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猫又と俺 3  作者: 青蛙
3/7

今度はアイドル

「先生、怪我しちゃって……」

 とか言いながら俺が保健室のドアを開けると、昨日見かけた若い男がくるりと椅子を回してこちらを見た。

 ちょい長めの髪は絶妙な崩し具合で、真似したらただの寝ぐせ扱いになりそうなやつ。目鼻立ちも派手で白衣から覗く長い手足は今流行りのアイドルグループの誰かみたいだ。

 なんで具体的に名前が出ないんだと思われるかもしれないが、要は俺がアイドルたちを把握してないことが大きい。

 だって区別つかねえもん。男に興味ないし。

「頬を切ったんだね、何で切ったの? 結構すっぱり切れてるけど」

 頬に手を当てている先生の手はすっきり長くて格好良い。こりゃ今日からは女子が入り浸ることになるな。

 田口もがんばってこういう路線を目指せば……いや無理か。

「猫にやられたんじゃない?」

 先生の言葉にはっと我に返った。な、なんで分かったんだ?

「後ろで飛びかかりそうになってる彼女、猫っぽいけど」

 今の、じょ、冗談? 脅かしやがって。

「俺サマは悠斗のお友達だ。こいつがうっかり怪我したから心配してやってここまでついて来た。根が優しいからな」

 自己紹介をさらっと済ませた猫又は、消毒し終わった俺の手をぐんと掴んで椅子から立たせた。

「何……」

「手間をかけたな、行くぞ悠斗」

「あ、いや。絆創膏とか……貼らなくていいのか?」

 絆創膏を先生の手から奪い取った猫又が「ここは獣が多過ぎる。そうは思わんか?」と笑った。

「君も含めてってことかな」

 先生が立ち上がった所でチャイムが鳴った。今日は朝礼があって先生の紹介がある。

「時間切れだね。また話そうよ、ええと一年の丘野君」

 俺の名札を呼んで先生は後ろの猫又を見る。

「あんたもね、化け猫」

「うるさいっ、美少女妖怪猫又さまだ。今度会うときは覚悟しろよ、人間」

 猫又が俺の手を掴んだまま保健室を飛び出し、戸を必要以上に音を立てて閉めた。

「先生も視えるんだね」

 ぽつんと漏らした俺の言葉に猫又の眉がぴくりと上がった。

「バカか、おまえ。あいつは管使いなんだぞ。妖怪が見えなくてどうする。ああいった狐ツキは代々受け継がれるもんだ。あいつの家はおそらく昔から管使いだったんだろうぜ」

「家につく?」

 自分の思いに関わらず、妖怪に憑かれている家。なんかちょっと悲しい。そんなことを思っていると、突然わき腹を小突かれた。

「おまえ、可哀そうとか思ってんじゃないだろうな」

 いや、思ってたよ。悪いか。

 むっとした俺を見て猫又が意地悪く笑う。こういう時が一番生き生きしてるのってどうなんだよ。

「あいつらは被害者じゃないぞ。狐を使ってそこら中から金銀を調達し、狐を使って依頼人に頼まれた人間を不幸にする。おまえん家よりきっと金持ちだったはずだ」

「俺ん家を引き合いに出すなよな」

 猫又の最後に言った言葉が引っかかった。 

 金持ちだったはず……って? 呼び止めようとしたところに猫又がビンタしてきた。

「止めろっ、一体……」

 すげー痛いと頬を触ったらそこには絆創膏が貼ってあった。なんだ、絆創膏貼ってくれたんだ。ありがとうと言うべきなのか。それにしたって、もう少し優しくできないか。

「猫又、ありが……」

「おまえの本当のお友達が来たぞ、俺サマは帰る」

 本当の友達……。なんだよ、それ。

「今の女子、誰? すっげー可愛かったじゃん。丘野やるなあ」

「あ、悠チン、怪我したの? 絆創膏が」

 おざなりに返事を返してやり過ごした。なんだかとってもがっくりきて頭に何も入って来ない。

 鼻の奥がつんとする。

 案の定、新しい保健の先生の紹介は野太い男子の悲鳴と、黄色い女子の奇声で幕を開けた。

 保健室は以前にも増して大繁盛で、そこでお茶やお菓子でも出して金取ったらどうだとか思うほどだ。しかし、あいつらは気にならないのだろうか。保健室は狐で一杯なのに。最初に見たときはだらりとしていた彼らもこの頃にはめちゃくちゃ毛艶が良い。動きにも張りがあるっていうか、なんだか生き生きしている。

 笹井先生も男前度が更にパワーアップしている気がする。あ、笹井ってのが新しい保健の先生の名前だ。

『ササリン』なるあだ名で呼ばれてたりする。だけど、何か悪いことが起こっているという噂も聞かないし、それなら俺には全然関係ない。

 運動部でも無いし、行動的でもない俺は滅多に怪我することも無い。だからあれ以来保健室には行くことも無かった。



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