083 星暦551年 藤の月 5日 夜の図書室
嫌がる対象を魔力で無理やり使い魔にした魔術師がどのくらい生き残ったのか。
ちょっと悪趣味な好奇心を感じたのでこれを図書室で調べることにした。
ダークな内容だから禁書の方にあるだろうとあたりをつけて忍び込んだのだが・・・。
『召喚術』で探していたら、先に『人間の召喚』に関する禁書に行き当たった。
どのくらいの研究がされてきたのか興味を感じたので読んでみた。
・・・はっきり言って、気持ちが悪くなった。
『人類の発展の為』という大義名分は人を狂わせるのかもしれない。
授業で、『今まで知られているどのような召喚術であろうと、召喚された人間が2年以内に死ななかったケースは無い』と言っていた時に、歴史の中で何人もの魔術師が新しい召喚術を開発する度に人間を召喚出来ないかとつい試してきたんだろうなぁ・・・と思った。
だが、禁書の中にあったのそんな甘いものではなかった。
確かに、新しいタイプの召喚術を開発した魔術師が人間の召喚を試みて友人や家族を死なせてしまった・・・という悲劇の実例も書いてあったが、もっと多かったのは意図的な実験。
・・・囚人や戦時捕虜や誘拐してきた人間を使った、研究。
魔力がある人間をあらゆるバリエーションを加えた召喚術で召喚し・・・死なせた。
それを行わせたのは狂った軍事国家だったりマニアックな魔術師だったり。
きっちりと観察記録が残されていて実験台にされた人たちの死にざままで鮮明に書かれていた。
まあ、流石に長い歴史の中で(星暦が始まる前から人間の安全な召喚は魔術師の永遠の課題だったらしい)、普通に思いつくバリエーションは試しつくしたようなので今さら無駄に実験しようとする魔術師はもういないだろうが。
転移門が発明されてから『人の移動』の速度がかなり上がったし。
召喚術よりも転移門を研究した方が成功の確率が高いし何よりも社会的抹殺処分を受けるリスクが低いと考えるのが最近の魔術師の常識になってきたらしい。
しっかし。
授業で習った被召喚対応策は比較的単純なモノだった。
自分の魔力を足元に現れる召喚陣にぶつけて一部でもいいから術を壊せ、だってさ。
それで本当に何とかなるのかぁ?
それこそ何かを強制するような、保護結界が不可欠なタイプの召喚をする場合、相手だってそれなりに対応するだろうに。
それを無理やり引きずり出してくるってことは、人間に対してだって同じことができないかね?
人間を召喚するのだったら大量な保護結界はいらない。だから比較的単純なタイプの召喚になるから確かに召喚陣を壊せば術が止まるだろうが、召喚陣に保護結界をかけたタイプの召喚をされたらどうするんだろ?
まあ、あまり召喚を暗殺手段として使おうとした人間がいないみたいだからそれ程真剣に被召喚対策って考えなくてもいいのかもしれないけど。
人体実験の記録を流し読みしたところでは、召喚と言うのは『種族』とかいった『条件』に一致する存在ならどれでもいいというタイプの召喚ならばそれ程難しくないが、『隣町のナニガシ』と言った感じに個体を指定しようと思うと一気に難易度が上がるようだ。
だから暗殺手段としてのハードルも高くなるだろう。
しかも死ぬのに最高2年かかるし。
・・・あまり心配しなくてもいいか。
何故か物凄くダークになってしまいました・・・。
ただ、人間の召喚と言うのは移動手段として凄く便利だろうと考えると、禁忌でも研究した団体とか人間がいそうだなぁ・・・と思ったらついこんなのになってしまって。
次回からはもっとあっけらかんと明るくいく予定。