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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君の好きが知りたくて

ボーイズラブandハッピーエンドです。最後まで読んで頂ければ嬉しいです。

「え?何それ、、、」

「?」

ショーンの瞳に涙が込み上げて来た。

 ショーンは逃げる様に走り去り、残されたアンディは一緒にいた令嬢とショーンの後ろ姿を見送った。


 二人は顔を見合わせながら、ポカンとした。



*****



「アンドリュー様が浮気している」

と言う話しを聞いてしまい、ショーンは数日前から不安な気持ちでいっぱいだった。

 誰が言ったのかはわからない。ランチの時間だった。食堂で並んでいたら、ふと耳に入って来た。

(アンディが浮気?)

まさかね?そう思いながら、ずっと気になっていた。



「ショーン様は、何か誤解されたのかも知れません」

「誤解?」

わたくしとアンドリュー様が、親しくしている様に見えたのかも、、、」

「まさか!」

「だって、二人きりですし、、、ね、、、」 

(ショーンが浮気を心配した?)

アンディは嬉しくなった。



 ショーンは元々、好きとか愛してるの言葉も無く、手を握り合う事もしない。

 婚約者ではあるが、アンディはショーンが自分の事をどう思っているのかわからなかった。

 それでも良いと考えていたが、ショーンが自分にヤキモチを妬く程惚れていると考えたら、何とも言えない嬉しい気持ちが湧いた。


 アンディは初めて会った瞬間から、ショーンが好きだった。

 自分より、小さくか弱い存在。守りたくなる様な可愛い子。初めて会ったばかりなのに、アンディはショーンに遠慮なく話し掛け、少し嫌がられた位だった。

 大きくなるにつれ、少しずつ親しくなっていったけれど、ショーンに愛されているかは判らなかった。



*****



 アンディと一緒にいた令嬢は、確か婚約者がいたはずだ。どうして二人きりで、あんな所にいたんだろう、、、。



*****



 毎週、水曜日のランチはアンディと食べていた。学園に入学した時、二人で決めた約束。

 今日は約束の水曜日、それなのにアンディが来ない。ショーンは冷めて行くランチを眺めながらイヤな想像をしていた。

 もし、アンディがこの間の令嬢と、、、。


「ごめんね、ショーン。少し遅れちゃった」

そう言いながら、後ろを歩いていた令嬢に

「またね」

と挨拶をしている。今まで一緒にいたんだ、、、。

(イヤだな)

と思いながら、顔には出さない様に努力する。

(ショーン、、、)

ショーンは、やっぱりヤキモチを妬いてくれる。

 いつもはそんな顔しないのに、心配そうな、不安そうな顔をしている。

 それを確認すると、アンディはショーンに好かれているんだと安心した。



「来週の水曜日は、用事があるからランチに間に合わないと思うよ」

アンディに言われて顔を上げる。ショーンの瞳が揺れる。

「用事って?」

「うん、ちょっとね」

「水曜日は何があってもランチを優先しようって、、、」

「ごめんね、譲れない用事が出来ちゃって」

「そっか、、、わかった。来週は一人で食べるよ」

アンディはショーンが淋しそうにしているのを見て嬉しくなる。

 

 それから、ショーンはアンディが度々令嬢達と一緒にいる所を見掛ける様になった。

 特定の女性は、あの日見た令嬢だけだった。他の女性は深い感じはしない。それでも、距離が近い様な気がする。

 ショーンは上手く感情がコントロール出来なくなって来た。アンディが誰かと一緒にいる、それだけでイヤな気持ちになり、見たく無かった。



 アンディは僕との婚約を破棄したいのかな?ふと、思った。

 あんなに、色んな女性と親密になっているのは、僕では物足りないからかもね、、、。そう思うと、アンディと会うのか怖くなった。



 水曜日、アンディは特に用事も無く、ランチに遅れて行く。ショーンはもう食事が終わった頃だろう。

 入り口で、令嬢達に声を掛けられる。トレーを持ち、食事を選びショーンを探す。

 いつもの席にショーンがいた。まだ、食事をしている。

「ショーン」

名前を読んで席に着く。ショーンがアンディを見る。

「用事は終わったの?」

「うん、無事にね」

「今から食事なんて大変だね」

ショーンはスプーンを置いた。

「もう、食べないの?」

「お腹一杯で、、、」

「そっか、食欲が無いの?」

「ちょっとね、、、」

「ショーン、、、大丈夫?」

アンディがショーンの手をそっと握る。ショーンがピクリと反応して、アンディを見る。

 アンディはショーンの反応を見て安心をする。

 ショーンはそっと手を引き、アンディから手を離す。どうしてこんな事をするのかわからない。

 もしかして、婚約しているから、仲が良いって見せたいのかな、、、。


 アンディの視線が移る。ショーンの後ろから歩いて来た、令嬢に流れる。あの令嬢だった。すれ違い様、手を振り合っていた。


 ショーンは本当に嫌だった。どうしてアンディはあの令嬢と仲良くなったんだろう。何がきっかけだったの?

 知りたくても聞き出せない。

 ショーンは令嬢を観察した。

 綺麗な人だった。指先は白く細い。髪は艶やかで触りたくなる様な色だった。表情は豊かで、可愛い。肩が細くて、華奢だ。

 アンディは、あの令嬢みたいな子が好きなんだと思った。

 僕とは違う。

 僕には柔らかそうな胸も無いし、髪も短い。身体の線は真っ直ぐだ。

 顔だって、いつも同じ顔をしているし、表情が乏しい。

 


(イヤだな、、、。イヤだ、、、。イヤだ、イヤだ、イヤだ、、、)

そう思いながら、言葉は出ない。アンディを見ると、ショーンの顔を見ている。

「???」

 ショーンはそっと自分の頬を触る。僕は可愛く無いからな、、、。彼女みたく可愛くなりたかった。



 鏡を見れば見る程、ショーンは男の子だった。このままだと、アンディに嫌われてしまう。アンディが彼女の所に行ってしまう。



*****



 初めてアンディと会った時、ショーンはアンディをカッコいいなと思った。自分より背が高くて同じ歳には見えなかった。声は優しくて、微笑みは綺麗だった。

(僕なんかで良いのかな、、、?)

そう思いながら、婚約は家同士が決めた事、子供二人の意見など無かった。


 それから、ショーンはいつも背伸びをして生きて来た。本当は、アンディに色々聞きたい事もあったけど、何でも聞くのは子供っぽいし、アンディには相応しく無い様に思えた。

 アンディに会えると、すごく嬉しいのに、あんまりはしゃぎ過ぎるとみっとも無い。ショーンはいつも、ゆっくり行動する様に心掛け、アンディの隣にいてもおかしく無い様に頑張った。


 

 学園に行きたく無い。ショーンは家から出たくなかった。アンディが自分以外の誰かに優しくしているのを見るのはイヤだった。

 学園に行かなければ、アンディに会わないで済む。具合が悪いフリをして休みたい、、、。



 結局、ショーンは学園に向かう。

 アンディが女性と二人でいる。

(ああ、今日も、、、)

見たく無かったな、、、。ショーンは気付かなかったフリをする。アンディの方は見ない。



「ショーン様、アンディ様がいらしてますよ」

声を掛けられて、ドアの方を見る。アンディがいる。

「ありがとう」

お礼を言って、アンディの元に行く。

「ショーン」

「どうしたの?アンディ」

「明日のランチ、ちょっと遅れそうだから」

(またか、、、)

最近多いな、と感じる。

「大丈夫、一人で食べられるよ」

「ごめんね、淋しい?」

(、、、珍しい事を聞かれた、、、)

ショーンは思った。

「大事な用事でしょ?」

「ちょっと、ソニア嬢とね、、、」

(、、、そっか、僕よりソニア嬢を優先するんだ、、、)

「アンディ、水曜日のランチ、しばらくお休みしようか、、、。毎週、忙しいみたいだし、わざわざ連絡するのも大変でしょ?」

「っ!そんな事、、、。来週で、来週で全部終わるから」

勿論嘘だ。元々用事など無かったのだから。

「アンディ、無理しないで、、、。来週の件はわかったよ。大丈夫だからね」

丁度、授業が始まる時間になり、ショーンは自分の席に戻った。



*****



「だから、程々にと言いましたのよ」

ソニア嬢に呆れられた。

「だって、、、止められなかったんだ」

二人でため息をく。

「ショーン様、傷ついてるんじゃ無いですか?」

「傷付いてる?」

わたくしの名前を使いましたよね。毎週約束に遅れていたのは、私と会っていたからだと思われたんじゃないですか?」

「、、、」

「いくら、ショーン様の愛を確認したいからと言って、ショーン様を傷付けてはいけません」

「、、、(不安そうな顔とか、可愛過ぎるから、、、)」

「アンディ様、ダメですよ。ショーン様は繊細そうですし、ちゃんと大事になさって下さい。取り返しのつかない事になる前に、浮気ごっこはお止め下さい」

「、、、そうだね、、、。ショーンも最近は私を避ける様になってしまったし、、、。ショーンの気持ちがわかったから、そろそろお終いにしないとね」

ソニア嬢は微笑んだ。

「大切にして下さいね」



*****



 教室がザワザワしていた。

「アンドリュー様っ、ショーン様が!」

アンディはソニア嬢と顔を見合わせる。

「階段から落ちて!」



 急いで教護室へ向かう。中に入る事が出来なかった。ショーンの兄、エディが救護室から出て来て、アンディに気付く。

「アンディ」

「ショーンは?」

「階段から落ちた。頭を打っている様で、意識はあるんだが、、、。ぼうっとしていて、、、」

「中に入っても?」

「静かにね、、、」

アンディはソニア嬢と二人で部屋の中に入った。


 ショーンは一時的に記憶の混濁があった。エディに声を掛けられても、ここが何処かわからず、30分程前の記憶が無かった。

 どうして、救護室のベッドの上にいるのかわからない。ただ、頭が酷く痛い。

「あの、、、」

アンディの名前が瞬間わからなかった。そっと、エディの方を見る。

「アンディが来てくれたから、僕は少し先生と話してもいいかな?」

ショーンは不安になる。

「アンディ、、、。アンドリュー様、、、」

ショーンは少しだけ時間が掛かったものの、ちゃんと思い出した。しかし、横にソニア嬢が立っているのに、気が付き兄を頼る。

「兄様、、、」

エディの手を握る。アンディはそれを見て不安になった。

「ショーン?」

アンディが名前を呼ぶ。

 ショーンはアンディを見ない。見たく無かった。隣にソニア嬢がいたから。

「あの、俺の事、わかる?」

アンディが聞く。

 ショーンはエディの顔を見る。助けて欲しかった。

「ショーン?」

エディはショーンの不安そうな顔を見る

「ショーン、アンディだよ。わかる?」

ショーンはそっと頷く。ズキリと傷口が痛む。

 アンディはホッとした顔になるが、ショーンの表情は不安そうなままだった。

 ショーンは口を開いたら涙が溢れそうだった。何故、アンディはソニア嬢と一緒なんだろう、、、。


 「兄様、、、」

一言発した途端に涙がポロポロ溢れた。

「兄様、行かないで」

(三人にしないで、、、)

「ショーン、、、」

エディはベッドに腰掛ける。

「どうしたんだい、ショーン。子供みたいに泣いて、、、」

ショーンにもわからない。ただ、アンディとソニア嬢と三人にはなりたくなかった。



「今日は、激しい運動は禁止です。また、頭をあまり動かさない方が良いでしょう。2日程、様子を見て下さい。、、、今晩から明日辺り、何か症状が出るかも知れません。一時的なものなら心配無いと思いますが、継続する様なら医者に見せて下さい」

ソニア嬢がショーンとアンディの鞄を持って来てくれた。アンディは、二つとも受け取りお礼を言う。

 ショーンはそれを見ながら、本当にお似合いだと思った。


 見れば見る程、ソニア嬢は綺麗だった。アンディと並んで立つと空気が変わる。



*****



 馬車に乗って、ショーンとエディは帰る。アンディも別の馬車で帰宅する。


 屋敷に戻り、部屋に入ると着替えだけして布団に入る。

「明日は学園はおやすみだよ」

兄、エディの言葉にホッとする。



 夜中に目を覚めると母が枕元に置いた椅子でウトウトしている。

「母様、、、」

フッと目を覚ます。

「ショーン、、、気分は悪く無いかしら?」

「大丈夫です」

「どこか痺れているとか、動かない所は?」

ショーンは手のひらを握ったり開いたりして確認する。

「大丈夫」

にっこり笑う。

「どうして階段から落ちたのかしら、、、」

母の瞳が潤む。

「階段の途中で、誰かに引っ張られました」

「、、、」

「そんなに高い位置ではありません。ただ、落ちない様に手摺を掴んだのですが、掴みきれずに転んでしまって。後頭部を打ちました、、、」

母はそっとショーンの額を撫でる。

「ちょっと、考え事をしていたのが悪かったのです」

ショーンは母の手を握り、頬に寄せる。

「母様、、、僕は、このままアンドリューと結婚出来ますか?」



「何か心配事があるのですか?」

「もし、アンドリュー様から婚約取り消しのお話があったら、そのままお話を進めて下さい」

「、、、」

ショーンは母の手を握りながら、そっと涙を拭いた。

「お願いします」

「ショーン、、、。貴方がそうしたいのなら、、、」



*****



 翌日、アンディがお見舞いに来た。花束を持って。

 ショーンは二人きりになりたく無かった。


 二人で少し話している時、アンディがショーンの話し方に違和感を感じた。少し、舌足らずな、呂律が回らない様な話し方だった。 

 ショーン本人は気付いていない。

「ショーン、ちょっと待ってて」

そう言って、アンディは侍女にショーンの兄を呼んで貰う。

 エディが走って来る。

 ノックをして、そっと扉を開ける。

「ショーン、私も一緒に良いかな?」

「兄様」


 しばらく三人でお茶をしているとやはり、ショーンの話し方に違和感がある。そっと時計を見て確認する。気にしていると、10分程で違和感は無くなった。

「ショーン、気分が悪かったり、身体が痺れたり動かない様なら、すぐ教えてね」

 エディは最後まで席を外す事なく、一時間程でアンディと一緒に部屋を出る。

「ショーン、今日は無理するといけないから」

「ありがとう。僕も疲れました、少し休みます」



 アンディとエディは、二人で別室に移動する。

 家令も呼び、ショーンの話しをする。

 


 大事を取って明日も学園は休ませる事にした。



*****



 翌日もアンディは花束を持ってお見舞いに来た。

「アンドリュー様、学校は?」

「休んだよ」

「大丈夫ですか?」

「勉強が遅れたら、ショーンと一緒にやるよ。今日は体調はどう?」

「大丈夫です。気分は良いし、痺れも動かない所もありません」

「今日はお医者様がいらっしゃるんでしょ?」

「はい」

「俺も一緒にいてもいい?」

「勿論」


 暫くして、医者の訪問があり、母と一緒にショーンの部屋に入ってくる。

 問診を受け、あちこち触る。医者はにっこり笑う。

「大丈夫そうですね」

「あの、、、」

アンディが

「昨日の事なんですが、、、」

医者に昨日の話しをした。

「そうですか、、、時間が経ってから、何か症状が出る事もあります。意識が無くなったり、痺れが出る、動かなくなる、先程の呂律が回らなくなるもそうですね。そんな症状が出たらすぐに医者に診てもらって下さい」

アンディとショーンの母は先生の話しをしっかりと聞いた。

 母が医者を見送りに出る。

「ショーン、大丈夫?」

「大丈夫です」

アンディはそっとショーンの手を握る。

 ショーンがキュッと小さく握り返す。



*****



 朝、アンディが迎えに来た。

 学園に通う様になって、初めての事だった。

「心配だから、一緒に行こうと思って」

アンディがにっこり笑う。

「あの、アンドリュー様、、、」

「どうしたの?」

「こちらまで来て頂くと、遠回りになりますし、、、」

「明日も来て良いかな?」

(明日も?)

ショーンの動きが止まる。

「イヤかな?」

「そんな事は、、、」

二人はアンディの馬車に乗り、学園に向かう。



 朝の挨拶が飛び交う中、ソニア嬢の後ろ姿を見つけた。ショーンはアンディの方をチラリと見る。

 アンディと目が合った。

「?」

アンディは小首を傾げる。ショーンは何でも無いフリをした。

「あの、アンドリュー様。今日は水曜日なのですが、、、」

「お昼になったら迎えに行くよ。教室で待っていて」  

「先日は、水曜日のお昼に用事があるとおっしゃっていました、、、」

「、、、ああ、大丈夫。ショーンより大事な用事は無いから」 

「???」 



 階段の前に立つと足がすくんだ。あの、階段だった。アンディがスッと腰に手を回し支えてくれる。

 ふと見上げると

「大丈夫?怖い?」

と心配そうにしていた。

「ありがとうございます。大丈夫です」

そのまま、二人で大階段を上がる。



*****



 ランチの時間になるとアンディが迎えに来た。

「ショーン!」

教室が少し色めく。ショーンは恥ずかしくなって、頬を染めた。

「アンドリュー様、、、。そんな大きな声で、、、」

パタパタと小走りで近寄って来るショーンが可愛い。


 今までも、ショーンは可愛かった。でも、アンドリューはショーンが自分にヤキモチを妬くほど好きなのかと思うと、更に可愛く見えた。

 相手に好かれていると思うと、心に余裕が出来るのか、ただ教室に呼びに来るだけなのに、ワクワクする。



「アンドリュー様、、、ソニア様はよろしいんですか?」

「ソニア嬢?」

「いつも水曜日はソニア様と、、、その、、、」

「それは、先週までね。今日からまたショーンと一緒だから」

ショーンは何だか誤魔化された気がした。



 ランチ時の食堂は混雑している。アンディはショーンの後ろに立ち、人が当たらない様に庇う。トレーに食べたい物を選んで載せるスタイルで、ショーンはいつも慌てて選んでいた。後ろの人を待たせない為だった。

「今日は、何を選ぶの?」

「え、、、と、サラダとメインはチキンにしようかな、、、」

アンディがササっとショーンのトレーに載せる。自分のトレーには、フルーツとレアステーキの皿、チョコレートムースも選んだ。

「後は?」

ショーンはチラッとアンディを見る。

「あの、オレンジジュースを、、、」

オレンジジュースに手を伸ばし、ショーンのトレーに載せる。アンディのトレーにはリンゴジュース。

「行こう」

「ありがとう、、、」


 二人は、いつもは座らない、窓際の席を選んだ。小さいテーブルで、二人掛けの席だった。

 アンディがいつもと違う気がする、、、。すごく積極的と言うか、ご機嫌?、、、何か良い事でもあったのかな?

 食事を摂りながら、チラリとアンディを見る。

「ショーン、俺のステーキとチキン、少し交換しない?」

今まで、言われた事が無かった。

「是非」

ショーンはチキンを大き目に切り分ける。アンディがステーキを一切れショーンの皿に載せ

「チキン、貰うね」

と交換する。ショーンは、アンディから貰ったステーキを食べる。

「美味しい、、、」

ふふっと笑う。

「美味しい?良かった」

アンディもチキンを食べながら

「チキンも美味しいよ」

と笑う。

 ショーンはアンディから、フルーツを少し貰い、チョコレートムースも一口貰った。


 食事が終わり、アンディがコーヒーを二人分取りに行く。ショーンは窓の外を眺める。

 アンドリューが優しい、、、。どうして?

「ショーン、体調はどう?」

ショーンは少し考えて

「大丈夫です」

と答える。アンディがショーンに顔を寄せて

「お母様が、誰かに押されたって、、、」

っ!。

「あの、アンドリュー様、こんな所で」

声を潜める。

「誰かもわかりませんし、僕は大丈夫ですから、、、」

「、、、ねぇ、、、どうしてアンディって呼んでくれないの?」

「あの、、、?」

「ショーンは、気が付いたら俺の事、アンドリュー様って呼んでる。どうして?」


 予鈴が鳴った。

 二人は食器を片付けて、教室に向かう。

「帰りに迎えに来るから、教室で待っていて」

アンディに言われて、ショーンは頷いた。



*****



 ソニア嬢がアンディに声を掛ける。

「アンドリュー様、ショーン様は如何ですか?」

「ソニア嬢、ショーンは今の所平気そうだけど、暫くは様子を見た方が良いって言われていたよ」

「そうですか。何も無いと良いですね」

「それより、あの階段の落下。誰かに押されたらしいんだ」 

ソニア嬢が息を飲む。

「ショーンは大事おおごとにしたく無いみたいだけど、、、」

「そうですか、、、」

「それじゃあ、また」

「ご機嫌よう」

手を振りながら二人はショーンの教室の前で別れる。

 ショーンは二人が手を振って別れるのを教室の中から見ていた。

「ショーン!」

アンディに呼ばれて、小さく手を振る。

「ほら、また。ソニア嬢とアンドリュー様が、、、」

誰かの声が聞こえた。小さな声で誰かはわからなかった、振り向いて確認したかったけど、怖くて見る事が出来ない。

 荷物を持って、アンディの元へ行く。

「ソニア嬢は今日も綺麗だね」

「そうだね。お手入れとか大変そうだよね」

(、、、そうだね。だって、、、)

 教室を出る間際、ショーンはさっき自分がいた場所を見た。近くには誰もいない。あの声の主も移動してしまった様だった。



 大階段の手前では、やっぱり足がすくんでしまう。手摺をしっかり掴んで、端を歩く。

 アンディが心配そうに腰を抱いてくれた。

 そっとアンディの顔を見る。


 アンディの家の馬車に乗り、ショーンの屋敷に着くとアンディは

「少し、寄っていっても良い?」

と聞く。

「どうぞ、、、」

と言うと、二人でショーンの部屋へ向かう。


「何か飲み物を、、、」

「紅茶をお願い」



 ショーンは、侍女に紅茶と軽食を頼む。

 暫くして、小さなケーキを数種類と紅茶が届いた。

「ショーン、今日の体調は?」  

「大丈夫です。どこも気になる所はありません」

「良かった。あのね、ショーン、、、」

「はい」

「どうしてアンディって呼んでくれないの?」 

「、、、自分でもよく、、、」

「、、、」

「あの、、、アンドリュー様が、少し遠く感じる様になりました」

「アンディって呼んで」

「アンディ、、、?」

「はい」

アンディが嬉しそうに笑い、返事をする。

「アンディは、ソニア嬢の様な女性が好きなのですか?」

「どうして?」

「親しく見えますし、水曜日もよく一緒にいらっしゃるみたいなので、、、」

「最初は偶然、、、。ほら、俺とソニア嬢が二人でいた時、ショーンが走って行った、、、もう、大分前だけど」

「、、、」

「あの時、ソニア嬢が「ショーンが勘違いしたかも知れない」って言ったんだ。、、、ショーンがヤキモチ妬いたんじゃ無いかって、、、」

(誰かが、アンディが浮気しているって言った頃だ、、、)

「ショーンは、あまり俺に気持ちを言わないでしょ?好き、とか愛してるとか」

ショーンが一気に真っ赤になった。

(あれ?ショーン?)

「ショーンから手を繋ぐ事も無いし」

ショーンが自分の頬を両手で触る。

「俺と会えるからって、はしゃぐ事も無いし」

ショーンがどんどん照れて行く。

「だって、、、アンディに相応しくなりたくて、、、。子供みたいな事、したくなかったんです」

「初めて会った時から、ショーンが好きだった。でも、ショーンの気持ちはずっとわからなくて。ショーンがヤキモチ妬いたんじゃ無いかって言われたら、すごく嬉しかった」

「、、、」

「それから、俺はショーンを試すみたいに意地悪してた。わざと令嬢達と話したり、水曜日、他の人と会ってるフリをした。ショーンが淋しそうな顔をすると、愛されてるんだって感じて、、、ごめん」

「会ってるフリ?」

「本当は用事なんて無かったんだ」 

「え、、、?えっと、、、。えぇぇ?」

「ショーンは、俺の事好き?」

「好きじゃ無かったら、こんなに悩みません、、、」

「ソニア嬢には、ショーンが勘違いした時から色々相談に乗って貰ってた。でも、程々にしないとショーンが傷付いて後悔する事になるって言われたんだ。その後、すぐにショーンが階段から落ちたって聞いて、、、。そう言えば、ショーン、、、引っ張られたって本当?」

「あの、誰から聞いたんですか?」

「ショーンのお母様から聞いたよ」

「、、、そうだったんですね。、、、肩を後ろから引っ張られました。でも、誰だったかはわかりません。、、、知りたくも無いし、、、」

「知りたく無いの?」

「だって、誰だかわかったら怖いです、、、」 

「怖い?」

「今は誰かわからないから、犯人像もふんわりしているけど、犯人がわかった途端に現実味が増して、怖くなります。、、、きっと、僕が相手の気に入らない事をしたんだと思うけど、はっきりした理由を知るのも怖いです」

「そうか、、、」

二人の空気が重くなる。


「あの、、、アンディ、、、。僕の質問に答えて無いと思います」

「ん?」

「ソニア嬢の様な女性が好きなのか聞いたんですけど、、、」

「俺の好きな子は、ショーンだよ」

「でも、僕、、、ソニア嬢みたいに、、、」

「ん?」

「ソニア嬢みたいに、可愛く無いし、柔らかい胸もお尻も無くて、真っ直ぐなんだけど、、、」


 え?可愛い、、、!


「ショーン、あのね」

アンディはショーンの手を取り、キスをする。

「俺、ショーンの全てが好きなの。わかる?」 

ショーンが真っ赤になって、身体を引く。心の中で悲鳴を上げてるんじゃないかと思う位、緊張している。


 可愛い、、、


「ショーンが、俺に相応しくなりたくて努力している姿も好きだし、無理していない、自然なショーンも好き。胸があるとか無いとかじゃないんだよ?」

「本当に?」

「本当に。でも、俺にもっと甘えてくれたら嬉しいな、、、」

「ありがとう。アンディ」



*****



「結局、誰がショーン様に怪我をさせたかはわからないんですよね」

ソニア嬢が声を潜めて言う。

「本人が知りたく無いって言うからね、詮索はしない方が良いかなって、、、」

「多分なんですけど、、、」

「?」 

「アンドリュー様がショーン様の気を引こうとした時にお声掛けした令嬢が、、、」

「何か知ってるんですか?」 

「前からアンドリュー様をお慕いしていらっしゃったようで、、、その方が、ショーン様に、、、」

「そうですか、、、。あ!名前は言わないで下さい。知ってしまうと私も何をするかからないので、、、」

「わかりました」 

「どちらにしても、私の所為ですね、、、」

「皆さんに好かれているので、、、」

「その後、ショーン様の体調は如何ですか?」

「今の所、特に心配する様なものはありませんね」

「あ!」

「ショーン!」

ショーンは少し遠慮がちに近寄って来た。

「お待たせしました」



*****



 ショーンはアンディとソニア嬢と一緒に、馬車に乗り込んだ。

「あの、どちらに向かわれているんですか?」

「ソニア嬢のご自宅にね」 

ショーンは訳がわからないまま、アンディの顔を見つめる。

「楽しい事が待っているそうだよ」 

ソニア嬢がウフフと笑う。



*****



「ショーン様は、お肌が綺麗だからウキウキしますわ!」

「あの、ソニア様?」

「しー!じっとしていて下さいませ」

何やら顔にクリームを塗られ、訳のわからない物を塗られる。

「少し、お時間を置きますから、その間にお着替えしましょう」

にっこり笑うソニア嬢が怖い。

「え?これを着るんですか?!無理!無理ですよ?」

「大丈夫です!ちゃんと綺麗にして差し上げます!」

「あの!そーゆう事じゃ無くて!」

「え?あ!待って!待って下さい」

「ちょっ!やっ!ああぁ、、、ひっ!」


「良いですか?男性だからと言ってサボらず、お肌のお手入れはちゃんとなさって下さいませ。花嫁になるんですから、毎日丁寧にやれば本当に美しくなれるんです。女性の様にしっかりとしたお化粧で無くて良いのです。相手にわからない様な自然な仕上がりで、ほんのりと仕上げるのです」


「はい、、、」



*****



 ショーンは両手で顔を隠して俯く事しか出来なかった。


ショーンが黒いドレスを着ている。女の子らしい、前面はスッキリとしていて、スカート部分にはレースが重なっている。レースには繊細な薔薇の刺繍がされていた。スカートにボリュームがあるせいか、華奢で、肌の白いショーンの上半身が折れてしまいそうに見える。


「え、、、待って?どーゆう事?」

わたくしの力作です!」

「あの!ソニア嬢!このままお持ち帰りしても?!」

「是非!」

「ドレスは後日お返しします!」

 

 アンディは、ショーンを抱き抱えると馬車まで急ぐ。ショーンは落ちない様にアンディにしっかりしがみついた。

 馬車の手前で、ショーンを降ろし、馬車に乗り込む。侍女が追いかけて来て、忘れた荷物を届けてくれた。


「ねぇ、ショーン?」

「、、、はい」

「これ、、、どーゆう事かな?」

「あの、、、あの、、、」 

ショーンは涙目になった。

「いきなり脱がされて、、、」

「脱がされたっ?!ソニア嬢、俺より先にショーンを脱がしたの?」

「???」 


 アンディは取り敢えず、御者に屋敷に戻る様に伝える。それから、しっかりとショーンを後ろから抱き締める。 

 ショーンは、アンディに抱き締められて少しだけ落ち着いた。


 屋敷に着くと、誰にも見られ無い様に抱き抱え、急いでアンディの部屋に向かう。侍女にも

「お茶も何もいらないから!」

と言って、扉の鍵を閉めた。


「ごめんなさい、アンディ、、、」

扉を閉めると、抱き抱えられた腕の中で、ショーンが謝る。

 アンディはショーンをベッドまで運び、そっと降ろす。

「ショーン、、、」

ショーンはアンディを見つめる。

「女の子になっちゃったの?」

ショーンはブンブンと首を振る。

「胸があるけど、、、」

ショーンの小さい胸をアンディが触る。

 ショーンが恥ずかしそうに、ピクリと反応する。

「ソニア嬢が、、、作ってくれて、、、」

「へぇぇ、、、すごい」 

アンディの手が、胸から腰まで撫でる様に下がる。

「ん、、、」

「細っそ、、、」

「ア、アンディ、、、」

「なぁに?」

ショーンの顔は、薄く化粧がされていた。遠目ではわからない位、薄い化粧だった。

「待って、、、」

眉毛も少し整えられている。頬と瞼に薄っすらと。唇にも、、、

「へぇ、、、わからなかった、、、」

アンディが唇を親指でそっと撫でる。ショーンが潤んだ瞳でアンディを見つめた。

「キス、、、してもいい?」

アンディの顔がゆっくりと近づいて来る。

「返事して、、、」

「あの、、、」

「いい?」

「はい、、、」

チュッと唇を重ねる。

 ショーンの瞳から涙が流れた。

 もう一度、チュッと唇を重ねる。

 離れた唇から吐息が漏れ、もう一度キスをする。

 アンディは眉間に皺を作りながら

「これ以上は我慢しないと、、、ぐっ、、、」

ショーンを抱き締めながら呟いた。

「アンディ、このドレス、、、脱がして欲しい、、、」

「!」

「あの、、、自分じゃ脱げないドレスで、、、着替えが出来無いんです、、、」

アンディは自身の理性と闘う事になった。



 ショーンは背中を向けて

「お願いします、、、」

と小さく言う。肩が恥ずかしそうに震えている。

 アンディが1番下のリボンを解く。ショーンを見ると耳が真っ赤になっている。

 シュルッと、リボンと布が擦れる音が、静かな部屋に響き渡り、アンディまで心臓の音が聞こえて来る様だった。

「アンディ、リボンは抜かないで緩めるだけで良いです」

胸を押さえ、振り返りながらショーンが言う。

(待って、、、理性が飛ぶ)

アンディはショーンを抱きしめながら

「、、、早く結婚して、、、」

とお願いした。

 ショーンはアンディの腕の中にすっぽり入ってしまう。アンディに包まれて、とても幸せだった。



*****



 ソニア嬢にドレスを返しに行く。

紅茶と軽食を目の前にして、アンディとショーンはソニア嬢の話しを聞く。

わたくし、お洒落が大好きで、サロンを開きたいんです。それを婚約者に話したら、婚約を取り消されました、、、。でも、諦めたくないんです。ショーン様にお化粧した時はワクワクしましたし、需要があれば、男性にもお化粧をして差し上げたいわ」

「ソニア嬢、結婚式の時はショーンを世界一可愛くして欲しいな」

「ま、またやるんですか?」

「勿論!この間は、ドレスを脱ぐのを手伝っただけだからね。結婚式には初夜もあるから、、、」

ショーンは意味がわかると真っ赤になって俯いた。

「あら、うふふ。でしたら、ナイトドレスも作ろうかしら」

何故か、ソニア嬢がウキウキしていた。


 ショーンはアンディが楽しそうな顔をしているのを見ると、嬉しくなった。

 ソニア嬢は中々の野心家で、新しい製品を見つけると、ショーンと二人で仲良く試す事もある。

 あんなに不安だった毎日が嘘の様に、ショーンは今、結婚式を楽しみにしていた。

初夜、、、頑張れ

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