914 星暦557年 萌葱の月 21日 やはりお手伝いか(10)
作業室の隠し箱(引き出し?)はさっさと他の箱を出し始めたウォレン爺の部下とそれらを調べ始めた女性に任せ、俺は廊下へと戻った。
あっちの部屋は他には隠し場所っぽいのは無かったからな。
普通の引き出しの中にもしれっと違法薬物が入っている可能性もあるが、そちらは俺が心眼で視たところで分かるものではないから、プロに任せておけばいいだろう。
作業室の隣の部屋は単価の低い商品の保管部屋みたいな感じで、棚に箱が積み上げられているが特に隠し場所は無い。
箱の中に何が入っているかは知らんが、此方もプロに調べて貰うしかないな~。
ということで更に進むと、今度は事務員が働く部屋があった。
お。
二重底の引き出し見っけ。
入って左奥の方の机に向かい、そこの一番下の鍵のかかる引き出し(一応従業員が出る前に全ての引き出しは開錠させたのか、鍵は掛かっていなかった)を取り出し、引き出しの底を動かしたら間から隠されていた紙が出てきた。
ついでに、良く見たらその引き出しの下に空間があり、帳簿っぽい物が入っている。
なるほど、引き出しって床まで続くと引き出す際に引きずることになるから多少は床との間に空間が開けておくのか。
普通だったら埃が溜まるしか使い道が無いのだろうが、意外にさり気なく良い隠し場所になるな。
時折掃除して、薄い箱にでも入れておけばそれ程埃まみれにならないし。
机を持ち上げて動かしたらバレるから、模様替えとか机の移動がある場合は前もって隠してある物をどけておく必要があるが。
取り敢えず、帳簿と紙をウォレン爺に渡し、部屋の中を見渡す。
あんだけ本格的な毒があるんだったらそれなりにしっかり書類を揃えておきそうなものだが、別に危険な毒だろうがちゃちゃっと二重帳簿で誤魔化す程度で良いんかね?
毒の取り扱いに関する書類とかって正規の商売だったら色々と必要な筈だが、違法に流通する場合は必要ないのか?
取り敢えず、この部屋には他に隠し場所が無かったので廊下に戻る。
ふと床を心眼で視たら、奥の方に地下室がある。
しかも人がいるじゃん。
従業員は全て追い出されたはずなのに、隠れているのか。
それとも捕らえられているのか?
入り口的には・・・建物の奥の方にある簡易台所の奥の食料貯蔵室の棚の一つが見た目以上に奥が深く、そこから下へ行く梯子があるようだ。
まだ1階を探し終わっていないが、隠し地下室とそこにいる人間なんて色々と知っていそうだから、先にこちらを暴こう。
「地下室発見~」
軽い感じに声をかけて台所の方へ行き、食料貯蔵室の棚を開けて床板を跳ね上げ、梯子を降りていく。
「隠し部屋が多いのう」
溜め息を吐きながらウォレン爺が梯子の後を続いてくる。
「そりゃ、隠さなきゃいけないものが多いんだから、部屋ごと隠す方が効率的だろ?」
どうやら地下には部屋が2つあり、手前の部屋の扉を開けてみる。小さな部屋にベッドと本棚と明かりがあり、誰かが住んでいるっぽかった。
窓もないこんな地下室に住むなんて、俺だったら嫌だぞ。
しかもよく見ると扉の鍵が内側からではなく外側からしかかからないっぽいし。
もしかして、何らかの作業をさせている人間をここに捕らえて監禁しているのか?
個室があるだけ人身売買組織に攫われた人間よりはマシな扱いだが、地下に監禁されている時点であまり明るい将来は無さげだ。
ささっと部屋を見て回って特に何もない(文字通り何もない!!)のを確認し、奥の部屋へ進む。
こちらも外側に鍵があり・・・実際に鍵がかかっていた。
う~ん、これって下手をしたら捜査が入って数日この建物が立ち入り禁止になったら、この部屋にいる人間はトイレも食事も水も無しってことで悲惨な目に遭ったんじゃないか??
水とトイレは部屋にあるかもだが。
鍵をささっと開けて扉を押し開くと、青白い痩せた男が作業机の所から顔を上げた。
「まだ出来ていないんだ。
まだまだ時間が係ると言っているだろう」
部屋の片側には小さなケージが大量に置いてあって、鼠が一つ一つのケージに入っている。
どうやら換気と空気浄化の魔具があるようで、動物がいる割に臭くはないが・・・ちょっとこの空間って異常だぞ??
「ふむ。
毒の開発かね?
それとも解毒剤か。
ヴィント商会は国税調査の際に違法な毒を所有していることが判明したので徹底的に調査されることになった。
違法行為に関して情報を提供して組織の訴追と関係者の解明に協力するなら違法行為に関してもそれなりに考慮するぞ?」
ウォレン爺が声を掛けた。
え~?
このおっさん、監禁されて無理やり手伝わされているんじゃないの?
それとも強制されているっぽくても違法行為していたら罪になるんかね?
外から鍵を掛けている時点で完全に自由意志による協力では無いですが、真っ先に『助けてくれ』と言わなかった時点でちょっと怪しい?