916 星暦557年 萌葱の月 21日 やはりお手伝いか(12)
「思ったんだけどさぁ、やっぱ清早の知り合いの精霊にシェイラの護衛を頼んでもらえるかな?
毒を中和するだけじゃなくって変な薬を盛られそうになったり、病気を移されそうになったり、誘拐されそうになった際に俺が駆け付けられるまで守ってあげて欲しいんだけど」
ヴィント商会の中を視て回って隠し金庫やら隠し引き出しやらから色々と書類を見つけ出してウォレン爺に渡し、取り敢えず今日の作業が終わった俺は帰途に就きながら清早にお願いした。
『おう、良いぞ~。
やっぱ心配になった?』
清早が聞いてきた。
「ああ。
毒探知の魔具があるから大丈夫って言っていたけど、あの薬師の男と同じで俺もそれなりに悪用しやすい技能持ちだろ?
あのおっさんよりは何かがあった時に助けを求められる相手が色々いるけどさ、後になってから助けを求める羽目になるよりも、事前に防ぐ方がシェイラも痛い思いとかしないで済みそうじゃないか」
今回のグルダナの毒なんて、俺は知らなかった。
これは殺すよりも、苦しみを長引かせる為の嫌がらせや見せしめ用の毒っぽい。
だとしたらマジで薬師に研究させるための毒という感じだ。そう考えると、他にも定期的に何か特殊な薬を投与しなければ死んでしまったり状態が悪化する毒や病気だってありそうだ。
誘拐に関してはシェイラの血を清早に一度触れさせているので探すのは可能だから、時間さえあれば見つけられる筈だ。
だが、その前に殺されてしまう可能性だってあるし、殺されなくても俺への脅しとして耳や指を切り落として送ってくるなんてこともあり得る。
軍部と一緒に行動することが多い俺に変な依頼を強要しようとする可能性は低い気もするが、軍部や国と協力して違法行為の取り締まりに手を貸しているからこそ、報復を受けかねない。
裏社会の3大ギルドに関しては俺は準身内扱いで問答無用な攻撃は来ない筈だが、違法薬物や人身売買のような裏ギルドでも禁じている下衆な違法行為を潰された連中が何をしてくるか、分かったもんじゃない。
そう考えると、シェイラに関しては守りが必要だと思ったのだ。
それに軍部と働く事があるからこそ、俺を使い捨てにして国の中枢部からの重要な情報や魔具か何かの入手を企てる連中が出てくる可能性があるし。
「ちなみに、アレクに関してはシャルロ関連で蒼流が何か付けているんだろ?」
蒼流は過保護だからなぁ。
シャルロの仕事を含めた全ての生活の面で支障が無い様に重要な関係者に関しては手を回していそうだ。
『おう。
変に家族経由とかで脅迫されていないかちゃんと判断できるよう、中位の精霊を付けてんだぜ~。
過保護だよなぁ』
ちょっと笑いながら清早が教えてくれた。
なるほど。
単に本人の身に危険があった際にそれを防ぐのではなく、保護を付けていないアレクの家族や親しい人間を盾に脅された場合にそれが分かるように判断力のある中位の精霊を付けているのか。
・・・中位って清早とほぼ同等レベルな精霊だよな??
マジで蒼流の力の凄さが想像を絶するぜ。
まあ、人の幸せなんて意外と脆い物だからな。
ちょっとした予防措置で守れるんだったら、変な力が外から加えられない様にそっと守っておくのは悪くないことだろう。
はっきり言って、蒼流が能動的に動くとちょっとやりすぎになる可能性の方が高いから、予防でほんわかと守れるならそれが一番だ。
『そう言えばさぁ、今日の午後に行った建物の台所に置いてあった飲料用の水ってちょっとした解毒剤が混ぜられていたぜ?
なんでそんなのが必要なのか、誰かに確認させた方が良いかも?』
ふわっと俺の横を飛びながら清早がふと思い出したかのように言った。
「解毒剤??」
『おう。
というか、特定の毒を中和する効果のある果物の汁が混ぜられていたな。
倉庫にあったどぎつい紫色の実の汁〜』
清早が教えてくれた。
へぇぇ。
毒を中和する効果のある果物なんだ。
あのどぎつい色だったら果物自体が毒なのかと思ったが、解毒効果があるのか。
高級な食事処だと食事を楽しむためにってことで酒の代わりに綺麗な水に柑橘類の汁を足して出すようなところもあるが・・・どう考えてもヴィント商会がそれを従業員の為にするとは思えないな。
何か職場で触れる物が微かに毒があって解毒が必要なのか?
それとも誰かが顧客情報や商品を盗んで独り立ちしない様に、定期的に毒を盛ってヴィント商会で働いている間だけ弱い解毒効果のある水を提供することで商会を離れたら体調を崩すようにしているのか。
「教えてくれてありがとな~」
面倒だが、家に着いたら通信機でこのこともウォレン爺に伝えた方が良さそうだな。
ほぼ不可能な筈ですが、シャルロが何かの拍子で殺されたりしたら大陸ごと水没しそうw