「電車」「4駅」「子供」
家を出て二年になる。
大学を卒業して直ぐに家を出て一人暮らしを始めて最初の3ヶ月はガムシャラに働いた。
ただ、4ヶ月目にふと思った。
何をしてるんだ?
その時は直ぐに考えるのを止めた。
6ヶ月目に電車の中でこの人たちは、何の為に働いているのだろう。
その事を考えている間に四駅は過ぎたが、答えは出ない。
七ヶ月目に会社の同僚と付き合い始めた。幸せだと思った。
一年と2ヶ月、会社の上司に子供が産まれた。
上司は産まれたばかりの赤ん坊の話を永遠とされた。
正直、よくわからなかった。可愛いと言って顔をだらしなく緩めている上司を放置し、仕事に出た。
一年と4ヶ月、彼女から電話があり彼女の家に向かった。
最初、何を言っているかわからなかった。
出来た………赤ちゃんが出来た。
俺は、大学を出てから初めて泣いた。
心臓の横に新たな器官が出来たのか、何かが溢れてきて涙が止まらなかった。
一年と5ヶ月、家に帰るのが楽しみになった。
彼女と一緒に暮らし始めた。家に帰る為に仕事が早くなった。彼女の顔を見るだけで一日の疲れが吹き飛んだ。
一年と6ヶ月、彼女の両親に挨拶をした。
夜に御父さんに呼ばれた。
彼女を頼むと言われ、さらに頑張ろうと思った。
一年と七ヶ月、初めての部下を持った。
まだ産まれてない、子供の話をしていて上司を思いだし、一人で笑った。
一年と9ヶ月、昇進した。
彼女とお腹の子供の三人でお祝いをした。
一年と10ヶ月、結婚式を挙げた。
初めて彼女が泣くのを見てつられて泣いてしまった。
一年と十一ヶ月、初めて腰を抜かした。
二年目、いつもの電車の中でふと二年前のことを思いだした。
何をしているだろう。
今考えるとバカだと思うね。
あの時は、彼女も子供も居なかった。
だからわからなかったけど、家族が居るだけで働ける。
居ないときは、準備をしているんだ。
だからこれから会うだろう出会いを大切にして欲しい。
(もう家か。この二年間、忙しかった。けど…)
「ただいま!」
(家族が居るだけで幸せだ)