第十話
『アナザーチャット』の続編となります。が、書き方もジャンルも完全に変わってしまっています。見直しを怠っている部分があるので、もしかしたら間違いがあるかもしれません。ご一報ください。
さて、主人公行方不明から始まる物語は再会した後からの話となります。
どうぞ!
俺はその後アイテムなどを順調に取得し、校内探索をしていた。人には一人も会わない。どこかに隠れているのかもしれない。慎重に歩く。
今の俺の所持品はアイテムが三点。武器が相変わらず一点だった。
「やあ」
後ろから声をかけられた。この声は佐々木という人だ。科学部の部長らしい眼鏡にいかにもな風貌。口調からしても、部長のイメージそのものの人だ。
「なんで撃たなかったんです?」
「不意打ちはよくないと思ってね」
騎士道精神でもお持ちなんだろうか。そんなふうには決して見えないが、一体どういうことなんだろう。
「正々堂々と勝負をします?」
俺がそう言った途端に、サブマシンガンを構えられた。
ガチャッ。
トリガーハッピーだろうか。佐々木部長が銃を撃った途端、顔が捕食者のそれに変わってしまった。 これは、データに使えるかも……と思った時、フルオート射撃によって一帯は弾丸の嵐となった。
「おっとっと」
何発も飛び出る弾を前に、俺は何を呑気な事を考えているんだ。あまりにも危機感が足りていないぞ、と自分を叱責しておく。
だが、だんだん現実味が出てきた。仮想世界なりにのリアリティだが、思考をクリアにするには充分だった。
今いる場所は渡り廊下。教室近くの廊下よりずっと広い。それに盾になるようなものなど何もない。
まさか、サブマシンガンに爆風などついてるはずはないが、連射能力が恐ろしい。
弾数一発はそれほど脅威ではない、が、
「くっ」
佐々木部長がトリガーを引き続ける。秒毎に何発も飛び出る弾。
《エア・パック》をもって加速や浮遊していても全弾避けることは不可能だ。数発が俺の体に食い込んで消えていく。このゲームはそれほどリアルなわけではない。当たった弾は消えて、ダメージとしてゲージを削るだけだ。
俺のゲージが一割ほど削られるところで遮蔽物のある場所まで逃げれた。
「黒羽君。君は武器を持ってないみたいだが、反撃できるのかね? その天才的な頭だけでどうにかなるものではないよ?」
完全に舐めきられている。
逃げよう。このままダメージを食らい続けていたら一気にゲージが0になる。現在の俺のゲージは全体の四割ほど。ティエに半分ほど持っていかれていた。そんな中で反撃も出来ずに体力をさらに削られる、もしくは倒されたりなんかしたら困る。
「ところで、このゲームの優勝者にはなにか特典があるのですか?」
佐々木部長が突然口を開いた。仕留める前に訊いておきたいことがある的な悪役の顔で質問してくるものだから、俺もそれに基づいて冷静そうなヒーローになりきってみる。
「あるさ。あとのお楽しみだがな」
「そうですか。それは気になりますね……逃がしませんよ」
彼が話している間に逃走しようとしていたのに、気付かれてしまった。サブマシンガンを持ちながら走ってきた。
ピン。ポーン。
学校にアナウンスが流れ始めて、部長の足も止まる。
『イベント発生。モンスターがフィールドに徘徊します。全部で十匹。彼らを倒すと特殊武器を取得することができます。ご健闘を』
開始時と同じような機械音声が流れた。同時に渡り廊下に鬼のようなモンスターが出現。
「うわああああ」
部長が悲鳴のような叫び声をあげる。サブマシンガンをモンスターの方に向けて乱射させている。突然目の前に現れたものだから混乱気味のようだ。
――チャンス
俺は後ろで奮闘している部長をあとにして、その場を脱出した。
「お、青オブジェクト発見」
俺は現在、四階の一年教室に居る。そして、そこで青の光を煌煌と放っているオブジェクトを発見した。
触れてみると、武器を所得。という文字が目の前に浮かぶ。俺は『確認』と呟く。
武器名:日本刀
装備すると、俺の手には抜き身の状態のすらりと長い日本刀が出現する。それなりに重さを感じる。試しに振ってみるとスタミナが二割ほど削れた。
「ふむ。銃の方がよさそうだな」
銃は見たところほとんどスタミナが削れないようなので、使いやすそうに見える。あのサブマシンガンでも一〇秒当たり二、三割のスタミナしか使われていなかった。それなのに、これは一振りで二割も使ってしまう。
この刀の攻撃力は不明だが、銃よりダメージ効率はとても悪そうだ。燃費がすこぶる悪い。
武器の研究をしていると、突然、ガシャン!!と何かが割れる音がした。
俺が日本刀の研究をしている最中に、いきなり窓ガラスから貫通してきた弾が俺の横に着弾した。その弾はタイルをえぐって中に潜り込んでしまい、消えてしまう。
フィールドの地面を削り取るなど威力的には相当なものである。もし、体力の減っている俺に掠りでもしたらと思うと、身体が硬直してしまった。
――何事っ!?
撃ってきた方向を見ると、向かい側の屋上に弾詰めをしているキルトがいる。どうやらモンスターには会ってないようだ。運のいい奴め。
彼女の手にはライフルと思しき銃が握られていた。遠距離系の銃だ。こちらもまた俺には相性が悪く、対応が出来ない。
背を低くして窓側の壁に隠れる。すると、諦めたのか銃弾は飛んでこなかった。俺は一息をついてこれからの計画を立てる。
――イベントが終わるまで隠れておくか
あのモンスター達の防御力は相当なものだ。あいつ等と闘っている間にライフルでヘッドショットでもされたらたまったもんじゃない。即死だ。
ただ現実はそれほど甘くない。教室の扉が勢いよく開かれた。
「あ、黒羽発見」
ハンドガン二丁の綾切が教室に入ってきた。キルトから隠れている途中に見つかるとは何とも不運だ。
「くっそおおおおおお」
俺は絶叫した。このまま立ち上がればライフルで脳天をぶち抜かれ、立たなかったらハンドガン二丁が俺の身体に風穴を開ける。究極の二択だ。
「うお」
不幸中の幸い。どうやらライフルの銃口は綾切になったようだ。窓ガラスに穴が新たに三つ作られる。ガラス一枚がついに割れた。
それにしても装填速度が異常だ。それに先程と違い、銃声が発生していない。
キルトは何かアイテムを使っているらしい。サイレンサーか何か持っているのだろうか。それとも別の種類のライフルだろうか、と思考している間に綾切は教室の外に退散した。再び静寂が訪れて、この部屋には俺一人となる。
「「きゃ、グロっ!」」
綾切とキルトの短い悲鳴が重なった。モンスターか何かに遭遇したらしい。俺はまずキルトの居る方向を割れた窓から覗く。
――いた。あの鬼のようなモンスターだ。
キルトは持っている銃を替えて、黒光りするライフルを持っている。いや、あれはライフルなんだろうか。見た目はライフルそのものだが形状がおかしいのだ。
小口径の銃口がいくつもある。
もしや特殊オブジェクトから出た武器ではないだろうか。あの形はあまりにも異常すぎる。銃口が幾つもある銃なんて現実には絶対に存在しない。
キルトがトリガーを引くのが見えた。ついでになんか格好つけてセリフ吐いているのも。
刹那、銃口からレーザーみたいな光がいくつもモンスターに向いたかと思ったときには、鬼の赤ゲージが一瞬で白くなった。
俺は口をぱっかりと開けて呆然とした。
「嘘だろ……チートじゃねぇか」
そこで思い出した。設定の時にアイテム多めにして、逆転武器ありにしたのを。つまりは、特殊オブジェクトから出てくる武器やアイテムは一発逆転可能な反則級のものばかりなのだ。おそらくだが。
俺はブンブンと頭を横に振り、意識を集中させる。
再び銃口が向く前に逃げなければいけない。それは本能に近い恐怖だった。
俺はこの教室から急いで飛び出る。どうにもこうにも惨めだ。
「黒羽だ」
と、そこにはモンスターを倒した綾切――いや、魔王が仁王立ちしていた。こちらもあの鬼を倒したみたいだ。手にはハンドガンの代わりにのこぎりのようにギザギザした長剣が握られている。
「綾切。もしやとは思うがその剣も特殊武器か?」
「『も』? ああ、黒羽も持ってるの?」
「いや、キルトが持っていた。こう……銃口が何個もあるやつだ」
丁寧にジェスチャー付きの説明しながら、彼女が握っている剣を改めて観察する。両刃の歪な形に黒光りする刀身。黒曜石で出来ているような透明感も少しある。長剣のようにも棍棒のようにも見えるおかしなギザギザ剣だ。
「ふーん。それは恐そうだなぁ……ガード出来なさそうだし」
「で、お前のも――」
「武器名:デストラクション。黄色のやつから出てきたの。効果は当たったプレイヤーもしくはモンスターに二割の確率で即死効果を与える」
俺の言葉を遮って彼女は説明した。そして、愉快そうに笑みを浮かべた。
「試してみる?」
いきなり剣を振りかぶられる。俺は急いで《エア・パック》を使って距離をとった。日本刀が邪魔で少し突っかかるが、何とか逃げ切れる。
「おー。それも十分すごいね~」
即死効果を持つ剣が二度振られる。スタミナ消費が激しいのか何度も連続しては振れないらしい。俺はどれもギリギリでかわしてみせた。
だが、もう一度剣が振られた。今度は日本刀でガードする。
「なっ!」
「にひひ~。武器やアイテムは五割の確率で壊れてしまいます」
日本刀が壊れた。いや、壊れたどころか粉々だ。
――五割の確率って、二回に一回は破壊されるよね。ホントにチートだね!
もう笑えてきた。さっきから死地ばっかりで嫌になってくる。挟み打ちではないだけ、まだ逃げ場はあるのだが、それでもここから抜けるためには知恵を絞らないといけない。
「えらく楽しそうだな」
俺は気分を変えるためと動きを鈍らせるために、綾切に話しかける。
「貴方は楽しくないの?」
口を動かしながら、剣も振るとは何たる技量だ。しかし、技量もさながら集中力もすごい。狙いが的確すぎる。アシスト付きとはいえ、どうしても剣筋がブレてしまうはずだが、それがほとんどない。
これでは弱点も隙もなさそうだが、俺にはある考えがあった。
「もちろん……楽しいさっ!」
返答しながら、その考えを実行する。
綾切が剣を振れなくなるまでスタミナを使いきったところで、《エア・パック》を全開にさせた。彼女の懐に潜り込み、ティエの時と同じように連撃を決めようとする。
「ざ~んねん」
「っ!?」
彼女が取りだしたのはアイテムだった。スタングレネード。相手の視覚を一時的に奪う戦闘用アイテムだ。俺も一個だけ持っているため知っている。目を瞑ればなんてことはない。
「と、見せかけてスタミナ回復。もったいないからね~」
なんという策士。スタミナ回復用のアイテムまで持っていたらしい。白ゲージが一瞬で満タンになってしまう。そんなアイテムまで存在していたのか。
「ふふ」
笑っている。ティエのような凶悪な笑みでも相手をバカにするような笑いでもない。ただ本当に楽しんでいるだけの笑み。嬉しそうな笑みだった。
俺は階段の前まで後退した。このまま闘うのは得策ではない。焦ってミスが多くなるだけだ。
階段を《エア・パック》を上手に使いながら駆け上がる。軽いホバー付なので走るよりも何倍の速度で駈け上がれる。
ドアの前に辿り着くと、俺は勢いよく開ける。開けた先は、俺が最初に居た屋上だった。スタート地点をうろちょろしていた俺だから知っていることだが、ここは完全な行き止まりだ。飛び降り自殺でもしたければ、どうぞっていうくらいの高さに加えて、隠れる場所が皆無の屋上。
――最悪だ
後ろからタタタタと階段を走って登ってくる足音が聞こえてきた。急がなければ、抹殺されるだけだろう。だから、俺は賭けに出ることにした。
ドアに鍵を掛けても破壊されるだけなので、放置しておく。
俺はキルトがいた屋上の方角まで勢いをつけて走る準備をした。クラウチングスタートだ。
「待てぇええ」
待つやつがいるかよ。
俺はフェンスを飛び越え、屋上の外へ。つまりは空中へダイブ。
降下し始める前に《エア・パック》を使い、浮力ができるように身体の向きを調整する。
なんとか向かい側の屋上に着地。無事に着地とはいかず、ダメージを少しだけ食らってしまう。
「く~ろ~は~!」
大声で叫んでいるあの人はほっておいて、そそくさと俺は逃げた。




