093 星暦551年 紺の月 15日 聞き込み
中休み初日。
俺たちはアレクの家の馬車を借りて日の出とともに寮を出て、朝食前にはダッチャスに着いていた。
既に泊るところはシェフィート商会と縁がある信用の出来る海際の宿屋に決めてある。
そこで荷物を下ろし、馬車を裏に置かせてもらい、早速港へ。
朝の漁から帰ってきた漁師たちが一仕事終わった後の満足げな様子で雑談をしながら仕事をしていた。
「おはよう。私たちは学院の課題の為に海で引き上げられる異物の分布図を作っているところなんだが、ここら辺で過去どんな異物が網にかかったか教えてくれないか?」
アレクが地図を手に、漁師たちに声をかける。
「異物?」
一番近くにいた漁師が訝しげにアレクに聞きかえした。
「壺とか、家具の破片とか、金属の物とか。沈没船から出てきたと思われるようなモノかな。
学院の課題として、ダッチャス港近辺の海流の流れと沈没船からのモノの発見の分布図を作ろうと思うんだ。別に沈没船じゃなくっても嵐で流されてきた家具とかでも良いけど」
シャルロがにこやかに答える。
いくら沈没する船がそれ程多くは無いとは言っても、何と言っても運航している船の数が多い。絶対値としてはそれなりの数が沈んでいてそれからのモノが網に引っ掛かっていると思うんだが・・・。
「ああ、そう言うのね。大したものはないけど、ここら辺かな?」
漁師が地図の一か所を示して答えた。
「あと、鮑の取れる岬沖でもこないだ変なモノが引っかかっていたんじゃなかったっけ?」
興味深げに俺たちの話を聞いていた若者が船から声をかける。
「ここらへんだな」
漁師が最初に指した場所から右上のところを指さす。
「他にはありませんか?」
アレクが船から声をかけた若者と漁師両方に尋ねる。
「俺たちは浅いところで網を張るからね。もっと深いところの魚を取る連中に聞いてみたらどうだ?」
漁師が肩をすくめながら答えた。
確かに、軽い木製の家具とか以外は水中に沈んでいるだろうから海面近くに張った網には引っ掛からないだろう。
季節によって浅いところや深いところを漁するのかと思っていたのだが、どうやら浅いところ用の網と深いところ用の網ではモノが違うから漁師の間にも専門化が起きているようだ。
深いところをターゲットにする漁師たちはもう少し遅く帰ってくるとのことなので彼らが使っている埠頭の場所を聞いてひとまず朝食に戻ることにした。
ワクワクしすぎて食事を忘れていたよ。
◆◆◆
朝食を終わらせた後に更に聞き込みを行い、沖合の海底近くで異物が網にかかった範囲を教えてもらった。
「考えてみたらさ、水の中で呼吸しなくてもいいようにするよりも、水の中でぽっかり俺たちが歩く周りだけ空気のドームを作って欲しいんだけど、出来る?」
海の前に来て、俺は清早に聞いていた。
最初は水の中で呼吸ができるようにして貰おうと思っていたのだが、考えてみたらそれでは服も髪の毛も海水でびしょびしょになる。
他に選択肢が無ければそれでもいいが、出来ればもっと快適に探索したい。
「問題ないぞ。何だったら海をそこだけ割るのだって出来るよ?」
ぷかぷかと宙に浮きながら清早が答える。
「上から魚や船が落ちてきたら困るから、海底で僕たちが歩いているところの周りだけ水を押しのけておいてくれればいいや」
シャルロが口をはさんだ。
確かにね。
沖合のところなんて漁師の網をみたところ30メタぐらいは深さがありそうだ。上から船が落ちてきたりしたら大変なことになる。
「分かった」
清早が頷く。
「じゃあ、最初の漁師が言っていたところを通って沖合の深いところまで歩いていこうか」
俺が残りの2人に確認する。
2人が頷いたので清早に早速水を押しやるよう頼んだ。
さあ、海底の散策だ!
ちょっと短めですがきりがいいので。
ちなみに、漁に関してとか海底のこととかは完全に想像からのでっち上げです。
知識の提供は大歓迎ですが突っ込み勘弁!