084 星暦551年 藤の月 6日 保護結界
小説とか活劇で出てくる召喚術って恰好よく主人公が一つの呪文を唱えたら終わるようだが・・・。
保護結界はいつ張っているんだ、あいつら?
◆◆◆
「お前たちは既に基本的な防御結界は1年の時に学んだだろう。
召喚術の保護結界はこの防御結界にかなり近い。では、何が違うと思う?」
エタラ教師がクラスに尋ねた。
「防御結界は自分もしくは何かの対象を中心に外からの攻撃に備えるものであるのに対し、召喚術の保護結界では召喚対象を中心に内側からの攻撃を防ぐものであることですよね?」
何とはなしにエタラ教師の目がこっちに向いていたようだったので答えた。
「そうだ」エタラ教師が頷く。
「学院で教える召喚術は召喚対象を強制的に問答無用で呼び出すものではない。相手が抗った場合は術が壊れるようになっているし、ある程度以上の対象の場合は向こうが興味を示さない限り成功しない。
つまり召喚した相手が怒り狂っている可能性は低い訳だ。
とは言え、召喚対象の機嫌が悪い場合だってあるし、何かやっていたのに突然邪魔されて怒っていることもある。以前などは、男嫌いな妖精を呼び出してしまった少年が雷撃を食らって一週間寝たきりになったこともある」
おやま。少女だったら許されていたの、その生徒?
可哀想に。
・・・考えてみたら、その妖精が男嫌いだって何で広まっているんだろう?
誰か少女が同じ妖精を召喚するのに成功したのか、それとも『男~~!!!!???』とでも悲鳴を上げながら雷撃を繰り出したのか?
「だから召喚術を行う際には必ず想定した対象相手が破れないと思えるレベル以上の保護結界を張る必要がある」
一体何年前から保護結界を召喚術において必要不可欠なモノとしたんだろう?
その雷撃を食らった少年が今何をしているのか興味があるところだ。
それこそ、教師の一人だったり魔術院で働いている人だったりしたら笑えるんだけどなぁ。
ま、それはさておき。
まずは適当な対象を自分で選んでその周りに保護結界を張る練習をした。
エタラ教師が歩きまわりながら問題点を指摘していく。
「良し、次は順番にお互いに保護結界を張り、張られた方がそれを破るように軽く魔力をかけてみろ」
と言うことで、シャルロに結界を張ってみた。
バン!!
結界が破裂した。
おい。
軽くって言っていたじゃないか。
「お前の軽くはヘビーだぞ」
「あれ~?ごめんね。でもまあ、保護結界を張る相手が手加減してくれるとも思えないし、練習だと思って頑張ろうよ」
にっこり笑いながらシャルロが提案する。
そりゃさ。
保護結界を張るんだったらある意味力いっぱい張る方がいいんだろうけど。
もう少し効果的な張り方だって教えてくれるんじゃないの?それこそ召喚対象の魔力を一部抜き取って保護結界の補強に使える術とか。
ま、それはともかく。
次はシャルロの番だ。
ぽん!
シャルロが張った結界を視て、魔力の連携が弱い部分に魔力を加えたらあっさり結界が破れた。
「・・・もっと練習しようか」
ため息をつきながらシャルロが言った。
ある意味無駄だよなぁ。
シャルロには無敵の保護者が付いているんだから、シャルロが召喚出来るレベルの相手なんて手も足も出ないんじゃないか?
考えてみたら、俺だって召喚をしたくなったら清早に護衛を頼んでやれば保護結界なしでもいい気がするし。
でもまあ、召喚した相手が逃げ出して他の人間に害を与えたら気分が悪いからな。
自分の護身だけでなく、召喚と言う行為に対する責任を全うするためにももう少し耐久性の高い保護結界を張れるよう努力せねば。
「今のってウィルは大して魔力をかけなかったのにあっさり破れちゃったよね。何がいけなかったのかな?」
シャルロが聞いてきた。
「魔力の網が一様の強さに張られていなかったからな。弱い部分をつついただけだ」
俺も同じ問題がある。ちゃんと一様に魔力を浸透させ、弾力性がある術を構築できればシャルロの『軽い』力でももう少しもったはず。
もっと正確な結界を脳裏に描いて魔力を注がなければいけない。
何度も保護結界を張りまくり、それなりに力まなければお互いの結界を破れなくなった頃にエタラ教師が昼食の指示を出した。
「よし、昼食に行って来い。
帰って来たら今度は物理結界と今の結界を二重掛けする練習をするぞ!」
げげ。
ま、そうなんだけどさぁ・・・。
幻獣とかも召喚するんだから、魔術を防いでも殴られたり蹴られたり噛み付かれたりで大怪我したら困ることに変わりは無い。
だが。
保護用結界2つに実際の召喚術って3重掛けってちょっときついぞ。
前もって結界の準備をやっておかないと現実には召喚術をやる前に疲労で倒れてしまいそうだ。
完全に強制の力づくの召喚は学院では教えないことにしました。
とは言っても、そこそこ強力な召喚も出来なきゃ面白くないでしょうから、それなりにしつこく押し売り勧誘みたいな召喚まではやるつもりです。(笑)