781 星暦557年 藤の月 30日 更に方向転換(6)
「中で風の吹くシャツって面白いわね~。
今の季節だと寒すぎだけど、暑くなったら重宝しそう」
シェイラに美顔器の最新版と風の吹くシャツを持ってきたら、ウケた。
まあ、シャツの方は手を翳してみて感心していただけで実際に着たわけではなかったが。美顔器の方も、相変わらず顔よりも体全体をさっと綺麗に出来ることが歓迎された。
発掘で遅くまで働いていると風呂に入る時間が中々無いらしい。
宿でも部屋までお湯を持って来てくれるのだが、娘さんが下の手伝いをしている時間帯でないとカウンターが空いてしまうからダメらしく、うっかり書類仕事に熱中していると濡れタオルで拭くだけになるそうだ。
なるほどねぇ。
確かに宿屋の風呂って入りたい時にスッキリは入れる訳ではないよな。
次に長期依頼であちこちの街を回ることになったら俺も美顔器《清浄化魔具》を持ち歩こう。
というか、女性陣の圧倒的支持とアレクのお袋さんの決定で商品名が美顔器になってしまったが、やはり語弊が無いか?
顔よりも体を綺麗にしてすることの方が元々の目的だったのに。
まあ、それはともかく。
「そう言えば、シェイラも夜会とかパーティに出る時にコルセットを使うのか?
ケレナ曰く、コルセットをしないと女はふしだら認定を受けて男どもにお触りされまくるって話なんだが」
これって貴族特有の話なのかな?
「あ~、貴族とか貴族と付き合いのある大手商会の集まるパーティなんかではコルセットを付けておく方が無難ね。
やらかすの男は貴族だって想定だから、貴族じゃないそこら辺の商人までもが貴族っぽい顔をしてどさくさ紛れに触ろうとしてくるのよ」
シェイラが顔をしかめながら教えてくれた。
なんだ。
本当にふしだら認定しているというよりも、やっても顰蹙を買わないで出来そうだからやっているだけなんじゃん。
図々しい。
「ちょっとコルセット代わりに締め付ける効果のある結界を使って、それに冷却効果も付与できないか試している所なんだが試着してみてくれないか?
ケレナに試してもらったんだが、何が駄目なのかイマイチ良く分からないんだ」
胸が押しつぶされて問題外と言われたのだが、何故コルセットで締めるのと結界で締めるのとで違いが出るのかケレナもイマイチ分からなかったのだ。
ケレナの場合は基本的に侍女に着せてもらうだけの立場なので、もしかしたら着る方を手伝ったことがあるかも知れないシェイラの方が役に立つ視点を提供してくれるかもと試作品を持って来てみた。
俺が持ってきた上部と下部の端に細い銅線を編み込んだ薄い布を手に取ってシェイラが首を傾げた。
「まず、ウエストでくびれなきゃだめだから。もう一本下から3分の2ぐらいの所に紐でも付けて絞る形にしなきゃダメでしょ。
それとも結界って魔術回路の中で形を自由に設定できるの?
ウエストの一番細い部分から上に付けるだけじゃあお尻のラインが綺麗にならないわよ?」
なるほど。
尻はカバーしなくて良いんだからと思っていたが、ウエストから尻までの腰辺りのラインは調整して見せる必要があるのか。
「で、どうやってこれを付けるの?」
シェイラが上着を脱いで、シャツの上からコルセットモドキの布を巻いてこちらを見た。
「こうやって重ねてこことここが触れるようにしてこのボタンを押せばいい」
重複している部分は無視して、残りの所で多少膨らんで締め付ける形になる。
多分。
ふわっと魔具が起動したのを面白げに鏡で見ていたシェイラだが、中に指を突っ込もうとして首を振った。
「なにこれ?
大して緩くないのに指を中に差し込めないって不思議。
でも、これじゃあ全方向から締めるだけで駄目よ。
コルセットのポイントは、締めて細くするだけじゃなくってその際に背中とか脇の肉を胸の方に寄せ集めることにもあるの。
だから後ろの方から力が入って行っていい具合に胸の方に向かって締めて行って肉をバストに寄せさせるか、手でちゃんと寄せられるようにしながら締められないと意味がないわね」
魔具の上から手ぶりで肉を寄せている感じに動きを真似て見せてシェイラが説明した。
なるほど!!
コルセットってただ単にむぎゅって締めるだけじゃなく、余分な肉を何とかして動かして胸の偽装をしているのか!!!
どの程度動くのかは知らないが、多少は違いがあるんだろう。
とは言え。
元は拘束用の結界なのだ。
中に指を入れて緩められたり出来ない構造になっているから、手を差し込んで肉を動かすって言うのは難しいな。
力が掛かる順番を指定して背中から順に肉を追いやる感じで締めていけるか?
・・・なんかこう、面倒だから幻影系の術で見た目だけ誤魔化す訳にいかないのかね?
幻影系で誤魔化すとなったら何でもアリでダメそうですよねぇ。