946 星暦557年 黄の月 5日 新しい伝手(10)
取り敢えず、あいさつ代わりの土産として俺から美顔用魔具を渡し、返礼代わりにザグルが俺に毒探知用魔具を進呈することになった。
追加に魔具が欲しかったら後で話し合うと言うことで。
裏社会の顔役だったら特許なんぞ無視して魔具を複製する可能性が高い(成功するかは知らんが)し、俺たちだって毒探知の魔具を自分たち用に使う分は勝手に複製する気が満々だからね。
どちらも本音は口には出さず、何か他にも縁があったらその時改めて交渉しようということで合意した。
ケッパッサの美味しい食事処とか良心的な店も教えて貰おうかとも一瞬考えたが、裏社会の顔役に尋ねたらそいつに場所代を払っている店を紹介されるに決まっているので、適当に港でガキでも見つけて小銭で情報を買う方が無難だろうという結論に達した。
「じゃあ、美顔用魔具を持ってここに戻ってくるから、その間に毒探知用魔具を出して来ておいてくれ。
使い方のテストの為に何種類か毒を持ってくるから、警備の奴には言っておいてくれよ」
毒なんぞ持ち込んだら暗殺狙いかと殺されかねないが、それなりに高額な魔具と交換するのだ。
ちゃんと機能するかを確かめる必要がある。
「ああ。
こちらのワインは片付けておくよ」
ザグルがにやにやしながら言った。
「なんだったらついでに顔がかなり荒れている部下でも呼んでおいて実験してみたらどうだ?
効果のほどを先に試しておく方が女性に提供する際に有難みが増えるかも知れんぞ?」
というか、おっさんまず自分で使えよ。
年増のオバサンに入れ込んでいるなら別だが、若い女に惚れたんだったら、自分も若々しく見せないと金蔓としてしか見て貰えないぞ?
とは言え、紹介状を受け取ったとは言えども見知らぬ他人から受け取った魔具を無防備に使う訳にはいかないだろうから、まずは効果が高そうな肌の汚い部下を人身御供にでもすればいいだろう。
「考えておく」
手を上げて別れの挨拶をしながらザグルの家(かも?)を出て、港の方へ向かう。
船に入るのに浮遊の術を使うか、海面の上を歩くか、それとも適当にそこら辺の小舟を雇うかどうしようかと考えながら港に近づいたら、丁度アレクとシャルロが店から出て来るのに出会った。
ここは・・・服と生地の店か。
生地とか服っていうのはどの地方だろうとそれなりに特徴があるから、どこの街でも買うかどうか考慮する価値はあるんかな?
変に特徴的な生地なんぞよりも無難に無地で目立たないグレーとか茶色のシャツとズボンの方が良いと思うんだが・・・まあ、女性陣ってそう言う無難さをあまり好まないみたいだから、奥さんがいるシャルロにせよ、ちょくちょく実家で母親に会うアレクにせよ、それなりに服には気を使わなければならないのだろう。
良い感じの生地が見つかったらアレクのお袋さんのご機嫌取りにも使えるだろうし。
「何か良いのはあったか?」
一応小さな袋を手に持っているが、服とかこれから服に仕立てる生地には足りなそうだ。
それともこちらは暑いから服でもあの程度になるのかな?
薄すぎて防御性能が皆無だろうけど。
「それなりに変わったショールとか、テーブルナプキンとかハンカチになりそうな物があったから幾つか買っておいた。
そちらはどうだった?」
アレクが応じる。
「美顔用魔具と交換で、触れれば分かる毒探知用魔具を貰えることになった。
テスト用サンプルは船長室の引き出しの中だよな?」
一応鍵が掛かっているが、どうせ俺には関係ないし。
「ほおう?
不特定多数の毒を探知できるのか??
接触しなければ分からないにしても、便利そうだな」
アレクが興味を感じたのか足を止めた。
「まあ、触れるだけで肌から吸収しちまう致死性の高い毒だってあるから完ぺきとは言えないし、大きいんだったら招かれた晩餐会では使えないだろうけどな。
取り敢えず、サンプルを全部探知出来たらそれを改造しても良いし、後で分解して調べてみようぜ」
分解して壊れちゃったらかなり残念だが。
「そうだな。
楽しみにしている。
こっちのクリッタに紹介されたこの店は中々良かったから、他の店も期待できるかもしれない。
ウィルも魔具の交換が終わったら合流するか?」
「ああ。
シェイラ用のお土産も欲しいしな。
適当に探すよ」
交易品を見つけるのはアレクの仕事だが、土産は自分で選んだ方が好評だからな。
まあ、アレクとシャルロの助言がある方が無難だけど。
うむ。
急ごう。
海外の目新しい生地って目を引きますが・・・帰国後の最初の洗濯でどれだけ色落ちするか、ドキドキしますよねw




