799 星暦557年 紫の月 4日 人探し(2)
「ちょっと人探しを依頼したいんだけど、青か赤あたりにでも会えないかな?」
シャルロの従姉妹を探すために、盗賊ギルドの経営している酒場に来た。
最近色々と下町も変わってきているが、一応もしもの時の為に長が隠れ家として使っている場所の把握は使い魔のアスカに頼んでいる。
土竜のアスカは王都の下も時折散策しているらしいので、ついでに夜間に長の魔力に気付いたらどこにいるか教えてくれるよう頼んであるのだ。
意外と長って魔術師じゃない割に魔力が特徴的らしく、見つけるのは難しくないとアスカは言っていた。
とは言え、流石に塒(長は夜通し働き夜明け前後から昼過ぎぐらいまで寝るタイプだ)に忍び込むのは不味いと思ったので、直接行かずにちゃんと表から頼むことにした。
「あん?」
柄の悪そうな返事が来たが、指先に穴が開いた手袋をひらひらと振って見せたら、大人しく何も言わずに2階に上がっていった。
お?
良く視たら、上で寝てるのって赤じゃん。
最初からあたりを引くとは、ついていたな。
起こされた赤にとってはいい迷惑だろうが。
長の側近役も起きて働いている日中の担当みたいのを交代で決めているのだが、人が尋ねてきて偶然上に側近役の誰かが寝ていたらそっちが起こされるらしい。
まあ、疲れはてて絶対に起こすなとか言われていたら別の奴らの所まで回されるんだろうが。
「お前か。
久しぶりだな」
眠そうに不機嫌な顔をした赤が階段を降りてきた。
「オレファーニ侯爵の姪っ子が誘拐されて行方不明なんだ。
先日捜査を受けてメンバーが逮捕されまくった人身売買組織に捕まってて、身代金を払って解放される交渉をしていた筈なんだが・・・逮捕劇でどさくさ紛れに逃げたのか、もしくは誰かが欲をかいたのか知らんが、バタバタしていたのが落ち着いて彼女の情報に当局が気付いた時点で迎えに行ったら閉じ込められていた場所から姿が消えていたらしい。
自力で隠れているのか、誰かに捕まっているのか、誰かに匿われているのか不明だが、王都に居る可能性が高いと思うから探すのに手を貸して欲しい」
一応、オレファーニ侯爵家の領地の方にも人を遣ってあっちに逃げていないかも探しているらしいが、真冬に碌な金もなく地方へ移動するのは中々厳しい。
通信機でシャルロが親に確認したところ、娼婦ギルドに売られていないことは既に長兄のアシャル氏が確認していたとのことだった。
となると他の違法組織に身代金もしくは売買目的でとらえられている可能性が高い。
「いくら出す?」
「調べるのに金貨10枚、無事に救出するのに役立ったら更に追加報酬で金貨30枚出すとのことだ」
流石侯爵家。金持ちだよね~。
それだけあったら俺が1年暮らせるぜ。
今そんだけ金を出すんだったら、もっと早い段階でその姪を引き取れば良かったのにと思わないでもないが、貴族でも庶民と同じで子供って言うのは成人するまで実質親の所有物だ。流石に売買は出来ないものの、『領地でしっかり教育しているのだから当家の教育方針に口を挟まないで欲しい』と言われたら無理やり連れだすことは難しいらしい。
今年で成人だったらしいので、後妻も軟禁なんて言う強引な手に出たんだろうな。
隠し切れると本当に思っていたなら馬鹿だが。
とは言え、今回の事件で王宮の方に後見人としても不適切であると申し立てているらしい。
既にオレファーニ侯爵の方で虐待に近い扱いの証人として軟禁されてた領地の方の使用人を何人か引き抜いて確保したそうだ。
「ほおう。
期限は?」
「3日。
人身売買組織に強制捜査が入ったのが21日だから、そろそろマジでヤバいだろうという事で急いで欲しいんだそうだ。
3日でそれなりな情報が入らなかったら、シャルロが王都中の建物を水浸しにする」
水没させる訳ではないが、雨を降らせてたっぷり空気中の水分を増やし、全ての部屋に水を侵入させればシャルロの血族の居場所を見つけられると蒼流が提案したのだ。
とは言え、流石にちょっとは大変だし、うっかりすると幾つか建物を壊しかねないし、確実に王都中の建物が湿気て黴だらけになるらしいので、まずは盗賊ギルドに頼もうという事になった。
流石高位精霊。
出来ることのスケールが大きいぜ。
とは言え、下手にそんな人探しが出来るなんてバレたら、今後はシャルロが俺みたいに軍や王宮に便利使いされかねないから、出来れば盗賊ギルドに頑張って貰いたいところだ。
シャルロはお人よしだからなぁ。
でもまあ、あまりそれにつけこみ過ぎると蒼流が勝手に報復しかねないから大丈夫だとは思うけど。
多分。
シャルロは貴族の息子なので舐められたらダメっていうのはちゃんと身に付いていますから、なあなあで搾取されたりはしませんけどね〜。
おっとりでもしっかりはしてるんですw