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猫又と俺 3  作者: 青蛙
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ひとでなし

「おい、人間。おまえがここに狐を放してる理由を言ってみようか」

 猫又を避けて窓側に立っている笹井先生の片眉がぴくりと上がる。先生の緊張が伝わったのか、部屋にいる狐たちの様子がぐんと変わった。愛玩動物みたいな容姿だったのに、目が金色に光り、犬歯をむき出して唸る姿は迫力満点だ。

「管狐かと思ったが、おまえのはオサキっぽいな。混じりかもしれん。どうりで勝手に動くわけだ」

 にやにやと笑いながら猫又は椅子の肘かけに片足をかけてこちらを見下ろす。凄まじく偉そうな態度がこんなに似合う女子高生はそうはいない。

 まあ、エセ女子高生なんだが。

「オサキのいる家はどんどん栄えるが、やつらはどんどん増える。四十七匹くらいになるんだったんじゃないか? そのうち、養うことができなくなり家は没落する」

 だんっと椅子から飛び降りて、猫又は後ろに椅子を蹴り飛ばし、壁にぶつかった椅子は派手な音を立てて転がった。

 そこではあと笹井先生が息を吐いた。

「そうだよ、もう家では養いきれない。だから学校に来たんだ。ここはいいな、狐が好きそうな金目のものや、欲や、嫉妬。いろんなものが渦巻いてる。宝の山だよ、ここで少しくらい狐に施しをくれてもいいだろう?」

「そんな」

 喧嘩やいざこざ、物が無くなるなんてこともそりゃよくあるっちゃ、あるけどその上前を撥ねようなんて酷いじゃないか。

「ってえことは、人さまに害を成すものってことだよな。悠斗、今の聞いたよな」

 地獄から聞えたみたいなドスがきいた声に肝が冷える。

「だ、だめだって。人間はだめだっ」

 妖怪ならいいのかと言われたらどう答えていいのか分からない。それでも、笹井先生は人間だ。そんなのどう考えてもやっちゃダメに決まってる。

「僕だってさ、こんな事はしたくない。でも、狐たちは僕の血筋から離れられない。逃げられないんだ。生まれた時から側にいる。他に手があればそっちにしてたさ」

 笹井先生が笑いながら口にする。可笑しくて笑う笑みじゃない。寂しそうな諦めの笑顔だった。妖怪と共にある――それって本当は異質なことなんだろうか。妖怪に関わるってことはやっぱり(ことわり)から外れた愚行なのか。

 なあ、猫又。俺たちは上手くいってるんだよな。縋るような気持ちで猫又を見ると猫又はパンパンと手を叩いた。

「はいはい、言いたいことはそれだけか。んじゃあ、覚悟しろよ人間」

「おいっ、今の聞いてたよな」

「耳があるからな。で?」

 こ、この人で無しっ。腹が立って仕方なかった。なんで分かろうとしない? 思いっきり腕を突き出したが簡単に躱される。

「心ってもんがおまえには無いのか、猫又のバカ」

「ありがたい事にそんなめんどくさいものは家に置いてきたんだよ。悠斗、そこをどけ」

「嫌だっ」

 言った途端に猫又に胸倉を掴まれて強烈なひざ蹴りを喰らい、床に投げられた。

「じゃまするな、悠斗」

 猫又の両手の爪がきゅっと伸びて爪が鋭利な刃物のようにきらりと光る。笹井先生の方に狐たちが顔を向けて命令を待っていた。

「行け」

 笹井先生の言葉と同時に部屋中の狐が猫又に飛びかかり、猫又の姿はあっと言う間に見えなくなってしまった。

 酷く腹を蹴られて吐いてしまいそうになって青い顔で胎児のように体を丸めていたが、猫又の姿が見えなくなって心配になって起き上がった。

「猫又、おい、大丈夫か? 先生、狐たちをどかしてよ」

 まるでスズメバチを熱で殺そうとしている日本ミツバチみたいだ。

「悪いな丘野君。この学校はこの子たちにとって居心地がいいみたいなんだ。邪魔するやつをこの子らは許さない」

 止める気が無いのか、止められないのか。この狐が管狐じゃないのなら制御するのは無理かもしれない。

 クソっ。

「どおおおりゃああっ」

 やけっぱちで狐の山にダイブした俺はそのまま山の中に呑みこまれてしまった。


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