795 星暦557年 赤の月 27日 一斉調査(12)
「倉庫って商会ごとに分けて建てているのって各自別々に調べるためなのか?」
大手の倉庫がかなり終わり、小さめなところへ移動しながらヴェルナスに尋ねる。
「ああ。
基本的に、船が入港したらその船の積み荷を倉庫に降ろして、税務局の人間が調べて問題が無かったら出庫したり出港したりって感じだな。
だからここ等辺ぐらいになってくると商会ごとの倉庫というよりは共同事業ごとの倉庫って感じで、幾つかの商会が共同で倉庫を使っていることも多い」
小規模かつちょっとぼろい倉庫を手で示しながらヴェルナスが言った。
まあ、船も高くつくからなぁ。
幾つかの商会で共同出資する方が沈没した時の損害も軽減できるんだろう。
いつぞやのシェイラの兄貴みたいに商会のトップが許さないから資金自体が足りないってこともあるだろうし。
「つまり、どこが所有しているにしても、倉庫ごとに積み荷の検査をしているから、倉庫間で箱の移動とかは駄目ってことなんだよな?」
だから同じサイズの倉庫を作りまくって大きな商会では複数使うのではなく、大手商会は大きな倉庫を建て、中堅では中型から小型な倉庫を建てて使うのだろう。
「ああ。
まあ、特に取引量が多いダルム商会なんかは2つ倉庫を使っていて紐づけしている船も分けているが、これは特例だしそれなりにあっちも貨物の混合が起きないように気を使っている」
ヴェルナスが頷いた。
「ふうん、じゃあ、そこのごみ置き場っぽいボロ小屋が通路みたいな感じになっているのって不味いんじゃないのか?」
これから入ろうとする倉庫の横にある掘っ建て小屋みたいのを指さして指摘する。
ぱっと見では単にゴミ置き場代わりの小屋っぽく、開いている入り口から見える範囲も壊れた木箱の板とか廃棄されたらしき帆の一部とかが一面に積んであるのが見える。
小屋のサイズが足りないのか、横にも底の抜けた木箱とかが隣の倉庫までのスペースに積んであって通路を塞いでいる。
「はあ?
ゴミだろ、あれ?」
ヴェルナスが首を傾げる。
「中から見せるよ。
中々上手く積んでるぜ、あれ」
心眼で地下通路が無いかを調べるために建物の構造や横にある建築物までしっかり視ていたから気付いたのだが、実はあの掘っ建て小屋、下への階段は無いもののゴミの後ろは木箱を押して通れる程度のそれなりに広い空間が開いているのだ。
倉庫の中に入り、奥に進んで普通に積んである木箱を押しのけて奥にある壁の一部を押す。
「隠し扉か!!」
パカリと外れた扉(単なる板とも言えるが)をどけて、中を覗き込むと普通に通路っぽくなっている。
足元の壁には荷物を動かしやすいようにか浮遊型台車魔具が立て掛けて置いてあった。
またかい。
俺たちの発明品って便利だからって悪徳業者に買われまくってんじゃん。
普通の業者にもちゃんと売れているんだろうな?
悪用しかされていないんだったらそのうち販売禁止されちまうんじゃないか??
溜め息を吐きつつゴミの後ろに隠されていた通路に入り、奥の壁の前に行ってこちらの板を外す仕組みを探す。
「あ、これか」
床に転がっている箱の下に隠されていた。
単なるゴミかと思ったら、扉を開ける仕掛けを隠すための擬装だったようだ。
それを持ち上げて隠れていたレバーを引っ張ると壁がカタンと外れた音がしたので壁を押し出し、横にどけた。
「ちょっと向こう側の木箱が邪魔だから倉庫の中にまで入れないが・・・隣の倉庫だろ、ここ?」
後ろから目を丸くして覗き込んでいたヴェルナスに声をかける。
「だな。
おい!隣の倉庫を封鎖して中に居る人間と両方の倉庫の関係者が港から出ない様に門番に伝えろ!」
ヴェルナスが後ろにいた部下に命じた。
あ~。
しまったな、先に隣の倉庫の出入り口も封鎖させるべきだったか。
こっちは調査を始める段階で人を追い出して封鎖したんだが、隣にはまだ人がいる。
もしかして、これから追いかけっこか?
うんざりしながら、慌てて走り出そうと動き出した人間を心眼で追ったが、幸いにも先頭の人間が倉庫から出たところで走り込んできた職員にタックルされて足止めを喰らった。
他にも2人程中に居たが、最初に逃げた人間が捕まったのを見て諦めたらしく動きが止まっている。
まあ、こっちは普通の密輸入っぽいから人身売買に比べりゃあマシだろ。
きっと地下通路の方で厳罰が出まくるから、他はお目こぼしとまでは行かなくても罰則が少し緩くなるかも?
流石に違反を見つけすぎて交易が止まっちまったら国も困るだろうし。
色々見つけ過ぎw
中世っぽい世界だとこんなモノなにか、アファル王国がダメダメなのか、気になりますね〜。