おはるちゃん5
ひとしきり降って上がった雨が、又強く降ってきた。
静男は深く酔っていた。
トイレに立とうとした静男が少しよろめくと、春代は「あ、あぶない」と、素早く静男の脇に肩を入れた。春代の甘い香りが、麻酔薬のように静男の脳をしびれさせる。
静男は春代を抱きしめたくなる衝動に駆られたが、理性がかろうじてそれを押し止めた。
「トイレまで行く?」
「いや、いい。自分で行く」
静男は己の心を見透かされることを恐れ、意地になってひとりでトイレに行った。
静けさの中で、窓をたたく強い雨音に、静男の記憶が蘇ってくる。
〈あの日も、こんな雨だったな〉
秋子と結婚を話し合ったその日も、雨であった。
秋子は窓の外を眺めながら、春代との秘密を打ち明けた。
「お春は双生児でした。ふたりとも、幼い時、生きるか死ぬかの大病を患ったのです。そして……」
奇跡的にお春は生き残った、と秋子は話を続けた。
「そんな彼女が不憫で、私はお春を守ってあげました。
お春は私になついて、いつも私の後を付いてきました。私を頼りにしていたのですね。
ところが、いつの頃からか、お春は私のものを欲しがるようになり、終いには、全部取らないと気が済まなくなったのです。
それから私は、お春と距離を置くようになり、今では冷たい姉になってしまいました」
たった二人きりの姉妹なのに、因果な話ですね、と秋子はため息を吐いたのであった。