090 星暦551年 紫の月 11日 精霊の力
「精霊というのは自然の力の結晶とも、自然の意思の具現したモノとも言われている。
今までにも召喚して『精霊とは何か』と尋ねた魔術師や、精霊に好かれて加護を貰った人間が何度も抱いてきた疑問だが、帰ってきた答えは常に象徴的なもので、人間が満足できるレベルの『事実』とは言い難い。
だからこの学院では『精霊が何か』ではなく、『精霊には何を頼めるか』を中心に教えていっている」
精霊学を教えるダカータ教師がクラスの前で講義していた。
「精霊は自然の流れを知っている存在であることは間違いない。答えさえくれるのであれば、その年の雨量や雨の降りだすタイミングなどを100%近い確実性で教えることができる。
嵐を抑えたり日照りの最中に雨を降らしたりすることも可能だが・・・かなりのエネルギーを要する為中級レベルの精霊では消滅してしまうことがある。
精霊が己の消滅を悪しきものとして見ているのかどうかは分からない。
だが、理由も無く精霊の消滅を招くような行為を求める召喚術を行う魔術師は短期間の間に召喚に応じる精霊がいなくなる」
そりゃそうだろうね。
清早や蒼流をみる限り、精霊にだって感情も記憶もある。みすみす自分を殺すような要望に答えに姿を現すことはあまりないだろう。
彼らほど自我のはっきりしていない中級以下の精霊がそこまで『嫌だ』という感情を持つかどうか分からないが、上位の精霊が同胞の消滅を起こすような行為を望む魔術師を忌諱して下位の精霊が召喚に応じるのを止めるぐらいのことはしそうだ。
「精霊は自然の制約を緩めることもできる。例えば、短時間であれば人間が水や火や大地の中を歩いたり、空を飛ぶことを可能に出来る」
まじ??!!
空を飛べるの?!
ちょっと心が動くかも。
ドラゴンを召喚して背中に乗せてもらうのと、精霊を召喚して空を飛ばしてもらうのと、どちらが現実的に実現可能なんだろう?
「ただし、そういった自然の摂理を歪める術は代償も大きい。それなりの魔力を代償として与える必要があり、途中で精霊の興味が薄れたりした場合、溺死したり焼け死んだり圧死したり墜落死する可能性は非常に高い。
経験を積み、精霊との間にそれなりの信頼関係を築くまでは精霊の援助が突然消えても死なぬ程度のことしか頼まない方がいいだろう」
なんだ。
・・・・だが、清早にお願いしたら水の中を歩きまわれるのかな?
授業が終わったら聞いてみよう。
その後の授業はいかに精霊を召喚して頼みごとをするかをやっていたが・・・。
話を要約すると、学生レベルで出来る召喚ではせいぜい焚火の火を消したり、こぼれたコップの水を元に戻したり程度のことらしい。
自然の理に反するような頼みごとと言うのはかなりハードルが高いようだ。
だけど、そんなことを言っていたらいつまでたっても一人前の魔術師にはなれない。
ま、何事も練習ありきというところか。
ちょっと短くってすいません。
実際に召喚してみたり、清早に頼みごとをしたりと言うシーンを入れようと思うと長くなってしまうのでここで切りました。
さて、主人公は清早以外の精霊にも人並み以上に好かれるとするか否か・・・。