無双の道
兵次郎の胸には、分厚い筋肉が宿っていた。
たくましく、若々しい兵次郎を、七人の男が円を描き、兵次郎を囲っている。
いかにも丈夫そうな兵次郎の腰には、立派な刀がさしてあった。
兵次郎が身に付けている貧相な衣服が、余計に刀を輝かせている。
「あんさんよぉ、おとなしくその刀さっさと置いていったらどうだ? 痛い目みたくはねえだろうが?」
男の質問に、兵次郎は何も反応しない。まるで、男の声が聞こえてない感じだ。
その兵次郎の態度は当然、彼らの気持ちを煽り立てた。
「わしらは、無駄な殺生は好まない。だがな……。お前の様な生意気な青ニ才を見ると、わしらはそうは思わないらしい」
七人の男は、兵次郎に引けを取らないがっちりした体格だ。むしろ、背丈は七人の男達の方が大きいと言ってよい。彼らは大男に分類される。
その七人の男達の鋭く危ない視線を浴びている兵次郎に、動揺は感じられない。
「おい、お前ら! この青ニ才はこのわし一人で十分だ! 下がれ!」
七人の男達の中でも最も体格の良い男が怒鳴った。男の威風に恐れ、他の六人の男達は兵次郎を囲っていた円を解いた。この山賊の中でこの男が一番強いらしい。
男の体格を見ても納得できる。この男の体格はずば抜けているのだ。
腕の筋肉は盛り上がり、威風凛々としている。
男は兵次郎を見下ろし、鼻で笑った。
「おい、小僧。最後に言いたい言葉はないか?」
「拙者は無駄な殺生は好まん」
兵次郎が言葉を言い終えた時、大男の鞘から白光が脱した。
大男は兵次郎を一刀両断した。一刀両断したつもりだった。
兵次郎を一刀両断したのではなく、大男の刀は虚空を裂いていた。
大男は体勢を整えようとしたが、もう遅かった。
大男の胴と首は離れていた。
山賊達には兵次郎が刀を鞘から抜いたのが見えなかった。
一瞬の間に親分が負けたのである。一同顔を真っ青にしている。
「拙者は無駄な殺生は好まないと言ったが、しょうがなかった様だ。貴様らが拙者に害を加えるのであれば、拙者の刀はもっと血を吸わなければならぬ」
「でえい! 野朗共、相手はたかが一人だ! 六人もいれば勝算はあるぞ!」
山賊達は、兵次郎には勝てない事はわかっている。しかし、六人という人数が山賊達の希望になっている。
しかし、山賊達の希望はことごとく壊された。兵次郎に刀が当たらないのである。
兵次郎の手に持っている白光が飛ぶ。その白光は山賊達の目では追えない。
数秒事に一人大地に男が倒れる。血を流しながら。
あっと言う間に兵次郎の刀は五人の血を吸っていた。
あとの一人は、ずる賢く、姿が見えない。