929 星暦557年 緑の月 21日 熟練の技モドキ(11)
「なんか、父上とスラフォード叔父上が3年ほど継続して領地の土や水、温度の記録と作物の収穫量の記録と分析を依頼したいって」
毎度のことながら朝食直後に現れたパクストンを工房の中に連れ込み、お茶を淹れながらシャルロが徐に言い出した。
朝食後のお茶の際にその日の仕事について話し合いをするんで、休息日にシャルロが親と話し合ってきた内容はまだ聞いていないんだが・・・3年??
「は?
スラフォード叔父上??」
パクストンがお茶を受け取りながら首を傾げる。
「スラフォード伯か?
北の方に領地のある?」
アレクが解説的な質問を投げかける。
なるほど。
そう言えば以前雪を解かす依頼をやったスラフォード伯爵か。
あの代官が居なくなって、街はまともになったのかな?
代官がため込んでいた美術品や家や装飾品を売り払って横領された金がそれなりに戻った筈だが、愛人や本人が使いこんだ金は消えたままだろうからなぁ。
装飾品やドレスなんかは売り払っても購入時程の値段にはならないし。
そう言えば親戚だって言っていたから、王都に来たスラフォード伯爵がオレファーニ侯爵家の方に遊びに来ていたんかね?
「そう。
今回の成分分析用魔具を使ってオレファーニ侯爵領の果樹園や畑の土の成分を参考値として売り出す時に添付しても良い?って聞いたら、将来的には良いけど、まず先に領地内の土地でどのくらい違いがあるか、違いによって収穫量とか味にどの程度違いが出ているか、調べてくれって言われてね。
そしたらスラフォード叔父上が、ついでに自分の所でもやって欲しいって。
あと水の量とか温度も記録して、どんな品種がどんな天候に向いているか、調べたいんだって。
金額はアレクが交渉する必要があるけど、依頼料も出すらしいよ」
おお~。
将来的には良いんだ?
レディ・トレンティスの所の果樹園は殆ど親族と近郊に配るだけの趣味の延長みたいな物らしいから土の状態とかも教えて他に真似されても構わないのかも知れないが、オレファーニ侯爵領なんかは国の穀物庫と言われるぐらい農産業が重要だろうに。
ある程度参考情報があった方が良いだろうって話はしていたが、まさか侯爵家なんて大きなところから了解を取れるとは思わなかった。
近所の引退間近な爺さん農家にでも話を付けるのかと思っていたぜ。
領主として、美味しく沢山収穫している農業地帯の情報を他に広げるなんて不味くないかね??
それとも他の土地には真似が出来ないと自信があるのか?
まあ、農業なんて土だけじゃない色んな知識や技術の蓄積も重要なんだろうが。
・・・というか、そう言うのが重要なんだったら俺らの魔具を売りつけても思うように育たなかったって文句を言われないか??
「ふむ。
冷害に強い品種などを調べたいのかな?
そう考えると、土地や収穫量の分析と比較は国の依頼で全国でやる形にした方が将来的には良いかも知れないな。
とは言えそこら辺はオレファーニ侯爵も考えているだろうから、取り敢えずはオレファーニ侯爵領とスラフォード伯爵領で試しに調べることで企画を国に売り込む際の参考に出来るか」
アレクが呟く。
いやいや。
そんな長期的かつ大々的な研究なんぞに関わる暇も興味もないぞ??
「だったら中途半端に広めて下手に妨害されない様に、取り敢えず卸売りや小売りでの混ぜ物調査用として今回の魔具は売り出して、別立てにパクストンたちが研究を続けていったらどうだ?
研究を依頼する貴族に魔具を売りつけるぐらいな報酬を要求する事にして。
現状を確認したいだけだったら妖精の意見を聞く必要もないだろうから、俺たちが関与する必要は殆どなくなるだろ?」
まあ、近所の果樹園や農作物をお裾分けしてくれる農家のおっさん達の土の改良に関しては妖精たちの助言を伝えるのはありだが。
「ふむ。
3年間の状態分析を先にするんだったら確かに妖精に話を聞いて土壌や肥料を改善してしまうと却って年毎の気候の違いによる比較がしにくくなるな。
だが!!
3年間の分析が終わったら、是非とも一緒に協力してくれたまえ!!!」
パクストンが熱く要請してくる。
まあ、良いけど。
近所の果樹園とかでの土壌改善は続けるかもって話はしない方が良さそうだな。
・・・ついでにシャルロの庭にでも、リンゴや桃を植えたらどうかな?
取り敢えず実が収穫できるぐらいまで大きくなる様にばばっと最初の2年ぐらい魔力を注いだら、味を損ねずに時間を短縮出来ないかね?
庭に果樹は憧れかも。
虫除けや鳥よけは重要ですが、自分の庭程度だったらがっつり結界を使って小動物の侵入禁止も可能そうw




