941 星暦557年 黄の月 4日 新しい伝手(5)
「ちなみに例えばシャルロが東大陸に長期滞在したら天候が変わったりするのかな?」
蒼流だったら風精霊任せじゃなくても雨を降らせられるだろうし、地下水を噴水みたいに呼びだすのもさして難しくないだろう。
「あ~。
ちょっと毎日スッキリする為に夕方に夕立が降るようになるかも?
毎日雨が降れば良く育つ農作物の種類が変わるかもね」
シャルロが言った。
「・・・そう言えば、王都やウチの近辺って真夏になると夕方にざっと一雨して日中の暑さが追い払われて夜が過ごしやすくなるけど・・・もしかしてあれってここ20年弱の現象なのか??」
シャルロが王都近辺に住む様になってから起きるようになったとか??
「いや、夕立というのは昔から一応あった筈。
ただ毎日シャルロにとって都合が悪くない時間帯にっていうのはここ20年程の現象だろうな」
アレクが苦笑しながら言った。
「あれ?
シャルロとの関係に気付いていたのか?」
子供のころからあった夕立が俺たちが生まれる前にあったかどうかなんて確認しようとなんてしないだろう、普通?
「元々、魔術学院の皆で夕方に出かける時間帯は必ず外れて都合がいいなとは思っていたんだが・・・シャルロがお菓子の調達の為に抜け出した日だけ時間帯がずれて、いつもの時間に降ると思っていたら濡れた事があってな。
それから注意するようになったら絶対に夕立はシャルロが出歩いている時間帯には降らないと気付いたんだ」
アレクが笑いながら応じた。
なるほど。
シャルロだったら別に雨が降ろうと絶対に濡れないが、地面が濡れていたら滑りやすいしズボンに泥が跳ねたりするよな。
シャルロが外に出ている時に降らないとなると、一歩進めて考えればシャルロが暑がっている夏にスッキリ眠れるように夕立が起きているのでは??と言う結論に達しても不思議は無いか。
「夕立を降らすように頼んだ訳じゃないんだけど、汗疹が出来る時期になると夕立で夜の気温を下げてくれるんだよね~。
まあ、元々夕立ってちょくちょく降る物だって話だから止めて貰って暑い思いする必要も無いかなと思って」
シャルロが笑いながら説明してくれた。
王都の住民は知らないだろうが、知っていたら誰もが感謝すると思うぞ。
やっぱ夕立があるとぐっと過ごしやすくなるからな。
「・・・もしかして、俺たちがどっか遠方に遊びに行くと夕立が降らないのか?」
「頻度は下がるようだな」
アレクが肩を竦めながら教えてくれた。
マジか~。
シャルロがどっか地方に引っ越すようなことがあったら、俺もついて行こうかなぁ。
まあ、清早でもウチの周りだけ程度だったら出来るかな?
ウチの周りだけだったら雨除け結界の冷気機能付きのを使えばそれでいい気もするが。
「早い目にケレナと仲良くなって結婚していてよかったな。
バレてたら、絶対に他国からハニトラ要員が来ていただろうし、それと対応する為にアファル王国からも国内貴族の女性がガンガン嗾けられたぞ、きっと」
真夏の夕立は快適な夜の睡眠の為にも重要だが、なんと言っても毎日適度な量の雨が降るとなったら農業にとって滅茶苦茶有用だろう。
王都近辺はそれ程農業が盛んという訳ではないがそれなりに野菜類や畜産業は盛んだし、良い感じに国の中心(海よりだが)で雨雲が動いているとなったら国内全体の降水量もそれなりに適量化されるんじゃないか?
なんと言ってもオレファーニ領は国の穀物庫と言えるほどの農業地帯だ。
あそこが旱魃になったらシャルロの家族が頭を抱えるだろうし、それを見たシャルロが心配するだろうから即座に蒼流が対応するのはほぼ確実だ。
つまり、アファル王国有数の農業地帯での旱魃は上の方に問題が報告されたら数日で解決することが保証されているようなものなのだ。
国にとって、単発的な戦争での防衛能力とか攻撃能力なんかよりもずっと価値は大きいだろう。
東大陸への新規航路を見つける際にも活躍したが、あれは1回きりだし、空滑機があればそれなりになんとかなるからシャルロが不可欠って訳じゃあないし。
上手く雨が降らないせいでヤバい呪具とか毒とかで無理やり金を稼いで飢えをしのぐ羽目になって泥沼な悪循環に嵌っているこちらの大陸を見ると、シャルロの重要性がひしひしと感じられるな。
こっちの大陸の人間に知られていたら、きっと大陸1クラスの美女がシャルロを誘惑しようと寄ってきただろう。
うん。
下心無いと分かっている幼馴染と結婚できて本当によかったな、シャルロ。
清早は中級ランクなので国全部の問題を片手間に解決できる程の能力はありません
それでも一地方分ぐらいなら実はそれなりになんとか出来ちゃうけどw




