978 星暦557年 桃の月 10日 家族(?)サービス期間(2)
「報告書とかやらなきゃいけない手続きが全部終わっているなら、年末に東大陸にでも行く?
あの蚤市場が年末に向けて賑やかになるのか寂れるのかは知らんけど。
日帰りも可能だよ?」
2人だったら屋敷船を使うよりも転移門で行った方が手軽で良いだろう。
領事館に泊めて貰うのもありだし、夕食をあっちで食べた後に寝るのに王都へ帰るのも可能だ。
他に魔力を使わない平時だったら、二人分の転移門の魔力を提供するぐらいどうということは無い。
やっぱ異国で寝るよりも自分の部屋で寝る方が安心だからな。
なんと言ってもシェイラは未だにあの王都の部屋を維持しているのだ。
偶には使った方が良いだろうし。
「え、日帰りもできるの??
だったらちょっと行きたいかも?
誰かが報告書の提出を想定以上に遅れても、流石に最終日には終わるでしょうから遅れたら日帰りということも視野に入れて、早めに終わったら数日向こうでぷらぷらするというのも良いわね」
シェイラが前向きに応じてきた。
「おや。
誘っておいてなんだが、珍しいな。
いつもだったら時間があったら遺跡の探索を優先することが多いのに」
俺的には遺跡で何か掘り返すのを手伝うのも、蚤市場を歩き回るのも、何を見ているのか良く分かっていないことに変わりはないからどっちでも良いんだけどね。
「だって、流石に転移門をそこまで気軽に使えるとは思っていなかったから。
確実に数日間確保できるか分からないのに予定を立てて、後で中止する羽目になって迷惑をかけるかもと思うと、年末の遠出は計画しにくかったのよね」
肩を竦めながらシェイラが言った。
なるほど。学者バカの誰かが提出の必要がある書類を想定以上に遅らせる危険性があるから休みの予定を立てにくいのか。
年末の報告関係は発掘隊の評価、ひいては予算金額にも影響するらしいからな。
馬鹿がアホなことをやっても自業自得って知らぬふりは出来ないのだろう。
やっぱ誰かの行動に責任を持つ立場って面倒だよなぁ。
まあ、シェイラはそう言う馬鹿加減も考慮に入れて色々計画して転がしていくのがそれなりに楽しいみたいだが。
ある程度挑戦がある方がやりがいがあるとか言っていたかな?
「そんじゃあまあ、取り敢えず街中を歩き回ろうか。
美味しそうな店を色々と試してみるのも面白いかもだし。
ちなみに、実家の方はどうなんだ?」
コートを羽織り、防寒用魔具をシェイラにも一つ渡して自分のを起動させながら尋ねる。
「う~ん、微妙に兄貴のアホ加減が改善されている・・・のかも?
まあ、ある意味さっさと脱落するか劇的な改善を見せるかどっちかにしてくれた方が評価対象が減って父も楽になると思うんだけどねぇ」
微妙な顔をしながらシェイラが言った。
つうか、あの兄貴は十分馬鹿じゃね?
未だに跡継ぎ候補として評価対象に含んでいるのか??
「え、あの兄貴ってまだ跡取り候補から外されてないのか?
流石に準戦時にヤバい所に出て行って拿捕されるようなアホはダメだろ??」
その他の行動もお世辞にも賢いとは言えないが。
「商家にとっては戦時って言うのはうっかり前線に出ちゃわない限り、上手くいけば大当たり、失敗しても拿捕されるだけで時間以外は大して失わない、それなりにリスクを取る価値がある場合もあると考えられる状況なのよ。
実際に船を撃沈されたら大損だけど、拿捕で収まる状態だったら沈没した時よりは少ない支払いで済むのに、儲けは平時よりかなり大きいから。
だから私から見たら極めつけにアホな行為だったけど、商人の常識から見るとちょっと運が悪かった程度に考える人もいるのよねぇ」
溜め息を吐きながらシェイラが言った。
なる程。
シェイラと親父さんはあの長男はアホだと思っていても、他の商家が長男の跡継ぎレース脱落を不当だと思うような状況だと色々と面倒なことになりかねないのか。
「だけどさぁ、戦時中に儲ける商家ってそれなりに軍なり敵国なりにコネがあって状況に関して他の連中を出し抜けるだけの情報があるからこそ成功するんだろ?
どう考えてもあの兄貴は自分に都合のいい思い込みで行き当たりばったりな行動をしていただけだと思うんだが」
なんと言ってもヤバいから気を付けろと警告されたのに出て行って拿捕されたのだ。
アホだろう。
「まあ、他にも捕まった商家が居たからねぇ。
その人たちは情報が無くて捕まったのに対し、兄は父から情報を提供されたのに自分の想定と合わなかったから無視しただけなんで、同じじゃないんだけど。
ある意味、同じような間違いをしている商家から見ると、兄を切り捨てるような商家だったら自分も取引で何か間違いを犯したら助けて貰えずに切り捨てられるかもって不安視される可能性があるのよ」
う~ん、取引相手なんぞに助けて貰えると期待されても困るだけじゃねえの?
まあ、助けて貰えなくてもちょっとした猶予とかで、破綻とぎりぎり何とかなって最終的に大儲けするのとの違いになるかも知れないからな。
厳しすぎる取引相手っていうのは避けたいと感じるのかも?
兄貴にちゃんと情報を提供していたって言って回ると今度は捕まった商家の方から自分達がヤバい事をやっているのを分かっていたのに傍観していたのかと恨まれかねないだろうし。
なんとも面倒なもんだね~。
ちょっと雑談。
兄貴が完全に切り捨てられずに彷徨いている理由w




