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第九話

『アナザーチャット』の続編となります。が、書き方もジャンルも完全に変わってしまっています。見直しを怠っている部分があるので、もしかしたら間違いがあるかもしれません。ご一報ください。

さて、主人公行方不明から始まる物語は再会した後からの話となります。

どうぞ!

 

 各地で噂になっている張本人、黒羽はというと今、仮想世界の学校の屋上を激走していた。

「マスター、あ~そびましょっ!」

 ティエがロケットランチャーを抱えながら走ってきている。嗜虐心全開のニターっとした笑顔で突っ込んでくるから襲われてる本人としてはたまったものではない。

 しかも、そのロケットランチャーにはホーミング機能が付いていて、ある程度は軌道修正が出来る優れもののようだ。この狭い屋上で何発も撃ったら九割九分的中するだろう。だが、ティエはそれを作動させてはいない。

 追尾性能付きなのにティエがこれまで使わない理由。それは、

――遊んでやがる!

 答えはその一つしかない。彼女は弾の無駄使いなど考えないタイプだ。それゆえにわざと前方に爆風を発生させたりして、俺の逃げ道を塞ぐための弾が使える。

 抵抗したいところだが、現在アイテムも武器もない。

 オブジェクトの捜索をしているところに襲われたのだ。

「くっそおおおおおおおおお」

「あははっはははははっ」

 このリアル鬼ごっこはいつになったら終わるのだろうか。

 俺は科学教室に逃げ込み、ドアの鍵を閉める。ドンドンとドアをたたく音が聞こえる。とりあえず助かったようだ。

「あ」

 幸運な事に逃げ込んだ先で緑のオブジェクトを二つ発見。ドアから離れ、近くにあるほうから触ってみた。

 アイテムを取得。と空中に表示されるもののアイテム名は表示されない。

 俺は『確認』と小さく呟いて確認してみる。アイテムの効果の確認のためにボタン操作をした。

 アイテム名:Sand paper

 さんどぺーばー。サンドペーパー。……紙やすりだった。

「これとないほど今の状況に使えないな……」

 俺は二つ目のオブジェクトに近づこうとした。その時だった。

 ドーン!!! と危ない音が聞こえてきた。

 ドアがぶち破られたのだ。もくもくと煙を立っている中から悪魔が降臨する。

「あっはっははは」

 壊れてる。廊下は狭いのにロケランみたいな爆風付きの武器を撃ってしまうと、撃った本人もダメージを被る。そんなことはティエならすぐ分かるはずなのに……

――ある意味どんな殺人狂より怖いな

 マスターである黒羽を弄ぶためだけに自分のダメージをもろともせずに突入してきた。

 彼女の赤ゲージはそれほど減っていないが、約五%確実に削れている。

「何したいんだよ、お前は!」

「こんな時じゃないとマスターと遊べないもので、すっごく楽しんでるんです!」

 実に愉快そうに顔を歪ませていた。ヤンデレモードともいうべき凶悪な笑顔だ。

 俺は舌を鳴らしながら緑のオブジェクトに手を伸ばした。彼女はなぜか妨害をしようという気はないらしく、武器をだらんと下げている。

 武器を取得。

「キタっ」

 緑からは武器が低確率で取得できる。ランダムなので何の武器かは分からないが、紙やすりよりは少なくとも使える。

 武器の装備を『確認』。効果も見ずに装備するを押す。

「………………あれ?」

 しばらく待っても手には武器が出てこない。どういうことだ、と訝しむと、

「マスター。一発で消し飛んで下さいね。ほい!」

 ティエが頬を紅潮させながらロケットランチャーを構え、トリガーを躊躇なく引いた。そのでかい銃口からは手榴弾みたいな弾が飛び出る。

 逃げ切ることは絶対にできない。それでも、なんとか転がって距離を取ろうとする。

「無駄無駄無駄無駄ぁあああ」

 最近、パクリ疑惑が多いティエだ。

 と、そんな呑気な事を思っている場合じゃなかった。逃げないと。

 ドーン! と。

 耳を劈く大きな音と共に爆発した。教室中に爆風が巻き起こる。






「マスター潰れちゃいました………残念です。安らかに眠って下さい……」

「勝手に殺すな。それと潰れるってなんだ。俺はお前のおもちゃじゃないぞ、ティエ」

「なっ、やったあああああ! まだ遊べる!」

 何の注意も聞いてないなコイツ。俺が生きてる理由とかはどうでもいいらしい。

「でも、マスター。私はあと八発も持っていますよ。どうするつもりです? 偶然でよけたにしても、私が全発撃ってしまえば同じことですよ?」

 あれだけ俺に撃っておいて、まだ八発も持っているらしい。末恐ろしいことだ。もともと何発持っていたのか見当もつかない。

「撃たれるのは困るし、このゲームで優勝したいからな……ティエ。反撃させてもらおうか」

そういう俺の手に武器はもちろんない。つまり反撃するということは近接格闘になるわけだ。

「どうや……」

 俺はティエの言葉を遮るように加速した。一瞬で彼女の懐に潜り込んで、アッパーカットを一発だけ打ち込む。その後、硬直状態に陥った彼女をさらに連撃で殴り続ける。

 血などは出ないが、痛みはそれなりに感じるはずだ。彼女は苦痛に顔を歪ませている。

 反撃しようにも彼女はロケランを持っているため、近接には対応できない。武器を替えるか、もしくはアイテムでも使わないとこの場は脱出できないだろう。

 サンドバッグ並みに殴り続けられるティエ。俺はスタミナが切れる前に手を止め、後退する。

 ティエの体力ゲージは残り二割ほど。かなり減らした方だ。

「どうやって? なんなんですか、今の?」

 状況が理解できないらしく、痛みを我慢しながらも滑舌のいい声で訊いてきた。

「教えてやる。俺がさっき取得した武器は《エア・パック》。推進装置みたいなものだ。空も足がちょっと浮く位なら浮けるみたいだぞ」

《エア・パック》。おそらく特殊限定アイテムだ。普通の武器じゃない。なぜならば、この武器は銃でも剣でもないからだ。推進装置なんてなぜあるのかはよく分からないが、こうして俺の背中に背負っているのだから他にもこういう類の武器が存在するのだろう。

「ずるいです……いきなりこんな可愛い女の子殴ったりするなんて」

 可愛いのは認めるが、中身がどんな殺人狂より恐い悪魔を殴っても、何の罪悪感も感じないんだ。仕方ないじゃないか。

 だが、俺はあまりプレイヤーを減らしたくないということもあって、ティエを撃破するわけにはいかなかった。あれだけ弄ばれて、反撃の一つも無いというのはわだかまりが残ってしまうが、それは『マスター』たる俺のポリシーに反する。

「さっきから十数発もどかどか撃っているやつに言われたくないな。ティエ。見逃してあげるから、引きな――」

「くっ……最後に一発!」

 ロケランを一発撃ちだされたが、左に高速推進。ひょいと避けて、爆風の届かない位置に移動する。

 彼女はその間に退散したようで、もうその場にはいなかった。



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