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おはるちゃん4

 庭に目を移すと、いつの間にか雨がしょぼしょぼと降り始めている。

 残った酒を飲み干すと、静男は酒臭いため息をついた。

「うお座は、アンドロメダ座と、くじら座の間に横たわる大きな星座です。でも、残念なことに、明るい星がありません」

 春代の黒目は、一回り大きくなる。「どのような形か、知っていますか」、と星座を語る彼女の瞳は、生き生きとして輝くのであった。

「うお座の形かい。さ――、イメージとしては、魚だよね」

「そう、魚ですよね。二匹の魚が、りぼんで繋がれているのです」

 静男はさびしがり屋である。

人間関係は煩わしいと思うが、一人では、えてしまう。

魚が二匹いるということは、訳もなくうれしかった。

「二匹の魚は美の女神『アフロディテ』と、愛の神『エロス』です」

「ギリシャ神話かな? エロスって聞いたことあるけど。アフロディテって?」

「美の女神でしょ、ヴィーナスのことですよ。エロスはアフロディテの息子です」

「あっそう。知らなかったな――。で、ナンデ二人は魚になったの」

「怪物に追われて、魚に変身して逃げたのです。離ればなれにならないように、二人はお互いの体をリボンで結んだの」

 それからナイル川に飛び込んで逃げたのだと、春代はこたつから出ると、得意げに両手を水平に広げ、静男の前でひと回りした。

 スカートが、から傘のように回り開いた。

「こんなふうにナイル川に飛び込んだの」

 春代の肉体は成熟していた。

ふくよかな胸に〈ヴィーナスか〉と、静男はひとり、つぶやいた。

「うお座生まれの人は『精神的な愛と、肉体的な愛』の両方を兼ね備えているの。愛を惜しみなく与えることと、愛を限りなく奪うことを、同時にできる人なのね」

「二重人格、いや、ちょっと違うな。よりアフロディテに傾けば、与える愛・エロスに傾けば、奪う愛ということか」

「その不安定さが魅力なの。うお座の守護星は、海の神『海王星』よ。大海原のような包容力があるの」

「母なる海だね。俺、海って、大好きさ」

「星座が与えた『愛の二重性』と、守護星が授けた『包容力』で、この星座生まれの人は、神秘的な直観力を持った、ロマンティストなのですよ」

「えー、この俺が? 信じられない」

静男さんは尽くすことに歓びを感じる、うお座の男なのね。女にとっては、危険な誘惑者かしら、と春代は笑った。



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