779 星暦557年 藤の月 29日 更に方向転換(4)
「お尻は冷やさなくてもいいわ」
尻周りから前は太ももから胸元まで肌着に細い銅糸を縫い付けて範囲指定した薄い結界内を冷やす魔具を造ってケレナに着てもらったところ、尻を冷やすと居心地が悪いと言われた。
ちなみに背中もダンスで手を当てる腰以外の上部を結界で覆うことを希望されたのだが、男性側の身長によって下心無くても触れる範囲がかなり広い事が判明してこちらは断念。
まあ、体の前面が冷えていたら背中が暑くても、それ程汗だくにはならないだろう。
多分。
変な所を触る不届き者はうっかりヒールでぐりっと足の小指でも踏み潰して制裁すれば良いだろう。
「だったら尻の結界も無しにして前面だけにしないか?
その方が簡単だし壊れにくいぞ?」
冷やすための結界なのだ。
冷やすなと言うなら結界が無い方が良い。
「でも、尻を触れてくる不埒な野郎どもの手を弾けるのは嬉しいのよねぇ・・・」
悩まし気にケレナが言う。
嫌な事だったらかなりはっきり嫌と言うケレナですらこれほど悩むとは、どんだけ貴族の舞踏会って嫌な活動なんだ。
「そんなにスケベジジイに弄られることが多いんだったら、舞踏会なんて行かなければ良いんじゃないか?」
もう結婚したんだ。
夜会とか舞踏会とかに出席しなければいけない訳でもないんじゃないのか?
結婚するまでは貴族の娘は両親の意向にある程度従わなければならないが、結婚した後は夫以外から何かを命じられる謂れは無くなる筈。
しかも夫婦の力関係は必ずしも夫の方が強いとは限らないし。
どちらにせよ、シャルロだったら絶対に無理に舞踏会に参加しろなんて言わないだろうに。
「あら、夜会で友人に会ったり、仲のいい友人や親族と踊るのはそれなりに楽しい時もあるのよ?
ただ、そう言う時に断りにくい嫌な男が寄ってくると折角の楽しい夜が台無しになるから何とかしたいだけなの」
ケレナがあっさり俺の言い分を却下した。
「そんだったら尻とか背中の際どい場所を触れたらビリっと痛みが走るような防御用の魔具を身に付けたらどう?
静電気程度にしたら気のせいだと思うかも?」
シャルロが提案する。
つうか、シャルロの奥さんに不届きなことをしたら、それなりに蒼流がお仕置きしそうな気もするが・・・頼まれなければ手は出さないのかな?
「う~ん、どうせだったら踊ること自体を断れればいいのよねぇ。
相手が急にお腹が痛くなるような魔具ってないの?」
ケレナが物騒なことを言いだす。
「流石に踊る為に手を繋いだだけでその場で即座に相手を不調にするような魔具はないよ~」
笑いながらシャルロが応じる。
つうか、そんなのがあったら強度を高めたら暗殺に使えそうで怖すぎる。
考えようによっては暗殺用の超高級な道具にそういうのに近い効果のがあるかもな。
あ、指輪で挨拶の際にチクッと刺したら毒を注ぎ込むタイプがあったか。
でもあれは基本的に相手が死ぬような毒を使うからなぁ。
お腹が痛くなって自分から誘った踊りをその場で辞退するようなタイプの毒はない気がする。
力が抜けて倒れちまうタイプの毒もあるかもだが・・・流石に尻を触られるのが嫌だからって毒針を刺して回る訳にもいかないだろう。
下手をしたら足がもつれて倒れる際に巻き込まれる可能性もあるし。
あの邪魔そうなドレスを着ていたら、目の前の男が倒れ込んできた時に素早く避けるのも難しいだろう。
下手に抱き合うような感じで倒れたりしたら、余計に悲惨だ。
「取り敢えず、体の前面だけを冷やしたら踊っていても汗がそれ程酷くないか、試してみよう。
肌着をちょっと貸して?」
シャルロがケレナに下着を寄越せと要求する。
まあ、ケレナの尻はシャルロが守ってやるんだな。
取り敢えず、俺たちは汗問題に集中しよう。
・・・考えてみたら、シェイラも舞踏会みたいなのにいく事があるんだろうか?
個人用に特別造るんだったら尻周りだけカバーする結界用魔具を造ってもいいが・・・シェイラだったらビシっと相手の弱みを抉るような言葉でさっさと辞めさせる気がするな。
うん、彼女には踊りの時の尻防御よりも、発掘時用に最初の失敗版の風が吹くシャツの方がありがたられるかも。