてみたい。

「黒羽。もう行くよ。ミラージュ使える?」

 俺が話に加わろうとすると、綾切に止められてしまった。

「しばらく無理」

「そう。……お騒がせしましたー!」

 俺は綾切に首をつかまえられながら、教室を飛び出た。ずるずると引きずられる。

 




「学校って楽しいな」

 憧れている、と黒羽の瞳は告げていた、黒羽君。なにしてくれるの?」

 と叱っておく。

「叫んだのはお前だろ。俺が出なかったらただの変人になっていたぞ。………まぁ、あのおっさんいじりすぎたのは悪かったよ。ごめんなさい」

 素直なのはいいことだが、こう、なんていうか私が怒りにくくなる。

 私は嘆息した。黒羽が本心からものを言う時、いつも丸められているような気がしたからだ。どこかで自分が満足してしまう節がある。

 私は黒羽の横に並びながら地学講義室のドアを開けた。目に入ってきたのは佐々木部長と百日紅先輩だ。前と同じ場所で、同じことをしている。

「こんにちは、綾切君。そちらの彼は……? 見たところここの生徒じゃないようだが?」

「初めまして。黒羽 雄介と申します」

 極めて礼儀正しくお辞儀をしている。さっきのとは対照的に大人の紳士っぽい。この変わりようはな何だろうか。いつの間にか学ランになっているし。

 たぶん、ミラージュが復活したのだ。あれは人間の五感を狂わせる道具だから、視覚だけを狂わせて学ランに見せているのだろう。

「これは。これは。本人が登場するとは」

あまり驚いた様子ではない。いつかこうなると予想していた者の目だ。

「すごい」

 百日紅先輩のほうはそれなりの反応だ。表情が乏しいが、内面では大慌てなのだろう。会ったばかりの私でも分かるくらい動揺の色が見え隠れしている。

「おお~、マスターが紳士的だ。頬が赤いから少しダサいですけど」

 ティエちゃん。それは私がやったんだよ。

「マスター、大丈夫か?」

 見てみれば今日はキルトまで来ている。何事だろう。ティエが昨日騒がしたから遠慮なしに来れる、ということだろうか。

 黒羽は何か知っていたようで、特に気にせずに話を続けようとした。

「じゃ、俺が今日は新しいゲームプログラム作ってきたんで、やりません? ああ、全員が集まったらでいいですよ」

 新しいプログラム。また作ったのか。

 私は口を開きかけたが、噤んでしまう。こんなに得意げな黒羽を見たのは久しぶりだから、なぜか見とれてしまって文句を言うタイミングを失ってしまったのだ。

 代わりに口からこぼれたのは溜め息だった。

「綾切、俺がなんか笑われるようなことをしたか?」

 少し不機嫌そうな声が聞こえてきた。どうやら私は溜め息と共に笑っていたらしい。

 全く気がつかなかった。

 おそらく薄笑い程度だろうと思うが、私はそんな自分に驚いてしまった。

 黒羽が自信をもって進んでくれていることに自然と微笑んでしまうほど喜びを感じている自分に。

「?」

 彼を見る。私が笑っていた理由には勘づいていないようだ。なんともアホらしい顔で困惑している。

「ふふ」

 今度は意識的に笑った。自分の感情に気付いてしまって、笑うほかなかった。

「お二人さん。待ってる間こっちでなんか話そうよ。あと二人は来る予定だから」

「聞きたいことある」

 先輩たちの目が怪しく輝いた。何を聞かれるかは分からないが、辞退するわけにもいかないだろう。

「俺はセットしないといけないから、綾切。楽しんでおけ」

 また逃げた!



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