918 星暦557年 萌葱の月 26日 やはりお手伝いか(14)
ウォレン爺視点です
>>>サイド ウォレン・ガスラート
「おばあ様に投与されそうだった薬の販売を根絶やしに出来た~?」
違法薬物取引の大手3つほどの捜査でウィルに協力してもらい、ガッツリ見つけ出した隠し情報から組織の下っ端や売り先なども大体潰せたのでシャルロの所に報告に来たら、お茶を注いだ途端に詰め寄られた。
「うむ。
元凶はあの薬が危険であると規制される前に、あれを上手い事使って婿入り先の商家を乗っ取った男が上にいるところでの。
限られた専門家以外が取り扱うのを違法と規制された後にも都合の悪い人間を排除するのに便利だと囁いて後ろ暗い事を望む人間に高く売りつけておったようじゃ。
利用者にはサンクタスでのちんけな横領なんか比較にならないような中々びっくりする名前もあって少々後始末が面倒だったが・・・一応販売元も利用者も、それなりに一網打尽出来た」
遺産目当てな跡取りや婿による早期乗っ取りのような悪用も多かったが、幾つかの家では家が潰れる前に老害を排除せねばということで殺す代わりに使ったという案件もあり、一律処罰という訳にはいかなかったが、それなりに悪は排除されたと思いたいところだ。
「ちなみに、あの地下室にいた男はどうなるんだ?」
ウィルが尋ねてきた。
どうやらそれなりに気になっていたらしい。
拘束されての強制労働というのはこやつも絶対に避けたい末路というところだから、同情は感じるもののやった行為の影響も大きすぎて無罪放免とはいかないと案じているのだろう。
「まあ、同情の余地はあるが・・・。
何分、妹の解毒剤を開発する必要があることに変わりはないからな。
国の研究所で監視のもとに働かせることになるだろう」
シャルロが首を傾げた。
「その人って妹さんが毒に侵されてるから、解毒剤を作る資金を出す代わりに協力しろって持ち掛けられたの?」
「最終形はそうだが、そうなるように妹の恋人に横恋慕している女に毒を渡して唆したようじゃの」
横恋慕した女は妹が倒れた際に毒を盛った罪で既に囚われ、どうやら毒の入手先を漏らされたくなかったらしき者によって自殺させられたようだった。
元々、不愛想で薬を調合する腕は良いものの客との対応は妹に頼っていたあの男は妹が倒れた後にあっという間に行き詰り、ヴィント商会の話に飛びついたらしいので同情の余地はあるものの多少あの男の倫理観には不安が残る。
国の監視下で働かせるのが一番無難だろう。
「うわ、悪の組織に嵌められたの??
・・・蒼流に頼んで毒を抜いてもらおうか?
というか、神殿に連れて行ったら治せない?」
クッキーに手を伸ばしながらシャルロが尋ねる。
「かなり強力な毒な上に時間が経っているから、今になって神殿に解毒を頼もうと思ったら家が建つぐらいの金が必要になるだろうな。
・・・蒼流は時間が経過して体に吸収された毒も抜き出せるのか?」
神殿は分割払いを受け付けないし、借金をして治療したところで既に店舗も家も手放した町の薬師にそこまでの大金を稼げるかは非常に怪しい。
が、下手に弱みを残しておくと有能なだけに他の組織にそそのかされる可能性はある。
もしも治せるのだったら治療させて、その分の借金を分割払いで国に対して返す形で恩を売るのも悪くはないかも知れない。
どちらにせよ、あの毒の解毒剤を発見するのはアファル王国にとっても利がある事だし。
・・・あの毒でさえ解毒できるとなったら、蒼流に対する色々な要請が更に増えそうだ。
『生きているならば体の不調を直すのは可能だが、あまり色々と情けを掛けると他の人間からも頼られまくることになるぞ?』
シャルロの横に精霊の姿が現れて注意喚起した
その通り。
シャルロは優しいからのう。
涙を流して泣きつけば助けてくれると思う人間が大量に湧きそうだ。
「神殿の治療費を国が肩代わりすれば良いのでは?
個人が下手に命を救う能力を明らかにすると色々と面倒なことになるかも知れないから、出来ればそこは神殿に請け負ってもらった方が無難だと思う。
なんだったら、どうしてもあちらの大神官の予定に空きがないなら、神殿に連れて行ってそこでこっそり蒼流にやって貰うぐらいの予防策は取るべきだ」
アレクが口を挟んだ。
「そうじゃの。
大神官の予定は金だけでは決まらぬから、そんな暇がないという話になったらちょっとあそこの部屋を貸してもらえば良いか」
というか、シャルロが大神官の代わりに治すと言ったら頑張って予定を調整する可能性が高い。
神殿側にしても、大神官の治癒というとびっきりの切り札をあっさり無効化するのは避けたいだろう。
うむ。
中々良い考えだ。
さっそく提案してみよう。
大神官はほぼ神様指名なのでまともな人が多いですが、どの神殿でもめっちゃ忙しい事が多いので一般人がアポを取るのは至難の業なんですね〜