おはるちゃん3
静男はウロウロと落ち着かず、立ったり座ったりしていた。玄関まで出迎えることは、いかにも「お待ちしていました」と言わんばかりで、いささか照れくさかったのである。
ぶっきらぼうに、おめでとう、と言った。
春代はニコッと笑ってこたつに入ってきた。
「静男さんは、うお座ですね。私調べたの」
「星占いですか。それで、どうでした?」
「何でもないです。秘密ですよ」
春代は意味ありげな笑みを浮かべ、ミカンの皮を剥き始めた。静男は腹が減って何か食べたいと思った。
「あ――そうだ、おはるちゃん。正月だから一杯やりたいね――」
「そうね、まっいいか。一本だけですよ」
春代は慣れた手つきで冷蔵庫からおせちの詰まったお重を取り出し、こたつの上に手際よく並べた。料理の苦手な秋子の代役で、何度も上柳の台所に立った春代には、どこに何があるかは、おおよそ見当がついていた。
「ハイ、おひとつどうぞ」
電子レンジで燗をつけた徳利の首をつまんで、静男の横に座った。酒は恋の媚薬である。その匂いは甘く強い。女の香りはその裏に隠れるのであった。
「辛口のお酒はアツアツでないとダメよ。
それに盃はグイ飲みでしょ。
これは満杯にしてはだめね。
半分ぐらい注いで冷めないうちに一気に飲み干しますの。
ぐいっとね、わかります?」
春代は姉さん女房を気取って、七分目ほど酒を注いだ。
「あ――旨い、おはるちゃんのお酌で、よけいうまいよ」
酒を飲み干す静男の喉元が、グビっと鳴った。
「おはるちゃんも一杯いこう」
「エ――、ダメヨ。でも、一杯だけならいただこうかしら」
春代は半分ほど注がれた盃を、二度に分けて飲み干した。
「ほう、なかなかいけるね――」
「うふふ。はい、お返しします」
「はいはい、どうもどうも。さて、どれがいいかな。黒豆でもつまむかね。それともエビ、いやいや牛肉の巻いたのがいかっぺかな」
「やだ――、変な茨城弁。静男さんのお国はどこなの」
「ま―ま―、堅いことは言わず。もう一杯、どう?」
「あら、わたしを酔わしてどうする気かしら」
「なんでも、何でもなかとよ」
「ウソ、男の人は単純だから、考えていることはすぐわかるわ」
「俺が考えていること、本当に分かる?」
「そうね、静男さんはわたしが好き。――でしょ」
「それはないね。大人をからかってはいけません」
「あら、わたしも大人でございます。赤ちゃんを産むことだって、できますわ」
静男は困って、おどけたタコ踊りで春代を笑わせた。
「なに? それ」
「タコです――」
「うふ、馬鹿ね。面白くないわ」