796 星暦557年 赤の月 27日 一斉調査(13)
「誰だこんなところに小屋の設置を承認したのは!!」
隣の倉庫に踏み込んで隣への通路の邪魔になっていた木箱をどけさせながらヴェルナスが憤懣やるかたなく呟く。
「どこの倉庫も外に壊れた木箱やその残骸を積んでるからなぁ。
小屋に仕舞っておくだけまだマシでしょうって誰かが提案したんじゃないか?
結局外にも溢れ出てついでに通路を隠すのに使われているけど」
もしかしたら最初は単に整理整頓をしたがる人間が善意で小屋を建てた可能性もある。
船の積み荷に使う木箱は嵐の際にあちこちにぶつかったり、荷下ろしの際に荒っぽく降ろされたり、濡れて板が腐ったりで破損率が高い。
一か所穴が開いたからって木箱全部を破棄していたら金がかかってしょうがないので、基本的にどの商会も壊れた木箱はそのまま取っておいて、無事な部分の板を破損が少ない木箱の修理に使うので壊れた木箱って言うのは港にどんどん積み上がっていく事が多い。
まあ、ある程度以上再利用したら無事な木片なんて殆ど無くなるから薪代わりにでも売っぱらっちまえば良いんだが、そこら辺を面倒くさがって倉庫の傍に積んでいく商会は多い。
だからこの港を見回している時も、各倉庫の周りには再利用待ちの木箱の残骸が数多く積まれていた。
考えてみたら、あれって火事なんかになったら凄い勢いで燃えそうだな。
大丈夫なんだろうか?
まあ、海辺だから火が出たら海水を汲んで掛ければいいのだろうが。
風で飛ばされることもあるし、密航者や浮浪児が住み着くこともありそうだからさっさと木箱を解体して無事な板だけを小屋なり倉庫の中にしっかり仕舞い、腐ったり大きく割れたりした板なんかは処分しておけば良いのだが・・・そこまできっちり真面目に後始末をする様な人間は中堅どころの商会の倉庫係なんてやってないんだろうなぁ。
「・・・他の倉庫では同じような構造物は無いんだな?」
溜め息を吐きながらヴェルナスが聞いてきた。
「今まで確認した範囲では無いな。
ただ、考えてみたらああいう風に倉庫の外に積んである木箱の中も確認してないから、ヤバい品を外に捨て置いた破棄用木箱の中に隠すだけの知恵がある人間がいる可能性もゼロじゃあないぞ」
流石に魔具や呪具や魔石が倉庫の外に置いてある木箱に入っていたら気づくが、元々強風で吹き飛ばされない様に捨て置かれている木箱にも重し代わりに物が入っている事が多い。
それがゴミなのか、密輸品なのかは心眼で視たところで分からない。
「だぁぁぁっぁ!
仕事がどんどん増えていく!!
有難いけど、ボーナスも出るけど・・・もうこれで打ち止めになってくれ~~~!!!」
うが~~~!!と俺とヴェルナスとの会話を聞いていた港の職員が咆哮じみた悲鳴を上げた。
「ボーナス出るならいいじゃん。
俺なんて、地下通路ならまだしもこの小屋モドキな通路じゃあ多分ボーナスは無いぜ?」
なんと言っても密輸品を見つけた訳ではないのだ。
追加報酬項目として契約に入っていないから金は出ないだろう。
まあ、感謝の印に焼き菓子ぐらいは出てくるかも知れないが。
「色々見つけてくれて、感謝はしているんだ。
これに関してもボーナスを払う様、上に言っておくよ」
どうやら部下の咆哮で頭が冷めたらしきヴェルナスが俺に言ってきた。
「ありがとよ。
しっかし、こんなに色々と見つかって大丈夫なのか、うちの国?
ちゃんと港で取るべき税金を取ってなくて、税収不足で普通の住民である俺らの税率を上げるなんて話になったら困るんだけど」
普通にやっていてこれだけ見つかるのってヤバくないか?
「港の一斉調査なんて毎年やっているとなあなあになる面もあるから、数年に一度凄腕な調査員を抜き打ちで連れて来てがっつり調査するんだ。
毎回そこできっちり締め上げて、罰金もがっつり毟り取って密輸された分の元を取っている感じなんだよ。
ここまで見つかったら来年の一斉調査が終わるまではどこも密輸はほぼしないだろうし、数年間は大々的にやる手段も限られるだろう。
そんでもって商会が弛んできて色々と悪知恵を絞るようになったら、また凄腕を頼むことになるんだ」
なるほど。
今回の『凄腕調査官』が俺だった訳ね。
だったらまあ、色々見つかるのは想定内なのか。
金銭的にはそれで良いかも知れないが・・・誘拐されて通関の穴を利用して国外に売られちまった被害者にとってはいい迷惑だろうな。
まあ、港の地下通路を定期的に潰しても、金になる限り何か別の手段で誰かが人身売買をするようになるだろうが・・・。
色々発見されるのは想定内でした。
ちょっと例年よりスケールが大きく根こそぎだけどw