087 星暦551年 赤の月 9日 再会
考えてみたら、軍人って地方に派遣されていたり、戦争に行っていたり、士官用の建物に住んでいたりで独身の間はあまり家って要らない。
だからガイフォード家って直系以外の親戚も本館に住んでいるんだな。
◆◆◆
相手としては『呪の解除』なんていう怪しげなことを頼んだ相手に自分の素性を知られたくない。
長としてはギルドの隠れ家に外部の人間を呼ぶなんて問題外。しかも呪がかかっているかもしれない怪しげなものを持ちこませて自分まで被害を受けても困るし。
ということで、長に会いに行ったら、倉庫街へ行くように指示された。
で。
倉庫にたどり着き、いつも通り壁を登って上からそっと中を覗き・・・驚いた。
「お久しぶり・・・でもないか。最近いかがお過ごしですか?」
ドアを開けて挨拶した。
「ウィル??!」
所在無げに周りを見回していたダレン・ガイフォードが俺を見て驚いたように声を上げた。
「お前が呪解除名人なのか??」
なんじゃそりゃ。
「解除名人って・・・。何ですか、それ」
ダレンが肩をすくめる。
「長がね。『呪の解除に関しては魔術院にも彼以上の腕を持つ人間はいない』と自慢していたんだ」
そりゃまた大きく出たもんだね。
「魔術院の人員よりも優れているなんて公言したこと有りませんよ、俺は。
術の解除は得意ですけどね。
それより、なんでここに?ガイフォード家が魔術院に持ち込めないような怪しげな買い物をするとも思いにくいんですが」
何といっても武道一筋で有名な家系だ。
例え怪しげなものを買ったとしても魔術院に持ち込めないとすら思いつかないんじゃないのか?
「・・・はるか昔に王家を助けてガイフォード家を貴族に成らしめた総領が注文した肖像画なんだよ。
本人が術をかけさせたとしても、誰かがガイフォード家の本館に忍び込んでそんな術をかけたにせよ、あまり世間に知らせたいようなことではないからな。
らちが明かなければ魔術院に行くが、先に非公式な伝手で何とかならないか、試すことにしたんだ」
ダレンがため息をつきながら答えた。
俺が何で盗賊ギルドから派遣されるのかを聞かない代わりに、何で有名な軍閥のガイフォード家が魔術院よりも先に裏社会のギルドを頼るのかも説明しないか。
世の中、思っていたよりも裏と表に繋がりがあるようだなぁ。
「何でその肖像画が怪しいと思ったんです?」
部屋の後ろの壁に立てかけてある肖像画に近づきながらダレンに尋ねた。
大きなカンバスをいっぱいに使って軍馬に乗り、戦場をかけている男性の姿が描かれている。
確かに術がかかっているのが微かに視えるが・・・普通の魔術師でもそれが普通の固定化の術ではなく、呪であると分かる人間は少ないだろう。
「ガイフォード家の人間は非常に健康で、エネルギーにあふれている。
だが、怪我をしたり年をとって一線を引いた後はかなり早く死ぬ人間が多い。
だが、田舎に引き払って暮らすとそうでもない。
まあ、軍と国に身を捧げるのが俺たちの生き方だからな。それが出来なくなった時に失意で弱まるのが早いのは不思議ではないし、ある意味救いだと思って誰も気にしていなかったのだが・・・。
先日、傷を負って養生中の従兄弟が風邪をひいた。やっと風邪が治って下に降りてきたら、その絵から変な術が発現して、彼の生命力を吸い取ったように視えたんだ。
気のせいかと思ったのだがその後彼の容体が悪化してね。
もしかしたらと思って兄の友人を頼ってみた訳だ」
ダレンがため息をつきながら説明した。
「その従兄弟さん、まだ弱っています?術が発現している間の方が解除しやすいんですよ」
発現していなくても、出来なくはないが必要な労力がぐっと上がる。
ダレンが頷いた。
「ガイフォード家でそんな変なことが起きていると知られたくなかったから態々ここを指定したのだが、相手が顔見知りとあっては隠してもしょうがない。
本家に戻ろう」
ガイフォード家の本家か。
従兄弟まで一緒に住んでいるとは一体どれだけの大世帯になっているのか知らないが、面白そうだ。
ちょっと短いんですが区切りがいいし眠いんで・・・。