950 星暦557年 黄の月 7日 新しい伝手(14)
「お帰りなさい。
何か面白い物は買えましたか?」
ケッパッサを離れて帰りは一直線でパストン島に来た。寝ている間に海を突っ切ったらしく、昼過ぎにはパストン島の港に入港していたぜ。
行きは三角形の直角の部分を進む形にジルダスに行ってから南へ曲がってケッパッサに向かったので、帰りは斜めの線を突っ切れば良いだけだから距離的には1日弱分だとしても、風向きやら海流の影響、距離から図った角度の計算とか言った色々と難しい要素を考慮する必要があるらしいのだが・・・。
『パストン島までお願い』とシャルロに蒼流へ一言お願いしただけで後は寝ていたら着くんだから、便利だよなぁ。
ある意味新規航海ルートなのに全然苦労も用心も努力もしていない楽さ加減に、ズロクナが頭を抱えていた。
一応六分儀?とやらでケッパッサの場所を計測して海図っぽいのにジルダスからの詳細も書き込んでいたが・・・何分、朝起きたらがっつり移動が済んでいたので情報にかなり穴があるようだ。
ケッパッサとの交易を本格的に始めることになったらパストン島との航海に関してはプロの船乗りに精霊に頼らぬ航海で確認してもらう必要があるだろう。
「うん、そうだね、まあまあな結果だったかな」
港から食料を運び込むのを見張りながら明るく声を掛けてきた役人にシャルロがにこやかに応じる。
行きにもそれなりに補給してあるから大量には要らないが、一応何かが起きた時に困らない様に食材は余裕を持っておく方が良いだろうということで帰りもパストン島で補給しているのだ。
行きは食材だけ買って直ぐに出向したのでジャレットに会わなかったが、帰りは流石に声を掛けるべきだろうと連絡してある。
「おう!
よく来たな!」
そんなことを考えていたら、奥の方からジャレットが早足で降りてくるのが見えた。
早いな!!
島が視界に入ってきた時点で携帯用通信機でジャレットに連絡を入れてみたんだが、早速その時点で港へ向かってくれていたらしい。
「お久しぶり~。
美味しい所に連れて行ってくれるんでしょ?
お腹空いた~~!!」
シャルロが嬉しそうに声を上げる。
そう。
まだ昼食を食っていないんだよね、俺たち。
入港時ってそれなりに手続きがあったりするし、バタバタするから入港するのは食べてからにしようかと思っていたんだが、ジャレットに連絡したら『上手いところに連れてってやる』と言われたから空腹を我慢してそのまま入港したのだ。
「おう!
キャリーナがしっかり準備しているぜ~!」
自慢げにジャレットが応じた。
おっと。
美味しい食事処じゃなくて家に連れて行くんかい?!
いや、確かにキャリーナは料理が上手いし、店で毒の話とかするよりはジャレットの家の方が周囲の耳を気にしなくて済むが・・・。
キャリーナに迷惑だったんじゃないのか?!
突然の来客、しかも食事を要する来客って奥さん連中には嫌われるんだぞ??
以前買い物に付き合った際の雑談中にパディン夫人がちょっと旦那の愚痴を言っていたが、それなりに妻にとって突然の来訪者は迷惑だし、ただでさえ急いで掃除をしなくちゃいけないところに『適当に軽く美味しい物を食わしてくれ』なんてお願いされたら殺意すら感じるって話らしいんだが・・・。
まあ、キャリーナだったらそれなりに家の掃除はいつもきっちりしているから慌てて掃除しなきゃいけない部分なんてあまりないだろうし、俺たちは埃なんぞ目に入らないタイプなんだが、怒られるんじゃないかなぁ。
「急な客を家に連れ帰ると怒られないのか?
しかも料理まで頼むなんて、キャリーナが大変だろうに」
アレクも急な来客の問題点は知っていたのか、ジャレットに合流してからちょっと心配そうに尋ねていた。
「ああ、こないだお前らが補給しに入港しただろ?
こっちに声を掛けてこなかったから帰りに寄る可能性が高いかもって話を家でしたら、キャリーナに家へ呼べって命じられたんだ。
だから通信機でちゃちゃっと連絡したら準備万端だってさ!」
ジャレットが笑いながら応じた。
流石キャリーナ。
ジャレットの昇進を支えてきただけあるね~。
ついでにこの島の住民の間でケッパッサの話ってどの程度流れているのか、聞いてみようかな。
商会の正式な取引とかの話だったらジャレットの方が知っているだろうが、単に船乗りが以前寄った街の話とか、又聞き程度だったら奥さん方の噂話の方が網羅性も正確性も高い事が多いんだよな〜。
『突然の来客プラス何か食う物』コンボの地雷は既に王都時代にジャレットが何度か踏み抜いて雷を落とされているので、今は事前相談する様しっかり躾けられていますw




