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猫又と俺 3  作者: 青蛙
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フルスロットルなやつ

「おいおい、喧嘩だってよ」

 学食から帰ってきた俺に林が耳打ちする。昼休みの佳境に入った中、クラス内は騒然としていた。教室の真ん中は察しの良いADでもいるのかのように机や椅子は端に寄せられている。

 上になったり下になったりしながら殴り合ってるのはテニス部の三井と多田で、二人はダブルスを組んでいる仲だ。

「なんで喧嘩してんの、あれ」

 同じテニス部の横山を捕まえ聞く。

「三井の財布が無くなってさ。皆で探したら多田の鞄から出てきてさ。この通りってわけ」

「でも多田も殴ってるぞ」

 逆ギレ?

「多田はそんな事してないって言い張ってさ」

 横山が外人みたいに肩をすくめた。そりゃ喧嘩になるか……本当に多田がやってないとしたらこれは怨恨だよな。

 そう思いながら二人の近くに投げられている鞄を拾い上げた。

「これ、多田の鞄?」

「ああ、三井がすごい剣幕で教室にこれ持って現れたんだよ」

「ふうん」

 横山の言葉を聞きながら俺はあるものを見つけてしまってため息をついた。

「どうした?」

「いや、なんでもない」

 多田の鞄のファスナーの金具に動物の毛が挟まっている。茶色っぽい色のこれはたぶん管狐だ。もしかしてこういうゴタゴタが最近多いのか。俺は保健室に向かった。

「笹井先生、ちょっといいですか」

 戸を開けると待っていたかのように笹井先生は椅子に座っていた。膝には一匹の管狐が乗っかっていて、先生が背中をゆっくりと撫でている。

 それってボスキャラ気取りですか。

 思わずそうツッコミたい気分になる。膝の上はともかく、保健室は狐で一杯だ。『触れ合い狐牧場』みたいになってるんですけど、ここ?

「何かな、丘野君」

 じっと見つめられるとドキドキする。これって恋? そんなわけないだろう。これが彼女いない理由みたいで悲し過ぎる。いや、そもそも脳内でこんな事してる場合じゃない。

「先生はそのうじゃうじゃいる狐で何をしようとしてるんですか」

 俺の言葉に組んでいた足を笹井先生はとんと降ろす。

「見えてるんだ、やっぱり。今日は用心棒はいないの、丘野君?」

 立ち上がるとすらっと背が高い。どこまでも二枚目な笹野先生、狐臭いのが残念だ。

「猫又は用心棒じゃないです。それより管狐って普通入れ物に入っているもんでしょう? こんなに自由に動き回ってていいもんなんですか?」

「管なんて無いよ。こいつらは自由に動き回る」

 ほら、可愛いだろ? 笹井先生はあの名作「○の谷のナウシ○」みたいに両手を広げた。その上を打ち合わせたように狐が走る。

「○さま、この子わたしにください」なんて言うのかと一瞬緊張してしまったが当然先生はそんな事は言わない。

「さっき、テニス部の三井と多田が喧嘩してたけどそれって狐と関係ありますよね」

 断言するような俺に向かって笹井先生は「さあねえ」と薄ら惚けやがった。

「あるに決まってるだろっ、今度会ったらぶち殺すって言ってたよな、人間っ」

 そこに大声とともに保健室の戸がガラリと開く。そこで仁王立ちしているコスプレ女は俺の相棒、猫又だった。

「悪さなんかしやがって。俺サマがぶっ殺してやる。ありがたく思えっ」

「今度会う時は覚悟しろよ、じゃなかったかな」

 登場早々いきなりフルスロットルな猫又に笹井先生が冷静に訂正を入れる。

「俺サマには覚悟もぶっ殺すも同義語だ、わかったか、に、ん、げ、ん」

 猫又にかかったら、ありとあらゆる罵詈雑言がぶっ殺すと同義語になるはずだと思うのは俺だけだろうか。

 猫又が蹴りの体勢で椅子目がけてジャンプする。普通攻撃する時ってのは、何かそれらしいことを言うもんなのに、猫又は前置き無しがスタイルらしい。

 それって、卑怯じゃないの? もっと問題なのは、先生と猫又の間には俺がいるってことだ。飛んで来る足に思わずしゃがんだ俺の頭の上を猫又が飛び越した。

 がくんと大きな音がして顔を上げると無人の椅子に猫又が腕を組んで立っている。反動でキャスターが動き、机に激しくぶつかるが、上に乗ってる猫又は全然ふらついていない。

 さすが猫……。


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