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第6話 『彼女の、不可逆なインフレーション』 「決断 ―脚本家の確信犯的転換」

スタジオの喧騒が、遠い砂嵐の音のように聞こえる。

脚本家はモニターを食い入るように見つめ、手元の確定した『彼女の計画』の脚本をゆっくりと指で弾いた。ページの端が軽くめくれ、乾いた音を立てる。


脚本家(独白):「……美しい結末だった。完璧で、調和が取れていて、誰も傷つかず、誰も取り残されない——だからこそ、いつか腐る結末だ。本筋をなぞるだけの物語は、読者の手を離れた瞬間に死ぬ。でも、あの『揺らぎ』は違う。不完全で、歪で、予定調和を拒絶する——だからこそ、永遠に生き続ける。」


彼は台本を静かに脇に押しやり、立ち上がった。声は静かだったが、その奥に確信犯的な愉悦が滲んでいた。


脚本家:「そのまま続けろ。純はその驚きを拓に預けろ。拓は純に『お前の言葉を聞かせろ』と言え。瞳は二人を見守る『光』になれ。脚本は今、ここで書き換わった。」


監督(声を荒げる):「そんな——本筋が——」


脚本家(静かに、でも力強く):「本筋はここにある。でも、『揺らぎ』もまた、真実だ。野郎ども、こっちの世界線へ突っ走るぞ!」


監督はしばらくモニターを見つめ、やがて深いため息をついた。


監督:「……続けろ。そのまま」


現場の空気が、一気に熱を帯びた。役者たちは、台本から逸脱しながらも、どこか興奮していた。これは「正解」ではない。でも、間違いでもない。そんな、奇妙で心地よい高揚感がセット全体を包み込んでいた。


純を演じる役者はまだ拓の腕を掴んだまま、息を荒げていた。拓を演じる役者はその手を優しく包み込むように握り返した。瞳を演じる役者は二人の様子を静かに見つめ、胸の奥で何かがゆっくりと解けていくのを感じていた。


"カノジョ"は、脚本家の横顔を見つめた。彼もまた、この『揺らぎ』がもう戻らないことを知っている。でも、それを選んだ。それが、『作者』というものなのかもしれない。

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