078 星暦550年 桃の月 7日 盲点
当然のように物心がついたころから視えていたモノが他の人間には視えていないというのは驚きだった。
・・・個々の人間が物理的に目で見えている風景って本当に他の人間が見ているのと同じものなのだろうか?
◆◆◆
「店の者と話したら、絹の方が圧力をかけても後から厚さが変わらないらしいから、絹の端切れを重ねて調整しようと思う」
アレクが端切れを作業台の上に置きながら説明した。
「分かった。じゃあ、1枚から始めようか」
シャルロがあっさりうなずき端切れを手に取った。
流石侯爵家の息子。
絹の端切れなんて何とも思わないようだ。
俺だったら殆ど目にかかることのない絹となったら思わず撫でて手触りを確かめたりしてみるところなんだけどねぇ。
さて。絹の端切れ1枚では近すぎるらしく、魔石モニターとしてちゃんと機能しなかった。
2枚だとまあ少しはマシだが、まだ微妙。
3枚目でいい感じ・・・かな?
ガラスカバーをかけてみると、いい感じに魔石の魔力保有量に反応しているようだ。
扉に魔石モニターの術回路を埋め込み、絹の布で間隔を調整して火器の魔石を入れる。上にガラスカバーをかけて固定したらいい感じに一杯な魔石と出火レベルぐらいの魔石の違いがはっきり見えた。
ついでにその他色々なステージの魔石を創って試してみる。
うん、いい感じに違いが見える。
「これで実習用のブツは終了と言うことにしようか」
他の二人も異議が無いようで、あっさりと頷く。
後は奪った熱の効率的なエネルギー転換だよなぁ。
「自然に存在する魔石や、私たちが魔力を注ぎ込む場合は別にその魔力を何に使っても別に効率性に差は無い」
アレクがゆっくりとつぶやいた。
「つまり、凍結庫からのエネルギーには属性が付与されていて停止魔術に適していないというところか」
停止魔術の属性って何なのだろう?
「凍結庫のエネルギーを魔石に蓄積する際に属性を排除出来ればいいんだよね。じゃなきゃ停止魔術の属性を付与するか」
「停止魔術の属性って知っている?」
思わず二人に尋ねる。
「ウィルこそ、視えないの?」
だが、シャルロに逆に聞かれた。
「魔力の属性というのは色として視える人間には視えるらしいが・・・どうだ?」
アレクまで尋ねてきた。
・・・。
「そりゃあ、どの魔力だって色は付いているけど。あれって属性だったの?!」
あまりにも当然に千差万別な色が見えていたからあれに意味があるなんて考えてみたことも無かった・・・。
「色が見えるってどんな感じに見えるの?」
シャルロが好奇心いっぱいに尋ねてきた。
「どんな感じって・・・。物体に色があるのと同じように、魔力だって色があるだろ?お前たちだって視えない??」
アレクが肩をすくめてみせた。
「普通の魔術師にはよほど極端にはっきりした属性じゃない限り、視えていないと思うぞ。
私にとって魔力は光のように視える。だが、停止魔術も発火の魔術も術の一部だけ見せられて結果が見えない状況だったら、どちらの魔術か分かるほどは見わけがつかないな」
「僕も。水の属性の魔術には蒼流の気配がする気がするから何とはなしに『水かな?』って思うことが多いけど」
えぇぇぇ!?
驚きだ。
もしかして、普通の魔術師って軽度の色盲みたいなものなのだろうか。
だが。
一言で色が属性だと言われても、魔力の色は本当に多種多様だ。
二つとして同じものは無い。
まあ、傾向として近いモノはあるが。
「魔力の色を言葉で説明するのも難しいな。
片っぱしから魔術を挙げて俺から視た色に分類して、それが本当に属性を表しているようなのか試してみないか?」
魔術の属性と言うモノに関して、あまり授業では習ってこなかった。
図書室でもあまりそれに関する本を読んだ記憶は無い。
術同士の相性という考え方はあっても、属性として体系だって研究してきた人間があまりいないのかもしれない。
・・・これってちゃんと分類分けしたら後で色々役に立つかも?
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