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猫又と俺 3  作者: 青蛙
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みんなのアイドル

「養護の先生が交代するんだ」

「ふうん」

「ふうんって、おまえ平気なのかっ」

 天下の一大事のように両肩を掴まれて揺すぶられ、危うく昼飯の『ピヨピヨオムライス』をリバースするところだった。

『ピヨピヨオムライス』、『ときめきA定食』、『ドキドキB定食』……。

 この妙な名前ばかりの料理を出す学食を有するのが俺の通っている白鷺学園だ。幼稚舎から大学まであるマンモス校で、去年から男女共学になったために女子受けするメニューに変えたらしい。それなのに中身は普通のオムライスだ。定食の内容だって生徒の七割が常時飢えている男子も満足の結構ガッツリ系なのは言うまでもない。

 幼稚舎から通っているわけじゃなく、第一志望を見事に落っこちた俺と林は、授業料払う季節には「まったく、お金がかかる」と親に時候の挨拶のように言われる併願組だ。

 そんな悲しい運命を背負った割に結構楽しく高校生活を送っている。白鷺学園高等部一年の丘野悠斗 、それが俺の名前だ。

 俺をを揺すっているのが友達の林。本人はまったく知らないが猪の妖怪に嫉妬された過去を持つイケメンでもある。

「止めなって、けいちゃん」

 心配そうに林を止めてくれているのは幼稚舎からこの学園のお坊ちゃん、田口 聡。ちなみに『けいちゃん』は林だ。林 啓太だからけいちゃん。

「ちょっ、まじ、揺すらないでくれ。養護の先生って、泉ちゃんのこと?」

 吐く代わりに先生の名前を出すと林はやっと手を止めた。

「そうだよ、半年大学に戻って資格を取る勉強するんだって」

 あああと呻きながら林は泣き崩れた。斜めになった足がちょっとキモイ……は、ともかく。

「え、泉ちゃんて資格持って無かったの?」

 そりゃ不味いだろうと思う俺の気持ちが分ったみたいに田口が解説する。

「養護の先生になるには二年から四年学校に行くことになるけどさ。一種を取るなら四年の大学に行く必要がある。泉ちゃんは短大卒って聞いたから資格は二種じゃないかな。だから一種を取ろうと思ってるのかも」

「詳しいな、田口」

 なんでそんなこと知ってるんだ? もしかして保健の先生になりたいとか? 田口なら結構似合うかもとか、思いはどんどん本筋を離れて行く。それを揺り戻したのは林の喚き声だった。

「んなこと、どうでもいいんだよっ。学園のアイドルがいなくなるんだぞ。俺はもう学校行きたくないっ」

 泉ちゃんは確かにアイドル顔だ。でも自分が可愛いことを鼻にかけてる感じがしてあんまり好きじゃない。去年まで男子校だったせいで男の比率が高いここでお姫様扱いされているのを当然みたいに思ってる。だいたい可愛いアイドルったって、短大卒だったにしてもこの学校来てから数年は経ってるならそれなりの歳だ。

 泉ちゃん目当てに用も無いのに深刻な顔して保健室に入り浸る生徒もかなりいるのが自慢っぽい。それが見えるのがやだ。

 まあ……俺の趣味なんて他の男子には関係ないだろうけど。

「でも僕、あんまり泉ちゃん好きじゃないなあ」

 一瞬俺の言葉かと思った。だがそう口にしたのは田口だった。俄然親近感が湧いてくる。やっぱ、良い奴だよ、田口君。

「田口もそう?」

「え? 悠チンも?」

 草食系の王子、田口がこくんと頷く。

「俺さまな感じがやなんだよね」

 そうだよな……俺さまな感じ……うんうん頷きかけて、そこで俺は究極の俺さまな奴を思い出す。俺の家にいるはずのペット。もとい妖怪だ。

『俺サマは美少女妖怪だ』とてらいも恥ずかし気も無く言い放つ猫妖怪で大嘘つきでもある。少女ではなく雄だ、なので正確には女装趣味妖怪猫股だ。

 我儘で高圧的で冷淡で。

 気まぐれで暴力的。

 でも嫌いじゃない。あれ、なんでだ?

 そんな俺の思いに関係無くまたまた林の悲鳴が聞こえた。

「後任ってあいつ? 男じゃん」

 保健室に泉ちゃんと連れだって入るのはどっからどう見ても林の言う通り男だった。泉ちゃんと同じくらいの歳に見える。

「かなりイケてる感じだったよ」

「男がイケててもなんの足しにもならないっ。何で保健のセンセがよりにもよって男なんだよっ」

 田口の感想に林が逆ギレしている。

「悠チン、どうしたの?」

「いや……別に」

 別に何も。ただ、男の後に四足の動物がついて行っただけ。で、もってあれはたぶん……妖怪だ。実は俺は視える人だったりする。



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