「絆創膏」「砂漠」「ネコ」
「ただいま。」
今日も僕はこの暗く誰も居ないとても冷たい家に帰ってきた。
いつものように郵便物を取りだし階段をゆっくりと軋ませながら上がり僕の部屋に入る。
ああ、今日もこの部屋は暗い……。
荷物を投げ出し僕はそのままベットに横になる。
目を閉じて僕の心臓の音を聞く。
まるで夜の砂漠を一人で歩いているような孤独感を感じてしまう。
目を開けて寝返りをうち机の上にある松岡修造のカレンダーを見ておもむろに枕を投げた。
枕はカレンダーに当たり僕の心は少し軽くなった。
僕は目を閉じて彼女を想い描く。
黒く癖のない髪は編み込まれネコの尻尾のようにユラユラと揺れている。
目は吸い込まれてしまうような黒。
唇は薄くうっすらと赤くて柔らかかった。
そして彼女の最後の日を思い出した。
その日はとても晴れていて蝉が鳴いていた。
近くの駅で待ち合わせをしてピクニックに向かった。
彼女は真っ白なワンピースを着て居て深遠のお嬢様のようだった。
公園では彼女の作ったお弁当を食べた。
見た目はお世辞にも良いとは言えなかったけど。
彼女の指に絆創膏が隠すように張られていたのを見て残すことは出来なかった。
帰る時間になって駅に着いたとき彼女は
「ありがとう」
と、言って改札に消えた。
そしてその夜に彼女は逝ってしまった。
葬儀の日に彼女の母から彼女は心臓が弱かった事を知らされた。
僕は涙が止まらなかった。
気がつくと家に帰っていた。
そこからは何も考えないようにがむしゃらに勉強やバイトをした。
ナニかをしていないと恐かったのだ。
認めたくなくてただがむしゃらに目を背けた。
そして僕は今日まで現実から目を背けて来たのだ。
「明日の準備しないと。」
先ほど投げ出した荷物を手に取ると白い封筒が落ちた。
何気なく拾って封筒を開ける。
「またね。
愛してる。
by世界で一番の幸せ者」
お題を下さい。