785 星暦557年 赤の月 21日 一斉調査(2)
「これが港の倉庫地区の地図だ。
番号が振ってある順に倉庫を調べてくれ。
怪しそうな箱があったら指示してくれたら実際に開けて調べるのはこちらの職員がする」
ちょっと疲れた顔をしたおっさん(ヴェルナスという名らしい)が俺に大雑把な港の見取り図っぽい紙を渡しながら説明した。
「なんで片端から順とか、大きいのから順にじゃないんだ?」
見たところ、大きい倉庫の番号が小さいがちょくちょく番号が飛んだと思ったら戻っていると言った感じで不規則だ。
「王都の港に入港したら船から倉庫に荷下ろしして、税関の職員が検査を終わり次第王都へ出荷できるようになっている。
高い係留料を払っている上に大型船が港の場所を占領しちまっている大手商会を優先するのは当然だから、出来るだけ早く荷下ろしが終わった順に調査することになっているんだ」
ヴェルナスが教えてくれた。
「船は調べないんだ?」
ヤバい代物とかは船に残しておいてこっそり夜中に降ろしたりしないんかね?
「アファル王国籍の船はまだしも、他国の船はそれなりに理由がない限り勝手にアファル王国の役人が調べると色々面倒なんだよ。
だから王国へ売る為に倉庫に降ろした物だけを調べている。
その方が早く出来るし臭くないしな」
なるほど。
船によっては家畜を運んだりする場合もあるし、家畜じゃなくても人間だって長い船旅で体を碌に拭くことすら出来ないから入港する頃にはかなり強烈な異臭がするようになる。
確かにそんな船の中を調べるよりは、倉庫で済ませたいよなぁ。
が。
「ヤバい物を積んでて夜中にこっそり降ろして調査済みの箱に紛れ込ませるとか、他の港で降ろして調査するとかになったらどうするんだ?」
普段は通関調査も箱を一個ずつ全部調べるのではなくサンプル検査的に見ているらしいが、今回は一斉調査でかなり念入りにやるらしいから王都で荷下ろしするのを避ける船長もいるんじゃないかね?
「既に荷下ろしが済んでいる船はまだしも、これから入港する船は荷下ろしを避ける可能性はあるが・・・どうせ船乗りなんて酒が入ったら口が軽くなるんだ。
荷下ろしをしていない船なんて直ぐにわかるし、酒が入ったのに口が堅い船乗りとか、船員が降りてこない船なんかは何らかの理由をこじつけてでも船の中を調べるさ。
入港したのに碌に荷卸ししない船は・・・全国の港町に通達を出して次に入港した時にがっつり調査する」
あっさりヴェルナスが応じた。
なるほど。
確かに長旅が終わった船乗りが入港したのに船から降りてこないなんて怪しすぎるな。
酒を飲まなくてもきっと娼婦ギルドからも情報を買っているんだろうから情報は駄々洩れになるだろうし。
まあ、取り敢えず頑張って急いで調べるか。
最初の倉庫に向かいながら積荷目録に軽く目を通す。
・・・というか、これは聞く方が早いかな?
「はっきり言って目録を見せて貰ってもあまり俺には意味がない。
魔石とか、魔具、呪具がある場合は先に教えてくれ。
それ以外に関しては箱に細工がしてあるとか、中身が上部とそれ以外とで違うのとかを探すから」
目録をヴェルナスに返しながら頼む。
アレクだったらどの商会のどの船が何を持ち込んだかって言うのに興味があるかも知れないが、こんだけの倉庫を調べるんだ。
軍(というか税務局?)経由の依頼で得た情報を私的な商会の事業に活用するのは不味い気がするし、現実的な話として絶対に覚えていられっこない。
「呪具は禁輸品だし、魔具や魔石みたいな高額品は入港したら倉庫になんぞに入れず、直ぐに検査担当の魔術師に確認させて通しているから倉庫にそう言う代物があったら全部密輸品だと思って良いぞ」
あっさりとヴェルナスが目録を仕舞いながら教えてくれた。
魔具ってそんなに高額品なんだ??
自分達で造っているからイマイチそう言う意識は無かった。
だが。
「高級な毛皮とか宝石だって魔具に負けないぐらい高額だと思うが、そう言うのはどうなるんだ?」
「高額品は関税も高いからな。
そっちも別扱いで直ぐに通関できるんだよ」
とのこと。
なるほど。
倉庫は関税が一律なもっと一般品用なのか。
なんかこう、商家と国の知恵比べの一端って感じだな。
あまり徹底的に見つけすぎると後で恨まれそうだが・・・大丈夫なんかね?
今さらな気もしないでもないが。
裏社会は意外と国に逆らわないから良いとして、活躍しすぎるとヤバいげな商家に狙われたりw