第十二話
『アナザーチャット』の続編となります。が、書き方もジャンルも完全に変わってしまっています。見直しを怠っている部分があるので、もしかしたら間違いがあるかもしれません。ご一報ください。
さて、主人公行方不明から始まる物語は再会した後からの話となります。
どうぞ!
私はイベントで発生した地下への入り口を塞ぐように立っている目の前の化け物を見ていた。詳しくはモンスター名と紅白のゲージを。
モンスター名:百日紅のイド
百日紅先輩だ。ちゃんとプレイヤーにしか存在しないスタミナゲージを表示させている。モンスターはスタミナゲージを持っていない。あるのは必殺ゲージのようなメーターだけだ。
だが、この化け物は体力もスタミナも必殺メーターもあり、自分達の上限体力・スタミナの二倍以上を保持していた。
――いや、これはまぎれもなく先輩だ……
目を虚ろにしていて、手足は人の物ではない。髪も金色に変色していて獣のような姿だ。背中からは蒸気のようなガスを噴出している。服もあちこちが破けていて、その間からは白い肌が覗いている。
「先輩! その姿はなんですか!」
「嗚呼、綾切後輩カ。ソノ姿ッテナニ? 特殊アイテムノ効果ノコト?」
特殊アイテムの効果。百日紅先輩はどんな力を得たのだ。
「効果は……なんですか!」
声を振り絞って、叫ぶ。イドの怪物になってしまった彼女に。
イドの怪物とは映画や漫画に時々出てくるあれだ。イドとは、無意識中に潜む本能的エネルギーの源泉、という意味を持っているらしい。そして、その怪物。
つまり、イドの怪物とはその人の本能を形にした時に出てくる欲望の塊のような化け物を指すのだ。人間の中の無意識領域に住む本物の化け物。
「効果ハソノ人ノ心ノ弱サニ反比例シタ強サヲプレイヤー二与エル、ダッタ……カナ?」
心の弱さ。心の傷。
黒羽がそんなことをするはずがない。人の心の弱さを仮想の強さに換えるなど有り得ない。プログラミングミス、もしくは誰かの策略としか思えない。
――絶対に黒羽はそんなことをしない!
確信だった。これは誰かの陰謀によるものだと直感で分かった。
「イクヨ。コレハゲームダ」
百日紅先輩が両手を振りかざす。すると、あちこちに爆風が起こる。
私はデストラクションを構えて防御に専念する。だが、熱風によるダメージはじわじわと私を蝕んだ。
「これでどうだ!」
キルトが特殊武器であるピアス・バレッド・ライフルを撃つ。同時に彼女の手にあった武器が無くなった。弾数を使い果たし消えてしまったのだ。
炸裂。
無数のレーザーは百日紅先輩を貫いた。この特殊武器の効果は完全貫通。私もさっき一発だけ撃たれたので、なんとなくだが理解している。
「嗚呼、痛イ。ゲームナノニ」
全弾を受けたはずなのに体力ゲージは四分の一しか削れていない。私の時は武器の性能に頼って、弾を幾つも破壊してそれでもマックスの五割ほど削られたのに……これはもしかして防御値に差があるのかもしれない。
モンスターとしての防御力はプレイヤーの比じゃない。
しかし、私の武器には防御力など関係なかった。
「フッ」
吐息を短く大きく吐いて突進する。精神集中とタイミングを合わせるための喝だ。
デストラクションを大きく二回だけ振る。どちらとも当たるが、効果としてはハズレ。
次の瞬間、百日紅先輩の攻撃モーションが発動。地面で何かが光っている。
これは――
「逃げて下さい! ランドマインです!」
地雷だった。地面に敷きつめられるように設置されている。
――もう、これサバゲーじゃないよね!? 元々おかしいゲームだったけどさ!
特殊武器にしてもそうだし、モンスターにしてもそうだ。サバゲーなんて話じゃない。
おそらく黒羽が説明を怠った部分があって、そのせいで今すごく苦労している。
今は愚痴ってもしょうがない。
ランドマインの回避が優先だ。
デストラクションを地面に突き立てる。武器の場合は二分の一の確率で破壊だからおそらくこの方法で適切な対処のはずだ。
成功した。地雷は消滅する。
「必死ダネ。ホラ」
そう言って百日紅先輩が取りだしたのはロケットランチャーだ。ティエが先程まで使っていたやつと同種のもの。そのティエはもう撃破されているけど。
「エイ」
そんな女の子らしい声、化け物の姿でランチャーを撃たれても、こちらは更に顔が引きつってしまうだけだった。
私は回避しようとするが、何しろ周りが危険物しかないせいで、何もできない。キルトもなんとかしようと銃を構えているが、こちらも狙いが定まらないせいで撃てていない。おそらく撃てたとしてもランチャーの爆風効果があるので、同じことだろう。
直後、地雷だらけの地面に向かって撃ちだされた砲弾が導火線となって大爆発を起こした。
「「キャアアアアアアア」」
キルトと綾切の声だ。またあの二人か。
ドーン。ドーン。ドン………
連続した爆発音が続く。こんなこと言っている場合じゃないな。
俺は爆発のする方へと走る。スタミナなんて気にしてはいられない。なにしろ生存者はあの二人だけなのだ。同志打ちで終わるなんて嫌だ。
――……様子が違う!?
ここでやっと普通の爆発ではないことに気付いた。悲鳴の後にこれだけ爆発するなんてあきらかに様子がおかしい。
やっと爆心地に着いた。
転がっているのは呻いているキルトと綾切だ。なんとか体力ゲージが残っているようだ。その奥には何者かのシルエットが浮かび上がる。人間のものではない何かのシルエット。
モンスター名:百日紅のイド
目に飛び込んできた化け物の名前に驚愕するほかなかった。
「な……な、は? え? イベントじゃないよな? これもバグか?」
生存していないはずの百日紅先輩が立っていた。異形の化け物として。
「く…ろ……は、助けて……お母さんが………」
綾切の呻いている声が聞こえてきた。昔の記憶と混同させながら、俺の助けを呼んでいる。俺はそんな状態の彼女に近寄って大声で叫んだ。
「しっかりしろ……ここにはお前の母親はいない!」
彼女はそれでも恐怖にトラウマに目を見開いている。おそらくだが、連続した爆音や転がっているキルトを見て思い出してしまったのだろう。
今、彼女の心の傷はパックリと口を開けている。閉じたはずの傷が開いている。
「大丈夫だから……」
ガシャンというロボットが歩いたような音が辺りに響いた。
「オヤオヤ。黒羽雄介。コレハゲーム……」
こいつが元凶。仮想だけではなく現実も過去も未来も食らっていく化け物。
「ああ、そうだったな」
ここで黒羽は無表情になった。
冷徹に冷酷に自分に厳しく現実を見た。
目の前で転がっている二人と化け物となった百日紅先輩を交互に見る。ここはゲーム。ここは仮想世界。だが、目の前にあるのはどれも現実。
「『確認』。武器の装備」
何も考えない。何も……何も、何もない。
武器名:Empty
効果:UNKOWN
手にしたのは武器でもアイテムでもなかった。それは二進数の塊だった。
「綾切、キルト、お前らは先に帰れ」
手に持っているエンプティーが反応した。強制ログアウトだ。
生存者0。Win Ayagiri & Kiruto と空中に大きく表示される。ここにいるのは百日紅と黒羽だけとなった。このゲームに認識されない二人のプレイヤーだけとなった。
「百日紅先輩の化け物か……バグの塊め。お前は百日紅先輩の意識だけをコピーしただけのイレギュラーってことにまだ気づかないのか」
あらゆるこの世界の情報、知識が流れ込んでくるような感覚。
「ナンノコトダ」
とぼけているわけではないだろう化け物の声。
「お前は本物の化け物ってことだ。人間の意識でもなくバグで出来たAIみたいなもんだっていってるんだ」
エンプティーをデバックツールとして起動。すると、見る見るうちに数字と記号の羅列が仮想世界を覆った。《オート・ラウンド》と《SIX》の二つからあるものを検索するために。バグの根本を見つけるために。
この黒いオブジェクトから出てきた武器の効果は<吸収>だった。本来の使い方は相手の武器を奪い取るためのものだが、
黒羽は自らのマスター権限をエンプティーに吸収させていた。
そうすることで、このオールラウンド仕様の世界では使えないはずの権限を揮った。
「消えろ。二度とこんなことが起こらない様にワクチン作るから………そのための犠牲になれ」
抑揚のない声と共に《エア・パック》展開。瞬間移動かと自分でも思うほどの速さで背中に回り込み、エンプティーを百日紅の体の中に押し込む。
「01001010100110100」
怪物の悲鳴にも似た、天まで届きそうなほど大きな叫び声には空しさを感じた。
今から化け物もエンプティーとなる。0と1だけのデータとなる。元々あった身体は解けるように崩れ落ち、地面に広がっていき、ゆっくりと仮想世界を浸蝕していく。
本当はここで終わらせてもよかった……と格好つけてみましょう。
ですが、私はゴールラインを走り抜けた後も走ってもらうつもりです。
今回、黒羽は自らの世界から拒絶されることを選びました。
マスター権限をなくす、という形で。
それがどういうことか……書いた私でも思いつかなかった終わり方です。
書いたのおまえだろ? ってことなんですけどねw
本当に知らないんですよ。なぜこうなったか。




