975 星暦557年 桃の月 01日 次は?(10)
「なんかさぁ、本体の方でジャンプさせるような仕組みを付けないとなると、あまり俺たちが工夫しなきゃいけない改善点ってもうあまり無さげな感じじゃね?」
休息日の間に家族やシェイラに競馬オモチャ試作品を見せた反応についての話し合いが一段落つき、お茶でも淹れようと立ち上がりながら結論を口にする。
「まあ、確かに本体の魔術回路を複雑化するとか、出力を上げるためにガッツリ魔石の数を増やすとかランクを上げるとかを避けようとすると、周辺の小道具による工夫だから私たちよりも夢中で遊んでいる子供たちの方が色々と思いつくし、それを商品化するのはシェフィート商会なりオモチャ工房なりの人間の方が向いているな」
アレクが肩を竦めながら同意した。
「突拍子もない面白そうな提案は色々と甥っ子とかから出て来るんだけどね~。
実現性はちょっと微妙って感じなのが多いかも?
そう言うのも一つ一つ試作してもらう必要はあるし」
クッキーの缶を棚から出してきながらシャルロが付け加える。
「それに下手に凄い技術を実現してもヤバそうだったら国に召し上げされそうだったり、高くつきすぎてあまり売れなそうだしなぁ」
崩れかけた洞窟や崩落事故の現場や、長く使われていなかった秘密通路のような場所を捜索させるのにあのオモチャの改造版を使うのも悪くないかと思って昨日シェイラに言われてからちょっと色々と考えてはみたのだが、実現性が難しい上にまず確実にヤバい使用用途を思いつく人間が出てきそうなんだよなぁ。
「国に召し上げられるとは?」
「シェイラが、新しく発見した遺跡の通路とか洞窟とかで安全性が疑わしい場所を実際に補強して調べる価値があるかを確認する為に中に、あのオモチャを走らせて状況確認に使えたら便利なのにと言っていたんだ。
常時金欠な遺跡発掘団はまだしも、鉱山とか事故現場とかだったらそう言う入ったら危ないかも知れない箇所に自走できる魔具を入れて、中の映像や魔力探知を出来たら危険度の把握とか生存者の確認とかに便利かもしれないだろ?
ただまあ、そう言う便利な道具って人間が忍び込めない警備の厳しい場所にそっと潜入させて盗聴なり盗撮なりにも使えるだろうから、国が禁止に近い感じで召し上げると思う」
まあ、盗聴とか盗撮って違法ではあるがそのための道具や魔具を召し上げるかどうかは五分五分かも知れないか?
だが、そんな道具を作ったら世の為にはならないだろ。
「う~ん、映像を記録させて戻ってきてから確認するのはまだしも、手許で映像を確認しながら動かすのは無理じゃない?」
シャルロが指摘する。
「共鳴機能を使えば、ランクの高い魔石が必要になるだろうが映像を手元で再現させるのも可能じゃないか?
もっとも、しっかり細かい部分まで見えるだけの情報量を共鳴させようとしたらかなりの高ランクな魔石が必要になりそうだし、経済的に痛くないレベルの魔石を使ったんじゃあ映像が荒すぎて何を見ているのか分からない可能性も高いが」
あの共鳴機能ってマジで凄いよな。
幸いというか不幸にというか、限定的なちょっとした動き以上の事をやろうと思うと滅茶苦茶魔力を喰うし距離が伸びるととんでもなく出力の大きな魔石が必要になるが。
「・・・確かに色々と悪用出来そうかも知れないね。
そう考えると、あの共鳴機能の魔術回路って特許登録して良かったのかちょっと心配になるな」
アレクが眉を顰めながら言った。
「そうなんだよなぁ。
まあ、あの指輪式毒探知魔具に既に使われていたんだから、裏社会の一部の人間には知られていた技術ではあったんだが・・・毒探知技術の独占の為に公開されていなかったのに、今回のオモチャで特許登録しちまったからなぁ」
世に放っても問題ない技術だったのか、ちょっと心配になってきた。
オモチャとして使う分には罪がない遊び道具の一環だということでそれ程気にしていなかったんだけど、他の使い方を考えると色々と心配になってくる。
まあ、新しい技術っていうのは何らかの形で悪用出来ることが多いんだから、それらを恐れて何も新しい開発をしないんじゃあ世の中がいつまで経っても変わらないし退屈な世界になっちまうが。
「どちらにせよ、鉱山なんかではそれなりに既存の技術があるだろうし・・・デコボコで障害物の多い事故現場や、まだしっかり掘られていない坑道などを動けるような仕組みを作るのは大変だろう?
国に召し抱えられる以前に実現するのに物凄く時間と労力が掛かると思うぞ」
アレクが指摘した。
確かに。
「それじゃあ、もうそろそろこのオモチャの開発もほぼ終わりって感じにする?
もしくは馬じゃなくって球だけにして、お互いにぶつけあってどっかのゴールに入るのを競うオモチャとか作ってみても良いけど」
シャルロが言った。
ボールゲームをリモコンで競う遊びに需要があるのか・・・?




