989 星暦557年 桃の月 15日 家族(?)サービス期間(13)
「今日中に報告書を終えてくれたら、映像用魔具に使う魔石の充填をしてくれるそうですよ。
ウィルが」
シェイラが相変わらず報告書の提出が終わっていないツァレスへ、にっこりと笑いかけながら俺を指して言った。
結局、精霊からは初期の頃(多分)は戦いもあったけどそのうち平和な感じになって、住民が自分たちで防衛とかに関して管理できるようになり、森への出入り制限の代わりに中央広場部分の維持を頼まれ、いつの間にか子供が減っていって気が付いたら居なくなっていたという程度の情報しか得られなかった。
住む人間が居なくなってからも、聖域というか巡礼地というかな感じだったのか時折人が来ていたらしいが、考えてみたら最近(人間的な感覚では大昔だけど)はそれも無くなっていたらしい。
どうも初期から中期ぐらいの時にはそれなりに精霊と気の合った人が多かったから色々と遊んだり話をしたりしたのに、後の方になるとあまり面白い人間もいなくなって声を掛けられなくなったし精霊の方も気に掛けなくなって、お互い関係が希薄になっていったらしい。
それでも精霊側は律義に昔頼まれたことはやり続けていたみたいだけどね。
なのでどんな感じにフォラスタ文明が終焉を迎えたのか、何故あの遺跡部分が遺跡として発見されるまで忘れ去られていたのかは不明なままだ。
シェイラもあまり期待はしていなかったのか、あっさり諦めて普通の作業や俺との散策、後は発掘チーム各位からの必要書類の取り立てに頑張っていたので、とうとう残ったのはツァレスの報告書だけになった。
これが上手く入手できれば一緒にジルダスまで遊びに行けるし、あっちでシェイラが心いくまで蚤市場を見て回った後に王都でのんびりできる。
ということで賄賂代わりに魔石の充填をしてもいいぞ?と言ったのだが・・・
なんかこう、ツァレスの目の色が変わったんだけど。
魔石なんてそこまで極端に高くはないんだ。
普通に予算があるなら年に数個は問題なく手に入るだろうに。
「ついでにこれとこれの魔石もお願いできるかな?!
虫除け結界の魔石も切れて、冬になる前はかなりつらかったんだよね」
がさごそと机の上を漁って魔具を出してきて、キラキラした目で俺を見つめやがった。
「その報告書が終わればシェイラと年末に遊びに行けるんで、その為だったら追加で二つぐらい充填しても良いかな?
だけど遅くなって二人で過ごす日数が減りそうだったら・・・気力が萎えて無理だと思う」
魔石の充填に気力なんてほぼ関係ないけど、ツァレスは色々と手ごわいからな。
本人がやろうと思った時に納期をしっかり認識させて直ぐにやらせないと、後回しにされる。
しかも最終的に提出すれば良いんでしょ?とか言って結局魔石の充填も求められそうだからな。
あの報告書を提出しなければ予算が下りないんだから、最終的にはツァレスだってちゃんとやるんだが、彼の『間に合う』とシェイラの『間に合う』では時期が数十日単位で違うんで、根気比べになったら負けるのはシェイラだ。
なので、俺の楽しみの為に急げと重点をずらす。
しっかし。
シェイラがいつか王都で歴史学会で働く様になったら一緒に過ごせる時間が増えて良いんじゃないかなぁ〜なんて漠然と思っていたんだが、考古学バカ達と商家出身のシェイラでは時間とか納期に対する感性が違いすぎるな。
これじゃあシェイラがツァレスとそのチームだけでなく、歴史学会のメンバー全般から色々と書類を集めなきゃいけない地位になったらストレスが凄い事になりそうだ。
そう考えると、休みの時だけ会いに行くので我慢した方が良いかも?
ある意味、俺がもっと早く毎日の仕事を切り上げて毎晩夜に転移門でシェイラが居るところまで移動したって良いんだし。
シェイラの発掘現場がある街に家を借りて、そこに住んで工房へ通う感じでも出来なくはない。
通常の開発作業では魔力はそれ程使わないので、毎日転移門を通勤に使う感じも不可能じゃあないのだ。
まあ、王都内の魔術院への通勤に時間がかかるんで今の郊外の家ではなくもっと中心地の傍に工房を移動させてもらわないと厳しいが。
・・・もしくは、空滑機で魔術院の屋上に離着陸する許可が貰えればなんとかなるか?
魔術院が頭の固い事を言うなら、どっか近くの商家かギルドに話を付けて屋上を使わせてもらうというのも有りかもだし。
通勤の為に毎朝と毎晩の王都内への飛行そのものの許可を貰えるかが問題かなぁ。
まあ、まだまだ先の話だけどな。
色々と道具ややり方は考えて工夫できるだろうが、どう考えても考古学バカ達の時間的感覚は変わらないと思うから、シェイラに王都の歴史学会本部で働くようこちらから説得するのは止めた方が良さそうだ。
通勤で王都の中心地の上空を毎日飛んでたら目立つから、許可は出なそうw




