921 星暦557年 緑の月 3日 熟練の技モドキ(3)
「意外と成分とか素材の分析や探知の魔具ってないんだな」
特許記録を調べるのは数日かかる事もあるので1日で終わらないことの方が多いのだが、俺たちは昨日1日探したものの余りにも成果が無かったので取り敢えずもう一度話し合うことにした。
「ああ。
毒探知の魔具があるんだから、もっとこう、材料の成分確認用とか武器の持ち込み探知とか、違法薬物や麻薬の探知とか言った用途の魔具が開発されていると思っていたのだが」
アレクが顔をしかめながら頷く。
薬の調合とか陶器の製造なんかの際に素材の成分を確認しそうなものだが・・・熟練の技で色とか匂いとか手触りとかで判断するのかね?
まあ、麻薬に関しては港の調査に使っていないんだから無いのはある意味想像がつく結果だったけど。
「考えてみたら、触れずに探知できるような魔具と対象の素材を取り込んで調べる魔具とでは大分と機能の仕方が違うだろう。
毒探知の魔具って食材とか飲み物に触れさせなくても分かるのか?」
一々食べ物を魔具に入れていたら目立ちすぎて使い勝手が悪いだろうが、距離があっても中身を探知できるとなったら一体どういう仕組みなのか是非知りたいところだな。
それに、毒の代わりに麻薬を探知させれば港の税関で使えそうなんじゃないかね?
「毒探知の魔具はブレスレット型でそっと指に付けた飲み物なり食材なりを決まった場所に触れさせて確かめるタイプが多いらしいよ。
だから同じプレート内の食事でも毒が入った食材が他の物と混ざらない様に上手い事盛り付けられるとうっかり毒入りの素材を食べてしまうこともあるんだって」
シャルロが教えてくれた。
流石貴族のお坊ちゃま。
本人に使う必要は無くてもそこら辺は色々と知っているらしい。
俺もシェイラに確認しておけば良かったな。
「やっぱ触れさせないとダメなんだ?
グラスでさり気なく指にワインを付ける程度ならまだしも、食べ物を『うっかり指に付ける』って言うのは中々さり気なくやるのは難しそうだけど」
知り合いの屋敷に招かれたのに、毒見をしまくっているってバレたら気まずそうだが・・・常識だとして誰も気にしないのかね?
殺伐としてるなぁ。
「香りとか、特殊な魔力を発するような毒だと近づいたら分かるのもあるらしいが、触れさせないと確実ではない毒が多いらしい」
アレクが肩を竦めながら応じる。
シェイラが俺と食事に行っている時にブレスレットに頻繁に触れている姿なんて見た記憶はないが、ちゃんと毒探知をしているんかね?
俺が毒を盛るつもりなんぞなくても、宿屋や食事処のメイドが買収されて毒を振りかける可能性はゼロじゃあないんだぞ?
まあ、今となれば清早の知り合い精霊に護衛を頼んだから大丈夫な筈だが。
「特許の申請がされている魔術回路はほぼ絶望的っぽいから、取り敢えず毒探知用魔具をばらして魔術回路を確認するか。
・・・これって特許登録されていないんだから勝手に活用しても怒られないよな?」
流石に買った魔具の魔術回路をそのまま登録するつもりはないが、俺たちなりに工夫して土壌の成分分析用に改造したのは特許登録するつもりなんだが。
「それなりに内容を変えて明らかに毒探知用に使うのには向かない様に作り変えれば良いんじゃないか?
下手に小さくまとめたりすると魔力探知具の二の舞になって国に自粛の『お願い』をされる可能性が高いが」
アレクが微妙そうな顔で言った。
あまり大きいと持ち運びが面倒そうだが、夜会とかに持ち込めないサイズになれば良いだろう。
「そう言えば、成分を分析できるようになったとして、それをどうやって利用するかも重要だよねぇ。
前手伝ってもらった虫関連の研究者みたいな、植物関連の研究者の知り合いっていないの?」
シャルロがアレクに尋ねる。
あ~。
そう言えば、そんなおっさんがいたよな。
・・・生物学会って植物の研究もしているのかな?
「農作物や果樹関係の研究をしている人間がいないか、探してみるよ」
アレクが頷きながら応じた。
おお~。
流石、顔が広いね~。
いつの間に顔を広げているのか、ある意味疑問だが、便利で助かるぜ。
「そう言えば、妖精って植物の声とかって聞こえないのか?
精霊もだが、アルフォンスの子分にでもちょっと短期契約で手伝って貰えたら良さげかも?」
精霊は気紛れだからなぁ。
妖精も気紛れかもだが。
「・・・聞いてみるね。
ウィルもアスカに確認してみたら?」
確かに。
土竜は植物より鉱物系が得意な気がするが、一応聞いてみよう。
「おう。
ついでにラフェーンにも聞いておいたらどうだ?
どうせほぼ毎日遠乗りに行ってるんだろ?」
それで声を掛け無かったら拗ねられるぞ?
薬草に詳しいユニコーンと、土に詳しい土竜、そして未知数な妖精。
誰が一番役に立つか、競争になったりw